第426話 依頼を紹介した理由
「以上、です!」
「報告してくれてありがとうイーロイさん。本当に無理しないで、普段通りの話し方でいいからね?」
「ぁい!?」
『報告は俺に任せてくれ!』と言ったイーロイに事情の説明は任せっきりだったが、未だに王族にタメ口で話すのは踏ん切りがつかないみたいだな。
「で、デミトリはどうしたい? その冒険者達処す?」
「そんな事はしたくない。エリック殿下も分かって言っているだろう?」
「うん。デミトリはそう言うのが嫌いなのは分かってるよ……個人的には処す方向で進めたいけど」
冗談っぽく言っているが、無意識に身体強化を発動してるのかエリック殿下が掴んでるソファのひじ掛けが悲鳴を上げている。ヴィーダ王やアルフォンソ殿下同様凄まじい魔力量だな……過去戦いに向いてないと言っていたはずだが……。
「うーん……中々悩ましいね」
「そうだよな、っすね!?」
「イーロイさん……ちなみに冒険者ギルドとしてはどうしたいの?」
「規則に沿って罰するなら、最低でも降級……事情聴取した時の態度も……今後反省や更生の余地があったとしても、現時点では手を出した相手が悪かっただけでその行動に至った考えに問題があるとちゃんと理解できてるのかが微妙だ……」
言葉を選びながらゆっくりとギルドマスターとしての見解を口に出すイーロイを急かさないように、俺と殿下が静かに話を聞いていると少しずつイーロイも口調が楽になって行く。
「デミトリが心配してたみてぇに、他の冒険者にも同じことをしちまうか発覚してないだけでもうしちまってるかもしれねぇ……」
「常習性があるなら冒険者証の剥奪も視野に入るってことだよね? ギルドがそこまで重い処罰を与えるとなると、ヴィーダ王家が何も罰を求めないのはおかしいってなっちゃうけど……そうなるとヴィーダ王家がかなり怒ってるって心証をボルデの住民が受けるだろうから冒険者ギルドへの不信感は増しちゃうね」
エリック殿下の指摘にイーロイが顔を歪む。
「でも、罰を与えねぇ訳には……」
「冒険者ギルドが罰を与えずに注意程度に収めたら自分で言うのもなんだが……王家の賓客で幽氷の悪鬼討伐に協力した人間をないがしろにして、冒険者を贔屓しているように見えるから得策ではないな」
「……そんでもって冒険者ギルドもヴィーダ王家もあいつらを罰さなかったら、何か裏があるって勘繰られるだろうし……」
『ヴィーダ王家の賓客に無礼を働いた』あるいは『幽氷の悪鬼討伐の功労者に無礼を働いた』のいずれかならここまで話がややこしくならなかったはずだ。自分の立場を忘れて思いのままに行動してしまったのはあまりにも迂闊過ぎた。
「……この際、俺と奴らが出会わなかった事には――」
「出来ねぇな……」
「ギルドの方でそう言う決まりがあるの?」
「はい。ギルドマスターやギルド職員の裁量でそんな事が出来ちまったら、不正の温床になっちまうんで……」
そういった規則が整備されているのは本来素晴らしい事だが……出来れば今回に限ってもう少し柔軟な対応をして貰いたい。
「冒険者ギルドが各国の都市に支部を置いているのは知っているが、最高責任者はどこに居るんだ?」
「大陸の西……ハラーン王国の更に先にある迷宮都市だ。今回の件に付いて特別措置を取っても良いのか、事情を共有した上で決議に掛けて貰うにしてもかなり時間が掛るな」
「なるほど……」
「今回の件が明るみに出るまでに決着をつけるのは絶望的だな……」
イーロイは諦めきっているが、そんなに早く情報が出回るだろうか??
「説明しといた方がいいな。対策部隊が帰還しなかったアヴリル達について冒険者ギルドに確認しに来ちまったから、あいつらが謹慎中なのはもう気づかれてる」
「あー……」
エリック殿下残念そうに声を漏らしたのを見て、イーロイが呼吸を整えてからまた話し出す。
「加えてデミトリがヒエロ山の麓でクリク草を採取した事もすぐに知れ渡るだろうし、同じ時期に森に居たのがアヴリル達だけでお前らの間で何かがあったんじゃねぇかって気づかれるのも時間の問題だ」
「……なんでクリク草の事が知れ渡るんだ??」
「あの依頼の依頼主はボルデを拠点にしてる商会長だ。対策部隊への無償の物資提供だけでなく、商会員達が幽炎対策を手伝ってくれてる。気前の言い人なんだが……自慢話が大好きだ。ヒエロ山の戦いで対策部隊を守って勇者と幽氷の悪鬼を討伐した『滅死の魔術士』が自分の出した依頼を達成してくれたって自慢しねぇ訳がねぇ」
……あの依頼は緊急性が高いと言っていたが、もしかして……。
「……イーロイさん。俺にあの依頼を紹介したのは――」
「すまねぇ……幽氷の悪鬼が居なくなって増えた魔獣にクリク草が食われちまうのが心配だったのは本当だ。ただ……ボルデ一の大商会との取引が停止したら流石に冒険者ギルドの運営に支障が出る。利用するような形になっちまって申し訳ねぇが、あの依頼を任せた背景には――」
「あー、皆まで言わなくても良いぞ?」
申し訳なさそうに説明し出したイーロイを制止する。
イーロイの人柄は何となくだが掴めている。申し訳ないと思いつつ敢えて俺にあの依頼を任せたのは、私腹を肥やしたり私利私欲の為ではなく、あの依頼を達成する事がそれだけ冒険者ギルドにとって重要な事だったからのはずだ。
「俺は冒険者ギルドに協力すると言った。どんな事情があって依頼を紹介されたとしても、それも協力の範疇だろう」
「デミトリ……! かたじけねぇ……」




