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第375話 炎じゃない

『呪われ転生者は受難を避けたい』の書籍化発売日が12月15日に決定しました!TOブックス様より刊行されます!活動報告に詳細を投稿させて頂いたので、ご興味があれば覗いて頂けますと幸いです!

「カミールさんと、そちらは――」

「私達は平の王家の影だから敬称は必要ないですよ? リーゼです」


 まだ自己紹介をされていない女性からぶっきらぼうにそう言われ戸惑う。


 ――王家直属の諜報部隊に平も何も無いと思うが……郷に入っては郷に従えと言うし、先輩には従った方が良さそうだな。


「……分かった。説明するまでも無いと思うが自己紹介がまだだっただろう? デミトリだ」

「ヴァネッサです」

「セレーナです、よろしくお願いします」

「よろしくお願い致します!」


 カミールがずっとかなり丁寧な言葉遣いなので若干気が引けるが……もう後戻りは出来そうにも無いな。


「早速ですが、何か思い付かれた対策があれば――」

「すまない、その前に何点か確認しても良いだろうか?」

「もちろんです!」

「……」


 試されるようにリーゼに見られているのが気になるが……進行はカミールがするらしい。


「幽炎に触れた場合どうなる?」

「触れてしまったら身体中に燃え移り死に至ります。条件は判明していませんが、そのまま屍人化するか死霊系の魔物が発生します」

「条件は分からないのか……発生した屍人や死霊の対策はどうなっているんだ?」

「人を襲う事よりもヒエロ山に向かう事を優先する習性が確認されて以降、幽炎の被害者が出たら即退避する事を徹底しています。それでも……」


 カミールが言葉を濁したが、仲間をそう簡単に見捨てられない者も居るのだろう。頭では二次被害が発生するだけだと分かっていてもそう簡単に割り切れない人間が少なからずいるに違いない。


「もう一つ聞きたい。幽炎の量はいつも一定なのか?」

「「幽炎の量??」」


 俺の質問にそれまで黙っていたリーゼも反応した。


「ああ。移動中ヒエロ山の山頂付近から麓に向かって降りて行く幽炎を観察していたが、幽炎の量は増えてもいないし減ってもいないように見える。記録に残っているか分からないが過去もそうだったのか気になった」

「……幽炎が現れてから人里に向かって燃え広がる速度やその様子に関する記述は何件もありましたが、量についての記録は記憶していませんね」

「そうか……分からないのであれば仕方が無いな」

「幽炎の量が一定だと何かあるの?」


 話を聞いていたヴァネッサが不思議そうに首を傾げる。


「特段これといって何かがあると言う訳ではないんだが……普通の山火事なら燃え広がって火種よりも大きな炎になるだろう?」

「そうだね」

「幽炎と呼ばれているがあれは炎じゃない。その事を念頭に置いて対策を考えなければいけないから、可能な限りその性質を理解したいんだ」


 セレーナが元気よく腕を上げて部屋の中に居る全員が注目する。


「……教室じゃないから自由に発言して良いと思うぞ?」

「ごめんね、癖で。襲われた被害者の変化からしてあれは多分呪術の類だよね?」

「俺も恐らくそうだとは思っている」

「希少だけど、聖属性の魔法で対抗するのは試さなかったのかな?」


 セレーナがカミールの方を見ると、彼はゆっくりと首を横に振った。


「浄化の魔法の使い手や聖属性の属性付与が出来る人間はかなり限られた人数しかいません。過去に一度だけ幽氷の悪鬼との戦いに聖女が同行したと言う記述がありましたが……幽炎の対策に参加したという記録はありませんでした」

「幽氷の悪鬼と戦ったの!?」

「聖女の浄化魔法によって一瞬にして幽炎を消し去り、幽氷の悪鬼を撤退に追い込んだそうです」


 幽氷の悪鬼と直接対峙して勝ったのか……少なくとも数百年前の出来事だろうが、それから一度も聖女の協力が得られなかったのか?


「聖女が現れるのは本当に稀な事です。歴代の勇者の光臨と時期を同じくして現れる事が主ですが……丁度幽氷の悪鬼が襲来する周期と重なりヴィーダ王国に聖女が存在する事が残念ながら歴史をさかのぼっても一度しかありませんでした」


 考えを読まれたのか、カミールに先回りされて説明されてしまった。


「他国で現れた聖女に助けを要請することはできなかったのか?」

「勇者が『使命』を果たすために行動を共にしている聖女を、旅の途中に呼ぶのは難しく……」


 以前アルフォンソ殿下が勇者の扱いについて軽く説明してくれたが、確か勇者一行は戦争や政に関与しないと言っていたが災害が発生している国からの救援要請も無視できるのか? 


「……話が脱線してしまったな。今重要なのは幽炎に聖属性の魔法が効く、すなわち呪力の類ということ。炎のように見えるが性質が実際の炎と異なる事。検証していないので確証はないが一定の量しか存在しないこと。この三点だな」

「うーん……その前提で対策??」

「ちょっと難しそうだね……」


 ヴァネッサとセレーナが妙案を思いついてくれるかもしれないと思っていたが、二人共必死に考えてくれているが少し厳しそうだな。


「癖で色々と確認してしまって済まない、逆に考える事を複雑にしてしまったな……こう言う時は考える必要のある条件を絞って行った方が楽かもしれない」

「条件を絞る……?」

「例えば被害の状況から推測するに幽炎は人や、恐らく人が身に着けている衣服や装備には移るが基本的に氷か雪の上しか移動できないだろう?」

「「うん」」

「なら、一旦幽炎の事は考えずに降り積もる雪と氷をどうするのかだけに絞って考えてもいいだろう」


 条件を絞って明確にした事で、ヴァネッサとセレーナも少し気が楽になったみたいだ。


「それなら、こんな方法はどうかな?」

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― 新着の感想 ―
書籍化、おめでとうございます。なろう側はご無理のないよう。お休みどんとこいです。 雪と氷の上しか動けない。 ……地面を火魔法か水魔法で乾燥させれば良さそうですが、雪の時期だし。うーむ。
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