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閑話 追い詰められるギルドマスター

「ギルマス!!」

「ギルド内で叫ぶなって何回言えば――ラルフが怪我してるじゃねぇか!? おい、治癒術士を呼んでくれ!!

「はい!!」


 アヴリルのパーティーは緊急依頼を請けて対策部隊の指示で動いてたはずだ。どうして負傷して――。


「訳わかんねぇ野郎に襲われたんだ!! 痛、俺の手も――」

「そんだけ元気ならお前は後回しだ! とにかくラルフを寝かせろ、ポーションは飲ませたのか!?」

「携帯してた中級ポーションを無理やり飲ませたけど、意識が……」


――――――――


 ラルフの容態が芳しくないから、駆け付けた治癒術士のリヴェンの指示で移動させずギルドの受付前で治療する事になった。心配そうに彼を見つめるアヴリル達を酒場の席に座らせたが……一体何があったんだ? 


 ラルフは折れた骨が内臓に達していた上に臓器が一部破裂してるらしい……襲われたって言ってたが、銀級冒険者のこいつらでも敵わないそんな人間離れした力を持った相手と戦いになったのに、ラルフがだけが重傷を負ってアヴリル達はほぼ無傷なのも不可解だ。


「何があったんだ?」

「冒険者を騙る人間に襲われて、冒険者証まで奪われたんだ!! 憲兵隊に――」


 負傷した右手の拳を左手で覆い、憎々しげに叫び始めたカイルを片手を上げて制止する。


「どう対処するのかは事情を聞いてからだ。頭に血が上ってて話にならねぇならカイルは治療を受けてこい」

「……クソ! 野郎、ラルフを……」


 自分でも冷静じゃないのは理解してるのか、ふてくされた口調とは裏腹にカイルは指示に従ってリヴェンの方へと向かった。ラルフの治療が終わるまで後回しにされるだろうが……取り敢えず残ったアヴリルとベンに話を聞こう。


「説明してくれ」

「……」

「話してくれないと何も解決できないぞ?」

「イーロイさん、アヴリルが落ち着くまで俺の方から説明しても良いか?」

「……一次報告はパーティーリーダーのアヴリルから聞きてぇが、この際良いだろう」

「俺達はヒエロ山近辺の森に幽炎の火種が残っていないか確認する任務を任せられてた。任務を終えて、対策本部に帰還する途中……街道と森の、丁度中間地点で森に向かう男と遭遇した」


 この時期に一人でヒエロ山の麓に向かう男……嫌な予感がしながら、一旦気持ちに蓋をしてベンから話を聞くことに徹する。


「そのまま襲われてラルフとカイルが負傷した」

「……大事な所を省いて報告してないか? なんで急にそんな事になったんだ」

「奴は俺達に向けて魔力を解放して凄まじい揺らぎを発生させたんだ。魔法を発動する予兆だと判断したラルフが火球を放って、そのまま――」

「先に手を出したのはお前達からだったんだな?」


 状況次第じゃ情状酌量の余地があるかもしれねぇが……四対一の状況で対峙した相手の魔力が揺らいだ程度で、先制攻撃しといて襲われたって言い張るのは無理がある。


 俺の指摘に顔をしかめて視線を逸らしたベンも、それを理解した上で言葉を選んで報告してるな。


「あれは感情の高ぶりに呼応した程度の魔力量じゃなかった。こちらから仕掛けなかったらそのまま殺されてたかもしれない……ラルフの行動は、正当防衛だったと自信を持って言える」

「……嘘は付いてないんだな?」

「!? どうして俺達の事を疑うんだ!?」

「ベン。その男が本当にお前達を殺すつもりで魔力を解放したなら辻褄が合わねぇんだ。そんな危険人物がお前達に先制攻撃されて、殺さずに冒険者証だけ奪って逃がした事についてはどう説明するんだ?」

「……」


 どれだけ待っても返答が返って来ない。


「ふぅ……」


 気まずい沈黙が続き、このままじゃ埒が明かねぇから心の準備をしてからずっと聞くのを恐れていた質問をする覚悟を決める。


「違うと言って欲しいが……戦ったのはがっしりした体形でアッシュワイバーンっぽい素材の上着を着てる、俺と同じ位の背の高さで、暗めの紺色の髪をした男じゃねぇだろうな?」

「そ、そうだけど……」

「ぐっ……」


 久しぶりに口を開いたアヴリルの言葉を聞いて、胃に鋭い痛みが走る。


「まさか、本当にイーロイから依頼を請けた冒険者だったの……?」

「それを知ってるってことは、デミトリは自分の立場をお前達に説明して……その口振りだとお前達は信じなかったんだな?」

「だって――」

「言い訳は良い。はぁ……とにかく、お前らは当分謹慎だ」


 座っていた椅子を転倒させる勢いで立ち上がったベンが詰め寄って来る。


「イーロイさん!? なんで身内の俺達じゃなくて部外者の肩を――」

「お前達が部外者呼ばわりしてるのが、ガナディア王国の勇者と協力して幽氷の悪鬼を討伐したボルデの恩人だからだ」

「……え?」


 ベンの目が点になり、アヴリルが呆けたように口を開く。


「嘘だ……」

「嘘だと思いたいのはこっちの方だ……悪い事は言わねぇから今すぐ一言一句偽らずにデミトリとどんなやり取りをしたのか正確に報告しろ。お前達にとって都合の良い報告をして、後でデミトリの報告と食い違ってたらだったらただじゃ済まさねぇぞ?」

