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第428話 見えない脅威

「シエルを預かってくれてありがとう、助かった」

「ピ!」


 部屋の外で待っていたカミールに感謝するのとほぼ同時にシエルが俺の肩に飛び移って来る。


 丁度シエルの事を撫でていたのか、空になってしまった両手を掲げて珍妙な格好をしたカミールが慌てて腕を降ろしながらこちらに近寄って来た。


「どういたしまして! デミトリさんだけ退室したみたいですけど、話し合いは終わったんですか?」

「ある程度話が纏まったが、エリック殿下とイーロイさんはまだ少し掛かりそうだ。取り敢えず俺だけ暇を貰った」

「そうでしたか! それではそりにご案内しますね」


 その前に……。


「すまない、もし可能ならナタリア様の部屋を訪問したいんだが――」

「あ! えっと……今はちょっと難しいかもしれないです」

「そう、か……」


 ヒエロ山で別れてから、悪戯にヴァネッサ達に会わない時間が過ぎているが本当にこのままで良いのだろうか……。


「えっと、ヴァネッサさん達は元気ですよ!?」

「それは何よりだが……」


――――――――


「デミトリさんもヴァネッサさんも、会って話したがってるのにこのままでいいのかな……」

「私も意味が分からないから確認したけど、ニルさんに見守れって言われた以上私達は指示に従うしかないでしょ」


 意外だ……リーゼが命令に疑問を抱いただけじゃなくて、わざわざニルさんに確認までしてるなんて。


「何よ? 私の顔に何か付いてるの?」

「い、いや! そういう訳じゃなくて……」

「なんだ、喧嘩か?」

「「ルーク」」


 大きさが合ってないボルデ産の防寒具を着たルークが控室に入って来た。


 偵察任務のために変装してるのは分かるけど、やぼったい着こなしだけじゃなくて体の動かし方まで変えてて普段と印象が全く違うのは流石としか言いようがない。


「二人共今まで王家に任された任務一筋って感じだったのに、デミトリに出会っていい刺激を受けてるみたいだな」

「あなたは誰目線で語ってるのよ……」

「間違ってはないだろ? カミールも活き活きしてるし、リーゼなんて練習を続けて新しい魔法まで編み出し――」

「なんで知ってるのよ!」

「辺境伯邸の広い敷地内とは言え魔法を放ってたら嫌でも気づくだろ」


 ルークの指摘にリーゼが複雑な表情をしてるけど……。


「リーゼだけじゃなくてルークも練習してたよね?」

「うっ……俺も見られてたのか。一応デミトリの話を聞いた後土魔法でどれだけ深い穴を掘れるのか試してるけど、俺の方はあまり成果は出てないな」 


 皆、デミトリさんが言ってた異能対策をきっかけに特訓を増やしてる。僕もそうだけど……。


「心配なのか?」

「うん……」


 デミトリさんがヴィーダ王国に来てから色々と起こり過ぎてる。


 昔読んだ英雄譚でも、色々な偶然が重なり合って激動の時代を主人公が渡り歩く話が多いけど……てっきり読み物として面白くするために脚色してるんだと思ってた。


「開戦派と光神教会の陰謀阻止、ガナディア王国の勇者召喚と魔王の再来、アムール王国第一王子の失脚、幽氷の悪鬼の出現と討伐……呪われてるのかって位――いや、本人が言ってたから実際呪われてるのか……直近で起こった出来事の一つ一つが国を揺るがす規模の物で、その全てにデミトリが絡んでるからな」


 ここまで歴史書に残る様な出来事が連続で起こるなんて、それこそ物語の中でしかあり得ないと思ってたのに……。


「これ以上何も無ければ良いけど……」

「何めそめそしてるのよ。何があっても王家とヴィーダ王国を守るために私達が居るんでしょ?」

「リーゼ……!」


 そうだよね。僕も頑張らないと……!


「リーゼの言う通りだ! カミールとリーゼが人一倍頑張ればなんとかなるって」

「そこはルークも頑張るって言いなさいよ!」

「俺は給料分以上の仕事はしない主義だから無理だ」


 ルークは笑いながらそう言ってるけど、自分の任務とは関係ないのにわざわざ僕達の様子を見に来てる時点で説得力が無いよ……リーゼと同じでこっそり魔法の特訓もしてるし。


「もう……こんな所でさぼってていいの?」

「さぼりって……休憩しに戻って来たばかりなのに酷いな。軽く飯を食べたらまた出るよ」

「ルークも大変だね……魔族の手掛かりは見つかったの?」

「今の所は何も見つかってないな。幽氷の悪鬼が特殊な例で、ヴィーダ王国にはもう魔族は居ないのが一番助かるけど確証を得られるような事でもないからな。当分は警戒を続ける事になると思う」


 見つかるかどうか分からない魔族を警戒し続けるのも、デミトリさんと勇者が居てやっと倒せるような敵を単身で探すのも相当な心労なはずだ。


「……無理だけはしないでね」

「心配してくれるのか? ありがとな! でも大丈夫だ、万が一魔族に出会っても全力で逃げる」

「あのね……自信満々に情けない事言ってて恥ずかしくないの?」

「全然? リーゼ達も……エリック殿下達を守るため以外の理由で無茶は絶対にするな。命を無暗に散らすのは俺達の事を拾ってくれた王家に対する最大の裏切りだ」


 いつになく真剣な表情で諭すように話すルークの変わり様に戸惑う。


「……分かってるわよ。無茶はしない」

「約束だぞ?」

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