閑話 一方その頃
「後数日でヴィーダ王国に着くのか……」
「不安なの? ソフィーは相変わらず心配性だね」
「ソフィアって呼べっつってんだろ!! それに私が考え過ぎなんじゃなくてカリストが行き当たりばったりなだけだろ!!」
参っちゃうな。ソフィアは強気な性格だからここまでナーバスになるとは思ってなかったけど……生まれ故郷から引っ越すって考えたら、大きな決断だし心配しちゃうのは普通だよね……。
僕達を迎えに来た王家の影の人曰く、デミトリ達はもうヴィーダ王国の辺境にある都市に到着したみたいだけど……。
「幽氷の悪鬼が出たって噂もあるし本当に大丈夫なのかよ……」
「デミトリ達が困ってたら僕達が助ければいいさ!」
「あのな……カリストはともかく私はただの治癒術士で――」
「そんなに謙遜する必要はないよ! デミトリと僕を治療した手腕は一級品だって僕は知ってるから」
「……調子が良い事ばかり言いやがって……まぁ、頑張るしかないか」
言葉遣いは荒いけど、心配なのは固く結んだソフィアの手が震えてる事だ。急に巻き込まれて違う国に旅立つのはかなりストレスなはずだけど、僕に出来る事は……。
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「えっと、ソフィーはお酒が好きだよね!?」
「……そうだけど、急にどうしたんだ?」
カリストの中ではもう私の呼び方はソフィーで固まっちまったみたいだな……家族以外に呼ばれた事ないのに……。
勢いでヴィーダ王国に行くことを決めたけど、冷静になってみると本当に最善の選択だったのか分からない。
「ヴィーダ王国に着いたら、とびっきり美味しいお店に連れてってあげるから楽しみにしてて!」
カリスト……そんなに目を泳がせて。別にヴィーダ王国出身でもねぇから宛なんかないだろうに……。
必死になって私の事を気遣ってくれてるのは十分伝わった。自分が不安だからってカリストに当たって良い理由にはならねぇし、反省しないと……。
「……ありがと」
「!? ソフィーが満足するお店を必ず紹介するから期待してて!!」
隠せてるつもりかもしれねぇけど、自信満々な発言とは裏腹に滝の様に汗をかいてるカリストを見て笑いが込み上がって来る。
「ふっ……滅茶苦茶楽しみにしてる」
「うっ……任せて!!」
あまり揶揄うのは良くないかもしれないけど、反応が面白くてつい一言余計に言っちまった。
カリストは……悪い奴じゃないのは分かってる。でもデミトリとやり取りをしてる時もそうだったけど、なんだか無理してる様な気がするんだよな……。
「カリストもいける口なのか?」
「も、勿論だよ!?」
本当か……? まぁ、酒が入ったら変な虚勢を張らずに腹を割って話してくれるかも知れないし、その時に色々と聞くか。




