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第406話 ヴィラロボス辺境伯領への道のり

「大分雪が除去されているな」

「報告に向かった人間のお陰で作業は中断されてますけど、幽炎がセヴィラ辺境伯領ではなくこちらに向かって広がった時に備えていたので」


 カミールとそりの前方に位置する見晴らし台から城塞都市ボルデと、都市に至るまでの半端に除雪された街道を確認しながら幽氷の悪鬼討伐の報せを聞くまで除雪作業に勤しんでいた人々に思いを馳せる。


 ヒエロ山近辺に到達するまでの道とその周辺も雪が除去されていたが……改めて幽氷の悪鬼をどれだけ脅威と捉えていたのかを目に見える形で示され魔族の脅威について否でも考えさせられてしまう。


 幽氷の悪鬼は自身を次期魔王と自称していた。


 あれ程人類にとって脅威となる魔族はそう多くないと考えたいが、ユウゴとレオが万が一魔王と魔族の討伐に失敗したら、似たような存在がヴィーダ王国を襲うかもしれないと思うと焦ってしまうのは当然かもしれない。


 ヴィーダ王国とガナディア王国が外交上中々微妙な関係なのは重々承知していたし、個人の感情だけで言えばガナディア王国とは関わりたくはないが……。


『……魔王は人類の敵だから今はいがみ合うべきじゃない、『友好条約を交わして、その証に魔王討伐に同行する英傑をヴィーダ王国は選定するべき』って、使節団の代表がヴィーダ王国の人がどれだけ断ってもずっと主張してて』


 ユウゴが言っていたガナディアの使節団の言は交渉を有利に進める為の建前かも知れないが、本当にいがみ合っている場合ではないのかもしれない。


 俺の事を無理やりユウゴに同行させようとしていた事も踏まえると、命神の思惑は分からないが協力しなければ危険なのかもしれない。ユウゴと別れた後になって余りにも悠長だが、考えれば考える程不安が心を満たす。


 魔族に襲われたら……とにかく抗うために力を――。


「デミトリさん、失礼を承知で助言しても良いですか?」

「ん!? あ、ああ……」


 完全に思考に捕らわれて横に立っているカミールの事を意識の外に追いやっていた。急に声を掛けられ慌てて返事をすると、そっと肩に手を置かれた。


「寝ましょう……?」

「……! 確かにレオとの手合わせで寝てはいないが……それはカミール達も同じだろう? 平気だから気にしないでく――」

「デミトリさん。幽氷の悪鬼と戦った直後に白金級の冒険者と夜通し手合わせをして寝てない貴方と、交代交代で監視してた王家の影の疲労具合が同じなわけがないじゃないですか」


 呆れたように首を振るカミールに、反論できず黙り込む。


「僕も寝ずに活動する訓練を乗り越えたから分かりますけど、無理をして普段の数割程度の力を発揮できても、しっかりと休んだ状態には敵いません。戦闘能力だけでなく思考力もです」

「……カミールの言う通り、良くない思考に嵌りそうではあったな……」

「寝て起きたら全部解決するなんて口が裂けても言えませんけど、大分ましになるはずです! ここだけの話ですけど、僕も徹夜が災いしておかしな事をした事があって……」


 話しながら恥ずかしくなったのか、カミールが自分の顔を覆おう漆黒のスカーフを掴みながら俯く。


「……長年特訓してつい最近魔法を同時に二つ発動する事に成功したんですけど、色々とあって焦って……三つ同時に発動しようとして魔力暴走を起こしかけたんです」

「それは……! 魔法を二つ同時に発動するだけでも相当な努力を重ねたはずだ。俺も、ぎりぎり二つの魔法を同時に発動する事に成功できているが三つは余りの難易度に断念していた……」

「え!? 当たり前に出来るんじゃないですか?」


 どうしてそんな印象を持たれているのか分からないが、王家の影全員に共通してその認識を持たれていたら良くないと思い訂正するために説明する。


「そんな事あり得ないだろう……俺は魔法の指導を受けた事が無いから手探りで色々と試しているが、使い慣れた霧の魔法と他の何かの魔法をなんとか同時に扱える程度だ。元宮廷魔術士のリディア氏や、現役の宮廷魔術士であるルーベン氏の様な人間なら出来るかもしれないが」

「……出来て当たり前って思ってないんですか?」

「熟練の魔術士なら出来て当たり前かもしれないが、少なくとも俺が彼等に比肩できるとは夢にも思っていないぞ?」

「そうだったんだ……」

「本当に……?」

「!?」


 見晴らし台を見下ろすそりの屋形の屋根から声が聞こえ急いで振り向くと、屋根の縁でしゃがんだリーゼがこちらを見下ろしていた。


「……私、反射の異能の対策で言われた竜巻の魔法をどんなに頑張っても習得できなかったから、てっきりあなたは熟練の魔術士だと思ってたけど……」

「そんな事は無い……! あれは、理論上実現出来たら反射の異能の対策になると思ってその場で思い付いた方法を共有しただけだぞ??」

「……そうならそうって言ってよ……」


 頭を抱えてしまったリーゼに何と言えば良いのか分からずカミールの方を向くと、空いていたもう片方の手を俺の肩に乗せてそりの中へと誘導し始めた。


「リーゼの話は気にしないでください、とにかくエリック殿下に報告する時にへとへとだと困るのでデミトリさんは寝てください……!!」

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― 新着の感想 ―
>「熟練の魔術士なら出来て当たり前かもしれないが、少なくとも俺が彼等に比肩できるとは夢にも思っていないぞ?」 身体強化だけじゃなく魔術も思い込みの枷がある?
読者世界では睡眠不足は百害あって一利なし、って言いますが。同じような経験則があるなら、似たような言い回しもあるんでしょうね。お休みなさい。
カミール「寝ましょう……?」 リーゼ 「やっぱり……(wktk)」
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