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第424話 無自覚

「どうしてここに――」

「そうだよな、気になるよな……」

「焚火の後処理は私がするのでお二人は馬車に乗って下さい」


 遠くから見えていたもう一つの人影は冒険者ギルドの受付嬢だった。本当になぜ二人揃ってここに……?


「ダニエラ……ありがとう。デミトリ、付いて来てくれるか?」

「ああ」


 停車している馬車の御者は……俺を明日迎えに来てくれる予定だった御者だな。俺と目が合った御者が軽く手を上げたので俺も返すように片手を上げてから馬車の屋形に向かって歩き始めたイーロイに続く。


 御者が扉を開けるのを待たずに乗り込んだイーロイの後を追って馬車に乗り込み、対面するように着席した。心なしか午前中に遭った時よりも更にイーロイがやつれているのが気になるが……。


「……何か問題があったのか?」

「依頼に向かう途中、冒険者パーティーと揉めただろ?」


 突っかかって来たあの冒険者達の事か……。


「すまない……ギルドに戻り次第報告するつもりだった」

「早速で悪ぃけど何があったのか話を聞かせてくれねぇか?」


 ……やはり、対応を間違えてしまったみたいだな。


「分かった。ヒエロ山の麓に到着してから順を追って説明する――」


――――――――


 イーロイに同行していたダニエラと呼ばれた受付嬢は、気を遣ってくれたのか話の邪魔にならないように御者台に座ったようだ。


 包み隠さず俺の視点から何があったのかを話し終えた頃にはイーロイが頭を抱えながら俯いてしまい、ゆっくりと雪道を進む馬車の音だけが二人きりの屋形の中に響く。


「……話してくれてありがとう」


 なんとか落ち着きを取り戻したイーロイが顔を上げたが、かなり深刻そうな表情に息を吞む。


「デミトリの報告を聞いた上で確認したい事があるんだが、いいか?」

「勿論だ」

「魔力を開放して威圧した理由は話を聞いてて何となく分かる、だが……例えば幽氷の悪鬼の死体を見せてあいつらを黙らせるなり、他の手段を取らなかった理由を教えてくれねぇか?」


 何が起きたのかを報告した際、なるべく私情を挟まず俺とあの冒険者達の行動と発言だけを伝えていた。報告だけ聞けば俺が急に激昂したような印象を受けてしまい意味が分からなくてもおかしくない……。


 イーロイの指摘に恥ずかしさを感じながらも、正確に報告するために覚悟を決めてあの時の心情を改めて頭の中で纏めてから話し出す。


「……威圧してしまったのは、話が全く通じなくて俺も冷静さを欠いていたからだ。無礼な態度を取ってくる横暴な相手に対して、素性を明かす義務も義理も無いと途中から意固地になっていたんだと思う」

「なるほど」

「そのせいで視野が狭くなり、幽氷の悪鬼の死体を見せるみたいな他の選択肢すら思い浮かばなかった……申し訳ない」

「悪ぃ、責めてる訳じゃねぇから謝らないでくれ。冷静さを欠いてたっつってもその判断は正しかったと思う……話が通じねぇ相手にあの死体を見せても、信じてもらえないか『なんで死体を出したんだ!』って余計状況が悪化する可能性の方が高ぇし……」


 イーロイが屋形の天井を見上げながら片手で目を覆って硬直する。しばらくしてから思い出したかのように大きく息を吸って、深い溜息を吐いた。


「はぁ……」

「忙しい時期に余計な問題を起こしてすまない……わざわざ迎えにまで来させてしまって――」

「あー、勘違いをさせちまったみたいだな。今回の件、デミトリは一切悪くないし余計な面倒を起こしたのはあいつらだ」

「だが……」

「俺がデミトリを迎えに来たのは……事実確認をしてから、デミトリがどうしたいのかを確認するためだ」


 俺がどうしたいのか……??


「俺は特に何も……? 今回の件については俺の対応も最善ではなかった。奴らだけでなく、俺も何かしらの罰が与えられるなら冒険者ギルドの裁定に従うつもりだ」

「……デミトリが罰せられることはないから安心してくれ。ったく、アヴリル達は……なんでこんな話の分かる相手にあんな馬鹿みてぇな事を……」


 苛立っているのかかなり強めに頭をガシガシと描きながらイーロイが話を続ける。


「今回の被害者としてあいつらに求める賠償を聞きたかったんだが、その様子だと本当にギルドが決定した以上の罰は求めてないんだな?」

「冒険者ギルド側で公正に判断してくれるのであれば特には……ただ相手が俺だから良かったものの、ボルデを拠点にしていない奴らよりも弱いソロの冒険者が同じ目に遭っていたらと思うと、今回の件を不問にされてしまうと困る」

「当然だ、そこは任してくれ。本当に早めに話してよかった……デミトリがその考えだって聞けただけで大分安心した」


 冒険者同士の諍いは確かに面倒だが、それだけでわざわざ迎えには来ないだろう。他に何か問題があるのか……?


「あまりぴんと来てねぇみたいだな。回りくどい説明をしても意味がねぇから、腹を割って話してもいいか?」

「頼む」

「デミトリはそこまで自覚してないかもしれないが、お前はアルフォンソ殿下の賓客だろ? 今回の件は冒険者同士の揉め事じゃ済まされねぇ。迎えに来たのも、申し訳ねぇがデミトリ側の事情を聞いてからエリック殿下に早急に報告するためだ」

「それは……」


 違うだろうと言おうとしたが言葉が続かない。完全に俺がヴィーダ王国でアルフォンソ殿下の賓客として扱われていることを失念していた……。

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― 新着の感想 ―
もう、馬鹿にも分かるように旗でも背負っていればいいと思います。 子供「あれ、なーにー」 母親「指差しちゃ駄目」
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