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第405話 帰国と別れ

「……本当に手伝いは必要ないのか?」

「デミトリ殿は屍人達を倒すのが得意かも知れないが死体の処理専門外だろう? 幽氷の悪鬼が討伐された報告をするために私も指示出しが終わったらセヴィラ辺境伯領に向けて発つ。デミトリ殿を悪戯に待機させる意味はないだろう」


 話しながらアルセが腰に固定していた袋を外して、話しながらこちらに差し出して来た。


「これは……?」

「幽氷の悪鬼の死体が保管された収納鞄だ」

「……!?」


 あれはユウゴ達に預けたはずじゃ……?


「デミトリがレオ殿と手合わせしている時ユウゴ殿に渡された。幽氷の悪鬼を追い詰めたのはデミトリ殿だから自分が持つべきではないと言っていた」


 気にする必要は無いと伝えておいたはずだが、想像以上にユウゴは生真面目な性格だったらしい。


「……返却する術がない以上受け取るしかないみたいだな」

「ガナディア王国側が勇者の戦利品をかすめ取ったと主張しないか心配なんだろう? 心配するのは分かるが、勇者であるユウゴ殿が所有権を放棄しているし彼の傍には事情を把握しているレオ殿が居る。ガナディア側が妙な主張をしたとしても何とでもなるだろう」

「そうかもしれないが……いずれにせよ、セヴィラ辺境伯領に戻るなら幽氷の悪鬼の脅威が去ったと証明するためにもアルセ殿が持っていた方が良くないだろうか?」


 差し出された収納鞄を押し戻そうとすると、俺の手に無理やり収納鞄を収めてアルセが両手で包み込み無理やり収納鞄を握らされた。


「幽氷の悪鬼の死体は対策部隊員にも確認して貰った。万が一本当は討伐できていないんじゃないかと騒ぎ立てる者が居てもどうとでもなる。変な気遣いはしないで受け取ってくれ」

「……分かった。必要になったらすぐに渡すから声を掛けてくれ」

「その時は遠慮なく連絡するさ」


 この場でアルセを説得するのは無理だと諦め、無理やり手の中に押し込まれた収納鞄を受け取る。


「……王家の影がそりの周辺に集結しているな」

「レオ殿との手合わせ中もデミトリ殿を見守っていたが、早くヴィラロボス辺境伯領送り届けてエリック殿下に報告したいんじゃないか?」

「だろうな。これ以上待たせるのは良くないか……」


 収納鞄を持っていない右手をアルセの方へと差し出す。


「色々とありがとう。アムール王国に滞在中アルセ殿のお陰で大分助かった」

「私はそれ程力になれていなかっただろう……むしろ私の方から感謝したい。色々と視野を広げる機会を貰えた……デミトリ殿の旅に同行させてくれてありがとう」

「また会う日まで」

「健勝を祈っている」


 固く握手を交わし、軽く抱擁してから互いに体を離す。


「セヴィラ辺境伯領がヴィーダ王国の一部となったから、ある程度落ち着いたら私もヴィーダ王国内で見聞を広めるために旅するつもりだ」

「そうか。ナタリア嬢の紹介で貴族との面会もあるだろうし、彼女は宰相の跡継ぎと婚約を結んでいる。俺が王家の影と行動を共にしていればアルセ殿と再会する日は意外と遠くないかもしれないな」

「だと良いな。数週間もしない内に再会するかもしれないなら、なおさら大袈裟な別れは必要ないな」


 アルセが笑いながらこちらに背を向け、忙しなく野営地の解体を進める対策部隊の方向へと歩き始めた。


「また会おう」

「ああ。さようなら、アルセ殿」


――――――――


 ヴィラロボス辺境伯領に向けて走るそりの一室で、平原で拾った大小様々な岩を床に並べる。


 散々手合わせをした上で、レオが俺に渡した岩に細工をしていたかもしれないと疑ってしまう自分の警戒心の高さに呆れつつ、一番小さな岩を拾い上げて掌に収める。


 バキ。


 身体強化を発動させ拳を握り締めると、握っていた岩が欠片を床に飛散させながら粉々に砕け散る。まぐれではないと確証を得るには一度の試行では足らず、次の小岩に手を伸ばす。


「……不思議だな」


 魔法に関しては検証を重ねつつ、ある程度『魔法だから』と前世では常識に反する事が出来てもすんなり受け止める事が出来た。レオに指摘されるまで気づかなかったが、己の人間の肉体で出来ることに関してはより厳しく評価していたらしい。


 バキ。


 新しく握った小岩が粉々になった事を確認して空嘆息する。


 試す前から『常識的』に考えて無理だろうと、肉体の限界を決めつけていた事にレオとの手合わせで気づかされた。


「内なる獣を爆発させる、か……」


 手合わせを通してレオから色々と教わったが、限界を超えて身体強化を発動する心得も教わった。流石にあの短期間で完全に物には出来なかったが、実際に習得した先達に実践して貰えたのは大きな収穫だった。レオに出来るなら、時間は掛かるかもしれないが俺にも習得できるかもしれない。


「……今のままじゃだめだな」


 魔王や魔族の存在を知り、ユウゴの様に勇者の加護を得て規格外の力を得た異世界人の存在とも出会った。今までぎりぎりの所で命を繋いできたが、更なる高みを目指さなければいつか足元を掬われる。


 それこそ、今の所出会っては居ないがレオと同じ位の実力者が異能や勇者の加護の様な力を得ていたら今の俺では太刀打ちできない。敵対しなければそれに越した事は無いが……理不尽な力に対抗するには、同じ位かそれ以上の力を手に入れる必要がある。


 バキ。


「……白銀級の魔物なら、攻撃に耐えられるとレオが言っていた……」

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― 新着の感想 ―
良くない傾向は治らないままか……そんな風に力を求め続けたら 行きつく先は地上最強か、それすら超えて神殺しってことになるだろうに……
デミトリも修行モード。 だから、寝ろと。徹夜ハイなのは分かるけど。
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