第407話 夢現
「おはよう」
「おは……!? ここは……」
「勝手にお邪魔してごめんね? 夢の中に現れる不埒な神について聞いたから、一応見守った方が良いと思ったの」
最後の記憶はそりの客室で横になった後だったからここは夢の中か。
「命神の事か……驚いたが、ティシアちゃんが夢の中に現れる分には何も問題ないぞ? むしろ心配を掛けてすまない」
「ふふ、ありがとう。それにしても……少しデミトリの事が心配になる風景ね?」
「……」
今まで誰かが夢の中に現れた事が無かったため意識したことが無かったが、確かに客観的に見たらおかしいかもしれない。
見渡す限り何も無い地平が四方に広がる不毛の荒野で、トリスティシアが俺の傍に寄って座り込む。
「精神的に追い詰められてるわけではないから気にしないでくれ。物心がついた頃から夢はいつもこうだった」
「グラードフ領に居た頃から今に至るまで同じ夢だから心配ないって言われても、説得力がないわね」
「……それは、否定できないな」
あまり深く考えたくはなかったが、この光景が深層心理を映し出しているかもしれないと考えるとかなり恥ずかしい。
「デミトリは本当に面白いわね」
「はぁ……次から次へと面倒事が舞い込んできて、端から見てる分には退屈しないだろう?」
「ふふ、大分楽しませてもらってるわよ」
「……」
寝る前に行っていた検証で手癖が付いていたのか、トリスティシアと話しながら手頃な岩を探そうと手を伸ばしたのに気づきさっと腕を引く。
「……そんなに焦る必要は無いと思うけど、やっぱり心配かしら?」
「アムール王国でも死ぬような思いをしたのに、幽氷の悪鬼、ユウゴ、レオ……立て続けに自分よりも強い相手に出会って、魔族や魔王の存在も聞くとどうしてもな……」
「……だめね」
「……??」
「デミトリの事じゃないわよ? 私の事」
トリスティシアが闇を浮かべながら、俺達を包み久々にあの暗い空間を訪れた。
「あれがデミトリの夢の景色なら、これが私の夢の景色よ」
「……似ているな」
「ふふ、そう言われたのは初めてかもしれないわ」
はにかみながら、トリスティシアが折った膝の上に頭を乗せてこちらを見上げて来る。
「デミトリは、何を求めてるの?」
「急にどうしたんだ?」
「愛し子が困ってるんだから、ちょっとは神らしいことをしてみようと思って」
「いつも助けられているから取り立てて何かをしてもらう必要はないが……そうだな、何を求めてる、か」
俺もトリスティシアに倣って折った膝の上で腕を組み、更にその上に頭を乗せる。
「……俺は、不可能な理想を追い求めている」
「不可能かどうかは、聞いてみないと分からないわ」
「人並の幸せ、普通に満たされた平穏な暮らし」
「なるほど、ちょっと難しそうね」
「すぐに否定しないでくれ……」




