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第364話 意外な特技

 少しだけ気が楽になったのか、肩の力を少しだけ抜いたニコル殿下が丸めた羊皮紙を片手にソファから立ち上がった。


「……色々と上手く行くことを祈っている」

「ありがとう……僕も影ながら君達とヴィーダ王国の健勝を祈ってるよ。それじゃあ失礼するね」


 夜鷹の人間にエスコートされながらニコル殿下が部屋を後にするのを見届けて、息を吐いてからソファにもたれ掛かる。


「兄弟なのに全然似てなかったね」

「あんなのが二人もいたら困る。ニコル殿下が口先だけではなく本当に行動で示してくれるのに期待するしかないな」


 思えば俺もイゴールと全く似ていないし、兄弟だからと言って似た者同士な方が稀だろう。


「あの……」


 口元を隠すように促してから、クレアが話し出すのを待つ。


 一向に話し始めずセレーナとヴァネッサを交互に確認しているが……そうか、俺が異世界人なのは分かっているが、二人がその事実を知っているのか分からず発言を躊躇しているのかもしれない。


「二人は俺の素性を知っているから、異世界に関する情報を話しても問題ないぞ?」

「そ、そうなんだ。えっと、ニコル殿下は……もう展開がぐちゃぐちゃで私の知ってるゲームの内容と違うかもしれないけど、エステル王妃に似て常識人キャラだったの」

「……げーむ……きゃら?」


 必要最低限の情報だけ伝えたが時間を見つけてセレーナに一度ちゃんと説明しなければいけないな……それはさておき、やはりクレアはグローリアと似た異世界のゲームの知識を持っていたか……。


「……殿下の事を信じても良いと言いたいのか?」

「全く同じ性格じゃなさそうだけど……本質はそんなに変わってないと思うの。年下で苦労人の弟属性で、ゲームでは彼の抱えたストレスを解消してあげながら好感度を上げていくんだけど……」

「すとれす……?」


 もしかしなくてもゲームの中で抱えている問題はクリスチャン関連だろうな……。


「最終的には内に秘めたM性に気付かせてあげて、自分がドMだって自認する手助けをしてくれたヒロインと結ばれるんだけど――」

「ちょっと……それ以上は止めてくれ、十分だ」

「えむせい? どえむ?」

「セレーナちゃん、これからは分からない単語が出て来てもあまり復唱しちゃだめだよ……私が後で教えてあげるから……」


 知らない単語に困惑しているセレーナにヴァネッサが声を掛ける横で、片手で両目を手で覆う。


 正直そこまでは知りたくなかった……クレアが事実を話している確証も無いし、今の情報は彼の名誉のためにも忘れよう。


――――――――


「到着が遅れていたのはそう言う事だったのですね」


 ニコル殿下と入れ違いになる形で、一度だけ会った事のあるカミールという王家の影の一員が待機している部屋に訪れたので事情を一通り説明させてもらった。


「連絡がなかったのは――」

「イバイが王城で待機している他の王家の影と連携してくれたが、万が一に備えて持ち場を離れられないと判断したらしい」

「それは仕方がないですね……分かりました! 私は移動手段を警護中の仲間達に報告に戻ります」

「頼、む……」

「……大丈夫ですか? もしかして他に何かあるんでしょうか?」


 俺が最後の発言を言い淀んでしまったことをカミールが疑問に思い、問いただされてしまったので慌てて首を横に振る。


「いや、特殊な形での加入だったが俺とヴァネッサは一応王家の影の人間だ。ニルともずっと砕けた口調で話していたから当たり前の様に普段の口調で話していたが、先輩に敬語を使わないのは――」

「全然気にしてないので大丈夫です!! 王家の影は歴の違いはあれど長以外は基本的に平たい組織なので。流石にまとめ役の人間がニルさんを含め何人かいますが、全員そこまで気にされる方でもないので」

「そうなのか……?」


 確か、ニルは上司がいる様な発言をしていたはずだが……。


「ニルさんも、デミトリさんとヴァネッサさんにちゃんと組織の人間を紹介できていない事やちゃんとした説明がまだできていない事を憂いていたので、ヴィーダ王国に帰国したら改めて説明して貰えると思います」

「分かった。教えてくれてありがとう」

「どういたしまして! それでは私は失礼しますね」


 そう言い残してカミールは静かに部屋を出て行き、無事伝言係の任を終えた俺達はただエリック殿下達の話し合いが終わるのを待つ状態になった。


「大丈夫なのかな……?」

「舞台の件もそうだけど、今回の舞踏会の後始末をどうするのかで話し合いが難航してるのかも……」


 そう長くは掛からないだろうと考えていたが、テーブルの中心に置かれたテーブルランプの中で燃えている蝋燭の高さが一センチ程減った辺りで、ヴァネッサやセレーナもエリック殿下達が一向に帰って来ない事実を不審に思い始めた。


「正確な時間が分からないが、待ち始めてから少なくとも一時間は経っていそうだな」

「一時間十八分五十四秒……」

「「「え?」」」


 全員の視線が突然発言したクレアの方に集まる。


「その、この部屋に着いてから経った時間……だよ?」


 そんなに正確に分かるはずが――。


『考え事かな? ちなみにタイムリミットはあと二分四十秒だからね?」


 武闘技大会でくれ後戦った時の事を思い出す。考えて見ればあの時も時計を確認している素振りも見せなかったのに正確に時間を言い当てていたようだった。


「えっと、私昔から時間を測るのだけ得意なの」

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― 新着の感想 ―
キッチンタイマーボーイならぬキッチンタイマーガール?クセが強いなぁ。
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