閑話 一飯の恩
「やっぱ幽炎じゃねぇじゃねぇか!!」
「おい!! この森で何をしてる!?」
美味しかった……チュパ・カブラのお肉を食べたのはいつぶりだろ?
「話を聞いてるのか!?」
久し振りに薬草を採取したけど楽しかったなぁ~。お肉もそうだけど、デミトリには感謝しないと。
「無視するな――ほーう? 不気味な外套をしてる割に、中身は別嬪さんじゃないか」
「……離して?」
「やっと話す気になったか」
「デイヴィッド、こいつ見ねぇ顔だけどボルデを見捨てた冒険者じゃねぇか?」
「ちっ……名を名乗れ!!」
そんなに強く握られたら外套に皺が出来ちゃう……せっかく美味しいご飯を食べて良い気分だったのに。
「名を名乗れと言ってるだろう!!」
「忠告するのはこれが最後だよ? 離して?」
「調子に乗っ――んぎゃあああああ!?!?」
「デイヴィッド!?」
やっと離してくれた。皺は……良かった! 大丈夫そう。
「ああああああああ!?」
「デイヴィッド、デイヴィッド!!!? てめぇ!!」
「剣を抜いたって事はあなたも私を襲うつもり?」
「分かり切った事を――あああああああああ!?!?」
「はぁ……」
ご飯を食べ終えた後で良かった。
人が焼ける臭いってなんでこんなに気持ち悪いんだろ? 大抵のお肉は焼いたら美味しい匂いがするのに。
「ひっ!?」
「そんな所に隠れて、君もこの二人の仲間?」
「こ、殺さないでくれ! 俺はそいつらとは違う!!」
服に匂いが付いたら困るし、さっさと片付けたいからあまり時間を掛けさせて欲しくないな。
「質問に答えて、仲間でしょ?」
「な、かま、だ……でも戦う気はない!! 報告に帰って来なかった冒険者達の代わりに、森の状況を確認しに来ただけなんだ!!」
「そうなんだ。でもそれって私に関係ないよね?」
「へ? ああああああああああああああ!?!?」
他に隠れてる人間は……いないね。
「もう、野営地が滅茶苦茶だよ……」
空気に漂う嫌な臭いを掻き消すために三人組の死体を炎の魔法で消し炭にしながら溜息を吐く。
周りが敵だらけって意識するだけできついのに余計なちょっかいは掛けないで欲しい。
魔王様に言われてエフィルって鬼の様子を見に来たけど……全然見つからないしもう帰りたいな。元々エフィルと面識も無いし、人間の国に潜り込むのも久しぶりだから魔王様の命令とは言えあまり気が乗らなかったし。
「はぁ……」
デミトリみたいに話が通じる人に出会えて、昔人の振りをして暮らしてた時に得た薬師としての知識をお披露目出来て、お肉まで分けて貰って……久しぶりに機嫌が良かったのに……。
「……近くには誰も居ないけど、念のため移動した方が良いよね」
これから撤収作業をして、移動して、また野営の準備……お腹がいっぱいの状態で気持ちよく寝れそうだったのに……。
「……」
苛々する。
あの人達は近くの城塞都市から来たのかな? 迷惑を掛けられた分、火球の一つや二つ都市に放っても……。
「やめよ……そんな事したら、せっかくクリク草を採取できたのにデミトリが依頼を達成出来なくなっちゃう……」




