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第414話 悩める無職

「おはようございます!」

「おはようカミール」


 シエルと共に訪れた見晴らし台で、警戒していたカミールに気付かれ挨拶する。


 分厚い塀に囲われたヴィラロボス伯爵邸の敷地内。その更に奥まった位置に停車しているそりの上で周囲を警戒していても、あまり意味は無いと思うが……王家の影の一員であるカミールがわざわざ見張りをしているからには何か理由があるのだろう。


「異常はないか?」

「問題ないです! むしろ、随分と早起きですけど何か問題があったんですか……?」

「いや、想像以上に疲れていたみたいで昨日部屋に戻ってすぐに寝てしまったんだ。丸一日近く寝たからいつもより早く起きただけだ」

「そうでしたか! レオさんとの鍛錬はかなり激しかったですから――あれ? でも……」


 カミールの視線が俺の顔から、俺の肩に乗ったシエルに向けられる。


「ヴァネッサさんがデミトリさんに会いに来た時、すぐに帰ってたからおかしいとは思ったんですけど――」

「寝ていて部屋を訪ねてくれたことに気づかなかった」

「そうだったんですね……すみません、分かってればデミトリさんが疲弊してる理由を説明できたんですけど」

「カミールが気にする必要はないぞ? 大体、色々と世話になっているのにそこまで迷惑を掛けるのは忍びない……」

「王家の影の仲間なんですから、どんと頼って下さい!」


 屈託のない笑みでそう言い切ったカミールは本心からそう言っているのが分かる。


「ありがとう。中々そう言う機会はないと思うが……俺も恩を返せるぐらいには力になりたいと思っている」

「デミトリさんに手伝って貰わないといけない事案となると、幽氷の悪鬼のような魔族かアムールで遭遇した規格外の異能を持った人間の対処とかですかね……」

「……なんでそんな化け物達と戦闘する事が前提になっているんだ。頼りないかもしれないが他の面でも……多分力になれるはずだ」


 自分で言いながら悲しくなるが、必要に駆られて戦闘能力ばかりが上がっているがそれ以外に自分の強みと言える何かがパッと思いつかない。


 いつかジステインと話した時も現実に直面して悲観したが……何か手に職を付ける事も中長期の目標として設定したほうが良いかもしれない。


「……カミールは、王家の影に所属する前は他の職に就いていたのか?」

「え!? 僕は孤児院の出身で、魔法の才能を認められて勧誘された後そのまま王家の影に所属したので教会の炊き出しの手伝い位しか……あとは、ただ同然で色んな雑用をこなしてましたけど」

「働いた事には変わりないだろう。俺の場合は、ほんの数回冒険者ギルドで依頼を請けただけだがそれも討伐依頼ばかりだった……」

「それも立派な仕事ですよ?」

「それはそうそうだな。そうなんだが……」

「悩むぐらいなら働いてみればいいじゃない」

「「!?」」


 声の下方向に振り向くと、またそりの屋根の上からリーゼがこちらを見下ろしていた。


「俺の立場上それが難しいのは分かるだろう?」

「ガナディアの使節団が帰国したら王都に帰るから制限はあるけど、エリック殿下に相談したら許可してくれると思うけど?」

「それは……そうか、そうだな」


 聞いてみる前から無理だと決めつけていたが、リーゼに指摘されて本当に無理かと問われたらそうでもなさそうに思える。


「それこそ、時間の制限が問題なら冒険者ギルドで臨時の作業員を探してる労働依頼を請けるのも手だしやってみたら良いんじゃない?」

「そう、だな……」

「デミトリさんは何か興味のある仕事があるんですか?」

「……」


 カミールに問われて初めて自分の中で手に職を付けた方が良いという認識だけ先行してしまい、具体的に働いてみたい職を検討していなかった事実に直面する。


「働いてみたそうな事を言ってたのに何も考えてなかったの?」

「恥ずかしい限りだが反論できないな……とにかく働いた経験を積んだ方が良いと言う意識だけが先走っていた」

「デミトリさんの話してた内容から察するに、警護とか警備みたいな腕っぷしを活かせる職以外の経験を積みたいんですよね?」

「選り好み出来る立場ではないのは理解しているがその通りだな……亡命した身である以上、ヴィーダ王家に許された冒険者業以外で下手に戦闘に特化した職に就くのは仮にエリック殿下の許可が下りたとしても避けるべきだろう」

「そうなると、肉体労働か何か特技や技能があるならそれを活かした仕事を探してみるのが良いと思いますけど」


 ……何も思い浮かばないな。前世の記憶がはっきりしていれば、過去の経験や異世界の知識を活かせたかもしれないが俺にはそんな都合の良い記憶はない。


「……俺に務まる仕事は無さそうだ」

「はぁ? 散々寝たのにまだ寝ぼけてるの?」


 リーゼが悪態をつきながらそりの屋根から飛び降りて俺とカミールの間に着地する。


「私もあの白金級の冒険者とあなたの手合わせを見てたけど、あれだけ戦えたら警護とか警備の仕事以外にも、戦闘の指南をする仕事も請けられるでしょ?」

「いや、実績もそれほど無いのにほぼ独学の状態でそんな事は――」

「言い訳はいいわ! 仮にも銀級の冒険者にもなって駆け出しの冒険者に何も教えられないとか指導出来ないって言うならそれはそれで問題でしょ。後、意識せずに普通にエリック殿下と話せてるだけじゃなくてアムールでも見たけどあなた貴族と話し慣れてるでしょ?」


 反射的に否定しかけたがリーゼに注意された直後なので慎重に言葉を選ぶ。


「……不備はあったかもしれないが、今の所大きな問題なく対話はできているな」

「当たり前の様に思ってるかもしれないけど普通はそんな事できないわよ?? ヴィーダ王国だけじゃなくてアムール王国の王族を含む高位貴族との会合に参加した経験があるってだけで立派な強みなのに、何でそんなに自信がないのよ」

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