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第358話 茶番返し

 クリスチャンが馬鹿げた宣言をした瞬間違和感に気付く。まるで武闘技大会と同じように、クリスチャンの声量を超えてはっきりとした声が広間中に響き渡っている。


「確かに……!」

「そうだよ、だって第一王子だし」


 早速生徒達が流されそうになっているのを横目に貴族達の反応を伺う。今の所、一部を除いてまだ扇動されている様子はないが不味いな……。


「クリスチャン……」


 国の主が揺らいでしまってどうする……先程までは気合を入れて演技していたのか、化けの皮の剥がれたアムール王は最早子を思う父親の様にしか見えない。


 情けない状態のアムール王の後ろをちらりと確認すると、口元を扇子の様なもので隠しながらエステル王妃が周囲に指示を出しているのが見える。


「アムール王国を導くのはこの俺であるべきだ!!」

「そ、それは――」

「この場に居る者達だけじゃない、俺は全国民に告ぐ! 八代目アムール王になるのは――」

「クリスチャン殿下、いやクリスチャンを取り押さえろ!!」

「貴様ら、次代の王に向かって不敬だぞ!!」


 今更になってクリスチャン一行を取り囲みつつ取り押さえる気配のなかった兵士達が動き出す。声を届ける異能は想定外だったのか、エステル王妃からもう静観する必要はないと指示が飛んだのだろう。


「ぐぁあっ!?」


 クリスチャンを守っていたピカード憲兵隊長を含む憲兵達は一人を除いて難なく切り伏せられたが、クリスチャンを掴もうとした兵士の腕があり得ない方向に曲がり異音を発しながら割れた鎧の隙間から鮮血が漏れ出る。


「誰も真の王である俺には触れられない! 今すぐ打ち首にしない事に感謝しながら下がれ下郎共!!」

「すごい、ほ、本当にクリスチャン殿下は選ばれた王なんだ」

「あの威厳、まるで三代目王の生き写し……」


 俺には部下を守らず、自分だけ隷属の首輪で縛ったクレアの異能に守られている小物にしか見えないが……意志が弱く、既に場の雰囲気に流されていた者達は声に熱を込めながらクリスチャンを賞賛しだしている。


 このままだと――ん? 


 どさくさに紛れて何が起こったのか見落としてしまったが、クレアが切り傷を負っていないか……?


 唯一切り伏せられなかった憲兵に守られているクレアの腕には、先程までなかった裂傷がある。クリスチャンは馬鹿だが、『俺だけ守れ』と指示して自分の切り札となるクレアを見捨てる程馬鹿ではないはずだ。


 そもそも奴は彼女に惚れていたはずだ、隷属の首輪を嵌めた意味は分からないが安全に配慮しないなんてあり得るのか……?


「エリック殿下」

「ちょっと待ってね」


 俺の声掛けと同時にエリック殿下が懐に手を伸ばし三度遮音の魔道具を起動する。


「待たせてごめん」

「事前に相談していた()()()で進めたい」

「僕としてはこの事態を収めるべきなのはアムール王家だと思うし、デミトリとヴァネッサに余計な負担が掛かるからやらせたくないんだけど――」

「殿下、お気持ちは分かりますがデミトリ殿の提案を受け入れるべきだと具申致します」

「……分かった、正直アムール王家にとってもクレアと……あの声の異能持ちが居るのは想定外の事態みたいだし、いつ実行するのかはデミトリ達に任せるよ」

「承知した」


 イバイが援護射撃してくれたおかげもあったが、エリック殿下自身あまり時間に猶予が無いと理解していたのだろう。どんどん悪化していく状況にエステル王妃が焦っているのがここからでも分かる。


「ヴァネッサ」

「いつでも行けるよ!」


 互いに頷き合い、エリック殿下が遮音の魔道具を切った事を確認してから一歩前に踏み出す。


「父上……いや、現アムール王ランベルトよ! 王位を――」

「馬鹿も休み休みに言え不貞野郎!!!!」


 多分この世界に生を受けてから一番大きな声でそう叫ぶと、急な乱入者の大声に広間の喧騒が一瞬止んだ。注目の的だったクリスチャンから視線を外し、招待客達がゆっくりとこちらの方に振り向く。


「貴様、デミトリ……!」

「既に廃嫡されて王族でもないただの平民が簒奪者の真似事をするとは……恥を知れ!!!!」

「デミトリ、ここはアムール王家に任せよう! 僕達が介入するべきじゃ――」


 エリック殿下が()()()()()()()()()伸ばした腕を振り払い殿下が尻もちを付き、招待客達から驚愕の息が漏れる。


「幽氷の悪鬼は何人にも縛られはしない!!」


 部下である俺の暴走はヴィーダ王家に非があると多少は思われても、これで悪者は基本的に俺一人になるな。馬鹿げた二つ名に関する噂は悪化するかもしれないが……仕方がない。


「デミトリ……!! お前の、お前のせいで!!!!」

「国賊になったのは俺のせいではなくお前が愚物だからだろう、人のせいにするな!!!!」


 茶番には茶番で返してやろう。


 大勢に見られながら馬鹿みたいな演技をしている事に顔が赤くならない様耐えていると、俺と並び立っていたヴァネッサが直径二メートルはある紫焔の火球を広間の天井近くに生成した。


「貴族でもないお前の相手をするのにわざわざ王家が出る幕はない、俺が裁いてやる!!!!」

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― 新着の感想 ―
炙り焼きでこんがりと綺麗に仕上げよう
それでも恋食い国がギリギリ面子を潰さないところに収めようとするところが殿下もデミトリも甘いというかなんというか。 味方以外は容赦ないタイプだったら、憲兵隊が拘束失敗時点で問答無用の制圧(婉曲表現)に走…
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