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第347話 気の持ちよう

 親子喧嘩の巻き添えを食らいたくなかったのでソファの背もたれに体を預け息を潜めていると、隣からヴァネッサが声を掛けて来た。


「なんか、王妃様の事が心配だね」

「王妃の?」


 てっきりルーシェ公爵とレイナ嬢について話すのかと思っていたが、どうやら二人のやり取りを見てヴァネッサの関心はよそに向いていたようだ。


「だって、話を聞いてる感じだと自分も王様が不甲斐ないから裏で色々と仕切ってるんでしょ?」

「そうみたいだな……エリック殿下からの又聞きになるが、実務はほぼエステル王妃が取り仕切っているらしい」

「……自分が出来たんだからレイナさんも出来て当たり前だと思って婚約者に選んだとしたら自分勝手だし、逆に自分も苦労したからレイナさんも苦労して当たり前って考えなら余計にヤバそうと言うか……」


 エリック殿下から話の分かる相手としか聞いていなかったのでそこまで深く考えていなかったが、言われてみると……。


「王族だし色んな事情があったりするのは分かるよ? レイナさん以外に適当な候補がいなかったとかね? でもクリスチャンの事ずっと野放しにしてレイナさんが王家に不満を感じてる時点で、フォローしてたわけでもなさそうだし」


 過去アルフォンソ殿下にエステル王妃がヴィーダ王国のロレーナ王妃の姉だと聞いていたこともあり、なんとなく印象は悪くなかったがヴァネッサの懸念を聞いて途端に心配になって来る。


「一緒に前に進むんじゃなくて、片方が二人分頑張って支えないと成立しない時点で上手く行くわけ無いのに……」


 逆隣りでセレーナが低い声で呟く。


 クリスチャンの存在とレイナの境遇は、彼女にとって前世を思い出す悪い切っ掛けになっていそうだな……


「すまない、一瞬離席させてくれ。ヴァネッサ、セレーナ、行こう」

「「え!? 分か『った』『りました』」」


 口論に熱が入っていたのに返事が息ぴったりだったルーシェ公爵とレイナ嬢に呆れながら、セレーナとヴァネッサを連れて居間の外の廊下に出た。


「急にどうしたの、デミトリさん?」

「あの場を収められるのが立場上エリック殿下しかいない。口を挟む隙が無いみたいだから無理やりきっかけを作っただけだ。これで少し時間を置いて俺達が戻った頃には落ち着いているだろう」

「後、セレーナさんが心配だったから連れ出したかったんだと思うよ」


 敢えて濁していた部分をヴァネッサに言われてしまい恥ずかしさで頬を掻く。


「ふふ……私が居ても場違いだなって思ってただけだよ」

「それを言ったら私達もそうだよ」

「デミトリさんだけじゃなくて、ヴァネッサさんも王家の影なんでしょ? 私とは立場が違うよ」


 俺に関してはニルが明言していたが、セレーナは前世が公爵令嬢だった事もありその辺の察しが良いな。


「場違いなのには変わりない。俺達を除いたら全員高位貴族だ」

「私もデミトリのおまけで王家の影になっただけだから、全員『誰だこいつ』って思ってるだろうし居心地悪かったよ」

「ふふ、そっか」


 少しでもセレーナの気を紛らわせるために一人じゃないと伝えたかったのだが、やはりどこか壁を感じるな。ヴァネッサと目を合わせて最終確認する。


「エリック殿下経由でヴィーダ王の許可を得てはいるが、本当にヴァネッサも賛成してくれるのか?」

「言わないと話し辛いと思うし、私は大丈夫だよ」

「……?」

「セレーナ、俺とヴァネッサは転生者だ」

「転、生者……? 転生者!?」


 一瞬何を言われたのか分からない様子だったセレーナが、反復しながら俺とヴァネッサを交互に見る。


「ややこしい話だが……俺達はこの世界で一度死に転生したわけではなく、異世界から魂を誘われて転生させられた」

「私は前世の記憶がはっきりしてるけど、デミトリは朧気で二人共別々の神様に転生させられたの」

「ちょっと、ちょっと待って!」


 急な俺達の告白をすぐには受け入れられない様子のセレーナが拳を固く握りながら再確認する。


「本当に??」

「俺達が嘘を付いていた場合、セレーナは今狂人二人に囲われてる事になるな」

「そんな冗談を言ってる場合じゃ――ヴィーダ王の許可って言ってたけど、王家公認なの!?」

「こんな状況で言う事じゃないかもしれないが、ヴィーダ王国でも色々とあってな……」

「成り行きで説明する事になったの。エリック殿下には、武闘技大会の直前まで打ち明けてなかったけど」

「ヴィーダ王やアルフォンソ殿下の許可なく、勝手に伝えるべき事でもなかったからな……」

「本当なんだ……」


 ようやく俺達が転生者である事実を呑み込んだセレーナが、疑問を露にしながら問いかけて来る。


「……どうして私に教えてくれたの?」

「仲間に隠し事をしても仕方が無いからな。後、詫びなければいけない事がある……俺は愛の女神と会って、ある程度セレーナの事情を聞いている。今まで黙っていて申し訳なかった」

「フィーネ様に……!? 私の――知って……」


 色々と察したセレーナが狼狽えた後、自嘲気味に笑う。


「……うじうじ悩んでて馬鹿みたいだと思ったでしょ」

「悩むことで馬鹿になるなら俺は大馬鹿者だな」

「私も人の事なんて言えないよ……」

「……気の持ちようだって思わないの?」


 気の持ちよう……? そんな単純な問題ではないと思うが。

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