第430話 昇級条件
「ソロで金級に到達したと言う事は、デミトリさんが白銀級のパーティーに所属している冒険者相当の実力があると、そう冒険者ギルドが認めた事になります。昇級した事によって金級以下の冒険者が不用意にデミトリさんにちょっかいを掛ける抑止力になるはずです」
『抑止力』か……完全に避けられると言い切れないのは仕方がないのかもしれないが、不安が残るな。
「心配そうですね」
「すまない、顔に出ていたか?」
「ええ。そうですね……公にしてない情報なので詳細をお伝えする事は出来ませんが、デミトリさんなら話しても問題ないでしょう。白銀級以上の等級に昇級するためには、ギルドへの貢献と実績以外にも色々と条件があります。白銀級以上の冒険者からちょっかいを出されることは基本的にないとだけお伝えします」
白銀級以上の冒険者に絡まれる可能性が低いと言われても……割合で考えると金級以下の冒険者の方が多いはずなのでそこまで安心は出来ないな。
それはさておき実績と貢献以外の昇級条件、か……ダニエラの説明を聞いてレオの事を思い出す。
規格外の実力を持ちながら他者からの妬み嫉みを受けても腐らず、仲間思いなだけでなく出会ったばかりの俺にも道を示そうとしてくれた。
想像でしかないが……いくら実力があってもその力を間違った形で振るう人間は冒険者ギルドにとって不要な存在なのだろう。白銀級以上の等級を得るためには、人格者である事が求められるのかもしれないな。
「訪れたばかりの都市で地元の冒険者と問題を起こしてる様じゃ、俺は白銀級以上には相応しくないという事で良いだろうか?」
「何を考えてるのか分かりませんが、デミトリさんに非が無いのは明らかなので今回の一件は昇級時の審査を影響しませんよ」
これ以上無暗に等級を上げられないように牽制したつもりが、思いの外事務的な返答が返って来て戸惑う。
「……ギルドとしても問題を起こす冒険者が変に昇級してしまうのは避けたいだろう? 俺も実力に見合わない評価は受けたくない」
「冒険者登録をする際に署名された契約書類に書かれていた通り、デミトリさんは昇級も降級もギルドの決定に従う事に了承してますよね? 昇級条件を満たしていれば、デミトリさんの自己評価に関わらず昇級して貰う事になります」
「……ギルドの判断が不当だと思えば、抗議する手立てがあるとも契約書類には書いてあったはずだが……」
「珍し――そこまでちゃんと契約書を読んでる冒険者に会うのは初めてかもしれません」
ダニエラが呆れたように首を傾げているが……。
「何が書いてあるのか分からない状態で契約書に署名なんて出来るはずがないだろう」
「ギルドへの入会手続きをする時、必ず内容を読むようにと案内してもほとんどの新人冒険者は流し読みすらしませんよ? とにかくその条項は『不当な降級』のみが対象で昇級は該当しません。大体、昇級に対して抗議する冒険者なんて基本的にいませんよ?」
それはそうかもしれないが……他の冒険者達が昇級を認められる平均期間を知らない俺でも、この昇級速度は異常だと分かる。それこそ、端から見れば不当に等級を上げられているのではと言う疑念生み出す原因になりかねないと思うが……。
「デミトリさんは冒険者ギルドが冒険者の等級管理を正しく行わないと、色々と弊害が生じるのは理解してますよね? 正当な理由が無い限り昇級も降級もしないので、また昇級の機会があったら諦めて受け入れてください」
「……分かった」
「心配なのは理解できます……ソロで金級まで到達した冒険者はほんの一握りです。金級であることが不要なちょっかいややっかみを防ぐ盾になる反面、等級に相応した注目も浴びると思うのでその一点は心して下さいね」
――――――――
「ピー?」
「気になるのか? 丈夫だと思うが、傷が付いたら大変だからあまり突かないでくれ」
冒険者ギルドを出て、金色の枠が気になるのかシエルが俺の首元に下げた冒険者証を嘴で突こうとするシエルを止めながらシャツの中に冒険者証を隠す。
前の冒険者証の時は然程興味を示さなかったが……シエルは金色の物が好みなのかもしれない。
「相変わらず冷ややかな目で見られているな……長居はしないほうが良さそうだ」
「ピ?」
シエルとのやり取りを、冒険者ギルドの周囲に居た人間に観察されているのに辟易する。何も悪い事をしていないのにおどおどするのもおかしな話だ……堂々と振舞うしかないな。
「お腹は空いてるか?」
「……」
本当に賢い子だな……首を振ったシエルの頭を優しく撫でてから市場の方へと歩き出す。
「それじゃあ先に買い物を済ませよう」
「ピー」
「文通する相手も居ないし、便箋を買う機会なんて訪れないと思っていたが人生何があるか分からないな」




