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閑話 エリックの恩返し

「行っちゃったね」


 デミトリが食堂を出た後、ほとんど手を付けられてないデミトリの前に並べられた料理を見て眉をしかめる。


 開戦派との諍いが決着した直後にアムールに旅立って、そのまま僕のせいでクリスチャンとの一件に巻き込まれて……ヴィーダ王家はデミトリの亡命を受け入れて後見人として見守る立場なのに、デミトリにはずっと迷惑を掛けてばかりだ。


 しかも、少し目を離した隙に勇者と邂逅たり幽氷の悪鬼と戦うことになっちゃったり……無理をしてないかかなり心配なのもある。


「イバイ、僕達でなんとかしよう」

「覚悟を成されたようですね」

「うん! 助けられるばかりじゃなくて、たまには僕達がデミトリを助けてあげないと」


 ガナディア王国の使節団が帰国するまでボルデに滞在する予定だけど、せめてその間だけでもデミトリが休みを取れるようにしてあげたい。


 少しでもデミトリの負担を減らせるように、様子がおかしいヴァネッサとセレーナとデミトリが会う前に僕達が彼女達の心のわだかまりを解決出来れば少しはデミトリも楽になるはずだ。


「分かりました。私もデミトリ殿の事は心配だったので手を貸させて頂きます。幸いにも殿下はボルデに滞在中、学業も政務も無いので時間に余裕がありますしね」

「ありがとうイバイ!」

「早速ですが、殿下がデミトリ殿の代わりにヴァネッサ嬢達の話を聞く口実だったとは言え……休ませたい相手を働かせに出かけさせたのは減点ですね」


 協力して貰えるって聞いて喜んだ直後に、さっきデミトリを館から遠ざける口実として言った事を批評されて項垂れる。


「え……政務じゃないんだから大目に見てくれないの!? 大体、あれ位しっかりした理由じゃないとデミトリも納得してくれなかっただろうし、少しくらい大目に見てくれても――」

「殿下、ヴァネッサ嬢やセレーナ嬢がもし気が変わってこの後デミトリ殿に会いに行った時、不在だったらどう思われるのか考えましたか?」

「……! それは……」

「まぁ、今回は幽炎関連で混乱しているボルデに力を貸してほしいと殿下からお願いしたと言えば、納得して貰えると思うので及第点にしてあげても良いですが……殿下は頑張ると決めたんでしょう?」


 イバイは敢えてセレーナの名前を伏せてくれたけど、急に昨日宣言したことを蒸し返されて心臓が跳ねる。


「う、うん……」

「であれば今回は良い経験になるはずです! 殿下も、政務じゃないからと気を抜かず……むしろ、学ばなければいけない事が政務以上に多い分気を引き締め直すべきです」

「は、はい!」


――――――――


「……ニルさん」

「どうしたリーゼ?」

「なんだか盛り上がってますけど……デミトリを辺境伯邸から遠ざけないで、普通にナタリア様の部屋に案内してヴァネッサとセレーナと話させた方が良くないですか?」


 食堂の外で、扉越しに聞こえてくるエリック殿下達の会話を聞きながらリーゼが呆れ気味に首を振っている。


「リーゼが王族の考えに異議を示すなんてめずらしいな」

「……国の事とか政策については分かりませんけど、これは人付き合いの一つや二つしてたら分かる事なので」

「あー、悪い。揶揄するつもりはなかった……そうだな。リーゼの言う通りだと思うぞ?」


 少なくとも私がアロアと気まずい状態になったら放置して外出なんて絶対にしないな……デミトリもエリック殿下達に止められていなかったら見舞いに行こうとしていたし、二人の介入で事態が好転している様に見えないのは私も同じだ。


「リーゼは昨日デミトリの起床を伝えに行った時ヴァネッサ達と話したんだろう?」

「はい」

「私も昨晩そりに泊まっているデミトリに会いに行きたいと許可を取りに来たヴァネッサと話したが、あの様子ならエリック殿下達が大袈裟に反応しているだけで問題ないだろう」

「……今は大丈夫でも体調不良って言ってるのにお見舞いもせずに外出したって聞いたら、これから余計に拗れそうですけど」


 リーゼの性格的に、直接話さずこんな回りくどい事をしているエリック殿下とイバイの行動が理解できないのも分かる。私も全く心配じゃない訳ではないしな……。


「完全に拗れそうになったら私の方から経緯を説明するさ……それに私とリーゼは考え方が似ているから話した方が早いと考えているが、必ずしもそれが正解とは限らない」

「んー……」

「それにこう言ってはなんだが、立場上我々が『普通』だと思っている人付き合いと縁が薄かったエリック殿下だけでなく、特異な生い立ちのデミトリにとっても今回の事は良い経験になるかもしれない。歯痒いかもしれないが……今は見守ろう」

「……分かりました」

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