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第39話 水魔法

 まだ日が昇りきる前に目を覚ました。 蝋燭はとうに燃え尽きていたのか、小屋の中は薄暗い。


 体の節々が痛む。意識を失う前ほどではないが、気絶中に魔力が回復したせいかまた体の中で暴れ回っている。


 集中しながら、もう一度魔力の流れを上手く掌に誘導して放出した。以前と比べると小さいが、それでもかなりの勢いのある水が発生する。


 魔力の総量が減っていたため、魔力を放出しきって魔力枯渇を起こしてしまう前に何とか魔力の流れを変えて水を止めることに成功した。


 ――今回は気絶しなかったが……このままだと何時か力尽きる。


 自己治癒を発動しようとするが、上手く魔力を操作できずに焦る。


 ――落ち着け、誘導できたから制御する事は不可能じゃないはずだ。何が起こったのか分からないが、これは俺の魔力だ。


 何年も魔力の操作と魔力の制御だけしながら生き延びてきた経験が、自信となり落ち着きを取り戻す。


 絶えず体の中で暴れようとする魔力に意識を集中する。


 魔力を放出した際に水を放ったからか、荒れる海を思い浮かべた。嵐が止み、天候が晴れ、凪いでいく海を想像する。徐々にだが、魔力の暴走が治まっていく。


 ――今世では海を見た事がないな……


 余計なことを考えてしまったせいで魔力がまた荒れ始め、慌てて心を無にする。


 小屋に空いた穴の外が朝焼けに照らされ、激流に薙ぎ倒された木々と抉れた地面が見えた頃にはある程度魔力を制御することに成功した。


 いつまでも水浸しの床に横になっている訳にもいかず、改めて自己治癒の発動を試みる。幸いなことに今回は問題なく発動し、安堵する。


 ――相変わらず、すごい回復速度だな……


 動ける程度に回復した頃には、ヴァシアの森が朝を迎えていた。


 立ち上がり、小屋の外に出て現状を確認した。まるで中で爆発が起こったように、内から破られた大穴に目を奪われる。


 ――ジステインに謝罪しないといけないな……


 そんなことを考えていると、また魔力の制御が難しくなってきた。自己治癒を発動していたものの、魔力の消費よりも魔力の回復の方が上回っていたようで魔力量が増えている。


 仕方なく、破壊してしまった森の方面に魔力を放つ。


 ――取り敢えずの処置だが、何時までもこのままではいけないな……そもそも、なぜ水なんだ?


 魔法の属性は血筋に依存することが多い。貴族家では、婚姻候補を選ぶ際に扱える魔法の属性もかなり重要視される。


 ――ボリスは土属性で、母は確か珍しい土と火の二属性持ちだったはずだが……


 イゴールが火と土の両属性を受け継いだため、魔法を扱えない自分は余計に出来損ない扱いされた。


 ――なぜ水なんだ……? そもそも今まで魔法を使えなかったのになぜ急に……


 やっていることは魔力を体から出しているだけだが、それでもれっきとした魔法だ。後天的に魔法が使えるようになる例など聞いたことがない。


 ――今考えるべき事じゃないな……


 頭を切り替える。魔法が使えるようになった原因は然程重要ではない。


 ――問題は魔力が回復すればする程魔力制御と操作が難しくなる事だ。いざという時に、魔力を制御出来ず身体強化と自己治癒が使えなければ命を落とす可能性が高い。


 定期的に魔力を放出するだけであればまだやりようはあるものの、今の自分の状況は決して良くない。また開戦派に襲われる可能性がないと言い切れないのに、満足に戦うことが出来なければ次こそは命を奪われるだろう。


 仮にジステインが全ての問題を解決して迎えに来たとしても問題は山積みだ。


 亡命の条件として監視下に置かれている人間が、魔力暴走を起こしかねない状態でそれを防ぐために定期的に魔法を放っていたら問題視されるだろう。


 ――完全に魔力を制御するのが一番だが、それが出来ない最悪の事態を想定してこの魔力で何ができるのか確かめるのが先だな。


 深くため息をつく。


 過去の自分は喉から手が出る程魔法が使えるようになりたいと思っていたのに、いざ手に入れてしまったら喜べない状況なのは自分らしいといえば自分らしいのだろうか。


 ――本当に呪われているのかもしれないな……


 魔法によって泥と化した地面に足を取られながら、ある意味都合よく開けた木々が倒れた一画に辿り着く。


 ――まずは……


 今まで目にしてきた魔法を思い返す。一番記憶に残っているのは、死なない程度に甚振るためにボリスとイゴールが何度も自分に放った土球と火球だった。


『こんな初歩的な魔法すら扱えん愚物め!!』


 頭の中で思い出したくもないボリスの台詞が響く。


 ――……あれよりも複雑な魔法を使っている所も見たことはあるが、使っていた頻度からしてあれが初歩的な魔法なのは嘘じゃないだろう。


 問題なのは自分が魔法の指南を受けたことがないことだ。正しい魔法の使い方など皆目見当もつかない。


 土球や火球を再現しようとして、何度も水球を作ろうとしたが体から魔力が出た瞬間水流に変わってしまう。


 ――ボリスが土球を発動する前に、何時も魔力の揺らぎを感じた。その後、かざした手の先で土球が現れて射出されていたが……


 考えてみればボリスもイゴールも、先日戦ったイザンもそうだった。魔法を発動する前に魔力の揺らぎが発生し、彼らの体の外で魔法が生成されていた。


 ――体から放出した魔力を制御、操作した上で魔法を発動した時に魔力が土や火に変わっていたのか?


 自分の場合は、何度試みても体から魔力が放出されるのと同時に水に変わってしまう。


 ――……同じことを繰り返しても仕方がないな。視点を変えてみよう。


 初歩的な魔法から試してみたものの、使えないのであれば固執しても意味はない。確実に水流が発生してしまうのであれば、放出された水流を操作できないか試すことにした。


 ――これは……出来ているのか?


 今までとは異なり身体から流れ出た魔力を操作しようと意識しながら、水流を放つ。結果、僅かながら一直線ではなく水流が反れているような気がする。


 ――……どうせやることがないんだ、ジステインが迎えに来るまでやれるだけやってみよう。

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