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第378話 第二王子のアミュレット

「ん……?」

「どうかしたのか?」

「一瞬悪寒がしたんだが……」

「まだ魔力に余力はありそうだったが、先程の戦闘で無理をしていたのか!?」

「心配を掛けてすまない。この通り平気だから安心してくれ」


 すぐに収まったので気のせいだろう……そんな事よりも街道の先の屍人をどうにかしなければ。動きは緩慢だが、着実に停車したそりの方へと進んでいる。


「アルセ殿、俺はこのままそりの進行方向に立ち塞がる屍人達の処理に回る。対策部隊の避難誘導は任せてもいいか?」

「承った。くれぐれも、無理はしないようにな」

「ああ!」


――――――――


「数百年の間にこれだけの人間が被害に遭っていたのか……」


 最後の屍人が動かなくなったのを確認してから憂鬱な気持ちで辺りを見渡す。


「申し訳ない事をしたが……」


 不謹慎かもしれないが頭を潰さざるを得なかったのは幸いだったかもしれない。優に百体は超える屍人達の虚ろな目に晒され続けていたら気が触れてしまいそうだ。


 そりが進めるように屍人達を街道から退かせなければと考えながら首を失った死体を眺める。青白く変色してしまった屍人達が纏っている装備は見慣れた形式の物もあれば、今では滅多に見る事のない旧式の装備品も多い。


 彼等は幽氷の悪鬼が姿を現さなくなってから幽炎の餌食になってしまった者達で間違いないだろう。


 ここ数百年は幽炎を放つだけだったのに、今となってまるで尖兵のように屍人に幽炎を食い止めようとする対策部隊を襲わせたのは……例年と比べて規模が大きいと言われている幽炎と言い偶然には思えない。


「考え事は後だな」


 街道の端から端よりも少しだけ長い水の柱を生成して凍らせる。そのまま氷柱の右側だけ手前に移動させ、街道を斜めに横切る形にしてから歩き始めた。


 歩行する俺と一定の間隔を保って前に進む氷柱が、街道に積もった雪と屍人の死体を街道の脇へと押し出していく。この調子ですすめば数分もすれば片付きそうだ。


「まるで人間除雪車だな……」

「相変わらず面白い魔法の使い方をしているな」

「ニル!?」


 そりの方から走って来たのか、少しだけ息を切らしたニルが後方から歩み寄って来た。


「持ち場を離れてよかったのか?」

「大丈夫だ。まだ警戒は解いていないが、デミトリのお陰でそりが屍人に襲われる事はなかった。こちらの戦闘が終了したと部下から聞いて飛んで来た」


 途中まで何人かの王家の影が援護できる位置で待機してくれていたが、彼等が報せてくれたのか。


「良かった。対策部隊の人間は無事か?」

「幸いな事に死傷者はいなかった。負傷した人間はセレーナが治療してくれている」


 なんとか大きな被害も無く乗り越えられたようで安堵しかけたが、予断を許さない状況に変わりない。


「ニル、そりに戻ってすぐに出発してくれ」

「何かあるのか?」

「例年よりも規模の大きい幽炎と屍人の襲来が重なるのはただの偶然とは思えない。危機が去ったと油断している今が一番危険だ、早急にエリック殿下を逃がした方が良い」


 ニルの表情が一気に険しくなる。


「……分かった、死体の除去の手伝いは要らないのか?」

「この通り俺一人で何とかなる。そりが通る前に作業を終わらせるから俺に構わず出発してくれ」

「すまない……くれぐれも無理はしないでくれ!」


 そりに向かって走り去っていくニルを見届けてから、俺も氷柱を維持しながら逆方向に走り出す。無理やり街道を綺麗にしながら数分走っていると、背後からスレイプニルの独特な六拍子の爪音が聞こえてくる。


 最後の死体を退けて氷柱を街道の脇に転がしながら横に避けた数瞬後、エリック殿下達の乗ったそりが通過していった。


ポスン。


 真っ白な雪の上に一際目立つ新緑色の袋が落ちた。そりに乗っていた誰かが落としてしまったのかと思い、駆け寄って袋を拾うと何かが書かれた紙が袋に巻き付けられていた。


『デミトリ、僕のアミュレットを預かって欲しい。戦闘では役に立たないけど、それ以外で何か厄介事があったらそのアミュレットを使って。第二王子の命で動いてるって言えば大体何とかなると思うけど、必要になったらデミトリの言葉を僕の言葉と思えって言っちゃっても良いよ。合流するまで無事を祈ってる』


 急いで書いたのか筆跡が荒れているが、送り主はエリック殿下に違いない。袋を開くと、鎧の紋章で飾られた白銀のアミュレットが中に収められていた。


 ――よくイバイが許したな……いや、走り書きの砕けた書き方から察するに、エリック殿下の独断かもしれないな。


 このアミュレットは一国の第二王子が軽々と臣下に渡して良いものでも、そりから投げ捨てても良いものではないはずだ。


 アミュレットの入った袋に異様な重みを感じながら恐る恐る収納鞄に仕舞い、屍人と戦闘した時よりもなぜだか精神的に疲れながら、後方に残ったそりに向かってゆっくりと歩を進めた。

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