「……お、俺達の言ってる事は本当だ! 大体、幽氷の悪鬼を倒したのは勇者だって聞いた! 協力したって言っても、あいつは何もしてなかったんじゃ――」

「ベン、それ以上はやめろ……流石に怒るぞ?」


 緊急依頼を請けて臨時とは言え対策部隊に所属してるのに、なんでこいつはデミトリの事を知らないんだ??


「ヒエロ山から幽炎が広がるのを食い止める最前線に配置された対策部隊を救った、アルフォンソ殿下の賓客について聞いてねぇのか??」

「……まさか同一人物なのか?」

「そのまさかだ。幽氷の悪鬼が現れた時、勇者が到着するまで対策部隊を巻き込まない様に一騎打ちに持ち込んで時間を稼いだのもデミトリだ」

「そんな……」


 やっと事の重大さに気付いたのか、アヴリルとベンの顔から色が抜け落ちてく。


「……王家の覚えもめでてぇ上に、城塞都市ボルデを救ってくれた恩人に……お前達は一体何をしたんだ……」

「し、知らなかったんだ! それに俺はラルフとカイルと違って手を出してないし、黙ってたからアヴリルみたいに失言をしてない!?」


 見苦しいな……。


「……ちょっと眠ってろ」

「それ、は……?」

「ギルドの長として、冒険者が暴れても対応できるようにある程度戦えるに決まってんだろ。アヴリル、お前もベンみたいに眠らされたくなかったら正直に答えてくれ……何があったんだ?」


――――――――


「ギルドマスター、そろそろ休みましょう?」


 執務室の扉を開けてこちらを覗き込むダニエラの疲労でやつれちまった顔を見て心が沈む。俺が不甲斐ないギルドマスターなせいでかなり迷惑を掛けちまってる。


「遅くまで付き合わせて悪ぃな。今やってる事を片付けたら帰るからダニエラももう上がっていいぞ?」

「……辞めないですよね?」


 ダニエラの質問に胃がキリキリするが、無理矢理顔に笑顔を張り付けて努めて明るく返答する。


「急にどうしたんだ、俺は諸々の責任を取るまで辞めるつもりは無いから安心してくれ」

「……責任を取った後もギルドマスターを続けて貰わないと困ります」

「休めって言ったり働けって言ったり、どっちかに決めて貰わないと俺も困るな」

「……」


 冗談が通じるような状況でもないか……。


「悪かったって。辞めずに済む様に今頑張ってる」

「……経緯報告書ですか?」


 部屋に入って来たダニエラが、俺の書いていた書類を見て複雑な表情をする。


「デミトリの話を聞いてから完成させるか、取り敢えず現状纏まった情報をエリック殿下に報告するか悩み所だな」

「……あの子達はどうなるんですか?」

「正直に言うと分かんねぇな……冒険者ギルドのギルドマスターとして言えるのは、仮にあいつらが同じ事をデミトリ以外の冒険者にしてたとしても……冒険者証の剥奪で済めば運が良い位ギルドの規則を破ってるって事だけだ」


 途中まで書き上げた報告書を流し読みしたダニエラが、目頭を指できつく押さえる。


「恫喝に暴行未遂……それだけで大事なのに、相手がボルデを救った恩人となると……」

「しかもデミトリはアルフォンソ殿下の賓客だ。その扱いが形式的な物じゃなく、実際エリック殿下と面会した時デミトリが彼と親しい間柄なのもこの目で見てる。今回の件に付いて王家が厳罰を求めたら余計罰が重くなってもおかしくない」


 対処の仕方次第で、アヴリル達だけじゃなくて最悪冒険者ギルドとヴィーダ王家間の問題にも発展しかねない……本当に胃が痛ぇ……。


「それだけじゃねぇな……幽氷の悪鬼討伐の功労者に、冒険者が粗相をしたってボルデの住民に知れ渡ったら……いたたた……」

「お薬と、お水を持ってきますね」

「……すまねぇ、助かる……」

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― 新着の感想 ―
火球を放って、暴行未遂で済まそうって「ギルマス貴方疲れているのよ」
統制されるべき暴力装置としての自覚と時制を疎かにしたパーティ側が悪いからね……。
ギルマスはやることやってたし、悪くない。てか、辞められるとデミトリが気に病むからヤメレ。 どうして対人トラブルが尽きないかったら、命神の神呪のせいなんだから、やっぱり命神絶許。
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