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第388話 反省

「アルセ殿、幽炎は――」

「全て消えた!! 囲っていた幽炎が消えたのを見届けて急いで来たんだが――」


 足場の悪い雪の上で慌ててこちらの方まで登って来たアルセと数人の王家の影がユウゴを警戒しながら俺の傍に寄る。


「――この方々は……?」

「ガナディアの勇者、ユウゴ殿とその付人だ。幽氷の悪鬼を倒してくれた」

「な!? やはりあれは幽氷の悪鬼だったのか……!」

「色々と作戦を練ったのに独断専行してしまってすまない。ユウゴ殿、幽氷の悪鬼を討伐した事を証明するために死体を取り出してくれないか?」

「え、あ、はい!?」


 急に口調の変わった俺に困惑しながら、ユウゴが収納鞄から幽氷の悪鬼を取り出した。


「くっ……遠くからデミトリ殿と対峙する幽炎に包まれた影を見た時も背筋に悪寒が走ったが、なんて禍々しい姿だ。デミトリ殿、本当に良く無事でいてくれた……」

「攻撃をいなす事は出来ても決定打を与える事が出来なかった。ユウゴ殿が助太刀に来てくれて助かった」

「う……あ、当たり前のことをしたまでです!」


 俺が口調を変えたから緊張しているのか? アルセの立場が分からず無意味にユウゴが困っていそうだな。


「ユウゴ殿、アルセ殿は城塞都市セヴィラを管理するセヴィラ辺境伯家の嫡男であらせられる。今回の幽炎対策で指揮を執っていた」

「そ、そうですか。断り? も無く手を出してすみません。魔族を『うて』っていう天啓を授かり来ました!」

「そうだったのですね……まずは感謝を。民を脅かす災害の対処にご助力頂き、セヴィラ辺境伯領を代表して感謝申し上げます」

「えっと、勇者として当然の事をしたまでです!」


 ……まさか、ユウゴは勇者として振舞う上で定型の返事しか教わっていないのか……?


「独断で行動された事についてはお気になさらないでください、全て私の権限で不問と致します……デミトリ殿は別だが」

「……!? いや、俺もあの状況では仕方がなか――」

「死霊達を一人で引き受ける無茶な作戦を立てた所まではぎりぎり飲み込んだが、一人で全てどうにかしようと幽氷の悪鬼を誘導した件は、しっかりとエリック殿下とヴァネッサ嬢に報告させて頂く」


 アルセから有無を言わせない圧を感じるが、エリック殿下はともかくなぜヴァネッサまで……。


「皆無事だった事だし、余計な心配を掛けるのは――」

「デミトリ殿が仲間に心配を掛けている自覚が欠けているからこそ、報告する事に意味がある……! あの化け物を引き連れて山中に消えていくのを、ただ眺めることしかできずどれだけ心配したのか分かっているのか!?」

「デミトリさん。アルセさんは僕達が無理やり拘束しなかったら一人で加勢しに行くつもりでしたよ」


 いつの間にか俺の背後に陣取っていたカミールに耳打ちされ、自分勝手な行動で心配を掛けてしまった事に心が沈む。


「アルセ殿、悪かった……」

「……こちらこそ感情的になってすまない。あの時はああするのが一番被害が少ないと、デミトリ殿が判断したのだと言う事も理解している……本当に無事で良かった」

「えっと、俺が駆け付けた時には幽氷の悪鬼はもう瀕死だったから、デミトリさ――どの? もそんなに無茶をしているつもりは無かったんだと思います?」


 ユウゴは俺の行動を擁護してくれようとしたみたいだが、アルセが怒っていたのは別にそこではない。アルセも苦笑しているが、重くなり掛けていた空気がユウゴの発言で少しだけ軽くなる。


 アルセが落ち着きを取り戻したかと思いきや、ユウゴの方を見ながら急に血相を変えた。


「申し訳ありません! 仲間の無事を喜ぶ余り声を掛けるのが遅くなってしまいましたが、担がれている方々は大丈夫でしょうか!? 幽氷の悪鬼との戦闘で負傷したのであれば、治癒班を――」

「あ、えっと大丈夫です! 長旅をして疲れてるだけなので!?」

「アルセ殿、彼等の状態は幽氷の悪鬼とは関係ないから心配ない」

「そうなのか……??」


 気絶している理由まで説明しだすとややこしくなりそうだ、ここは話しを強引に前に進めてしまおう。


「幽氷の悪鬼の脅威を取り除いたユウゴ殿の功績についてどう扱うのかを含め、判断してもらうためすぐにでも報告した方が良いと思う」

「私も同意見だ。ユウゴ殿、此度は幽氷の悪鬼の出現について天啓を授かり馳せ参じたと理解していますが、貴殿はこのまま王都に戻る予定でしょうか?」

「えっと……」


 ユウゴがちらりと俺の方を見たので助け船を出す。


「ユウゴ殿。ガナディアの使節団、ひいてはガナディア王家からは勇者の使命を優先して行動しても良いと説明されている認識で正しいでしょうか?」

「は、はい! 基本的に天啓を授かった時は、命神の意志を汲んで自由に行動して良いと言われています」


 ガナディア王家が無理やりユウゴを従わせようとしていないという言質が取れたのは大きいな。戦争や政に勇者は関わらないとは聞いていたが、万が一の事もある。


「それでは天啓を授かっていない時どのよう行動されて欲しいとガナディア王家から伝えられているのか、お聞きかせ頂いてもよろしいでしょうか? 使節団に同行して他国に渡る上で何か行動指針などを共有されていませんか?」

「えっと、あ……! 天啓を授かっててやむを得ない場合はともかく、出来るだけ使節団と行動して欲しいって言われてました……」

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