表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
386/477

第363話 弟王子への助言

「これで問題ないかな……後は父上と母上がエリック殿下達に聞いた内容も纏めれば……」


 羊皮紙を丸めながらニコル殿下が小さくため息を吐く。


「舞台の台本は初稿が出来た段階ですぐにエリック殿下宛てに送る。こちらが無断で舞台を講演するようなことは絶対にしないから安心して欲しい」


 頬を掻きながらニコル殿下が俯き、少し考えてから顔を上げて力強く宣言する。


「散々迷惑を掛けた後だから信用できないかもしれないけど、これから行動で示してヴィーダ王国からの信頼を取り戻すから」

「……分かった」


 ニコル殿下の人物像はまだ掴み切れてないが、彼の言葉が本心である事を願うしかないだろう。


 ヴィーダ王国とガナディア王国の緊張状態が落ち着くまではアムール王国との無駄な諍いは避けたいからな…… 願わくばそれ以降も争いなど起こらないのが良いが。


 彼とエステル王妃には、アムール王を無理やり動かしてでもしっかりと国を統治してもらいたい。


「それじゃあ僕はそろそろ失礼するよ。言うまでも無いと思うけど、色々とやる事があるから……」


 相当疲れていそうだな……ニコル殿下からしてみれば兄のやらかしの尻拭いを急にさせられてる上に立太子してしまったんだ。余裕が無いのは当たり前か。


「一人で抱え込まず、分担できる仕事は信頼できる人間に任せた方がいい」

「……言葉を濁さずに言うけど、最早敵国の人間と言っても過言じゃない僕に助言をくれるの?」

「これから行動で示してくれるんだろう? 無理がたたってニコル殿下に倒れられたらこちらとしても困る。約束が果たされなかったらこちらに利が無いからな」

「ふ、幽氷の悪鬼殿は手厳しいな! でもその通りだね、ありがとう」


 少しだけ元気を取り戻したかと思いきや、ニコル殿下の表情が再び暗くなる。


「はぁ……馬――兄上に邪魔されて話す機会は限られてたけど、エリック殿下も気さくで聡明な方だった。君達との出会い方がこんな形になってしまって心から悔しいよ……」


 わざわざ実の弟がエリック殿下と接触するのを妨害していたのか? どこまでも救えないな……クリスチャンは自分が王位を継承する事が当たり前の様に振舞っていたが、内心ではニコル殿下に取って代わられる事を警戒していたのかもしれない。


「めそめそと弱音を吐いてしまってごめんね。過ぎてしまった事を悔やんでも仕方ないのは分かってる。助言は有り難く受け取って早めに側近候補を集めるとするよ」

「……候補は既にいるんじゃないか? マキシムもその一人だろう」


 かまをかけてみるとニコル殿下が苦笑した。


「そこまで見通せる相手になんで兄上は喧嘩を売ろうとしたのかな。本当に理解に苦しむよ……隠しても無駄だから言っちゃうけど、舞踏会で兄上が何か計画してることを伝える伝令として、マキシムに指示を出したのは母上だよ」


 やはり、あの不自然な接触はエステル王妃の差し金だったのか。


「ただマキシムの名誉のために言っておくけど、彼は僕達が声を掛ける前から行動するつもりだったよ」

「そうだったのか?」

「呼び出された時凄く驚いてた。兄上の計画を事前に報告してくれたジャーヴェイス隊長もそうだけど、バトウ伯爵家()()は今回いい働きをしてくれた」


 含みのある言い方だな……他の元側近候補たちやその家は頼りにならないと判断したのだろう。しかもアムール王国では珍しくまともと評判のルーシェ公爵家とセヴィラ辺境伯家が離反するとなると……ニコル殿下が頼れる人間はかなり限られてくる。


 考えている事を伝えるべきか一瞬迷ったが、これは非公式な会合だ。少しぐらい助言しても問題ないだろう。


「出過ぎた発言かもしれないが……ジャーヴェイス隊長だけでなく、彼の部下も個人的に見込みのある人材に見えた」

「兄上の護衛を任されていた衛兵たちのことかな?」

「ああ。これはいい意味で言うが、彼等の忠誠心はアムール王家にあってクリスチャンにはなかった……そう言う印象を俺は受けた。急に自分が逢瀬をしたいからと言って、真夜中に護衛をしろと命令してくる上司ならそうあって然るべきだと思うが」


 心当たりがあるクレアがソファでまた俯いてしまったが、事実だから仕方がない。クリスチャンの愚行についてある程度把握していたのか、ニコル殿下も複雑な表情を浮かべる。


「逆に言えば護衛担当がクリスチャンからニコル殿下に変わったとしても、妙な反発する人間は少ないはずだ。それに内心どう思っているのかはともかく護衛をしっかりとこなすあたり、任務に忠実な人間が多いと思う」

「なるほど……」

「一度しか会っていなから実情と乖離しているかもしれないし、あくまで参考程度に留めて欲しいが……一応伝えておいた方が良いと思った」


 これ程不確かな情報を一国の第二王子に言う事自体がかなりの愚行だが、今のアムールの状況を鑑みるとそうとも言っていられない。


 ヴィーダ王国の為に少しでもアムール王国が安定するのであればという思いを込め、ニコル殿下に助言を送る。


「教えて貰えて助かったよ。兄上の護衛を担当していたからと言って評価を変えるべきじゃないと、そう頭で分かっていてもどうしても色眼鏡で見てしまうからね。何も聞かずにいたら僕の護衛を選定する時に影響が出てたと思う……ジャーヴェイス隊長と彼の部下達について一度話し合ってみるよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これ以上に無い反面教師な馬鹿のおかげかニコル殿下はまともだったな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