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第335話 あっちを向いて

「クリスチャン殿下はデミトリが決勝まで勝ち上がったのにびっくりしてたけど、私は絶対に負けないって信じてたよ」

「……お前に俺の何が分かる」

「ふふ、デミトリの事なら大体分かるよ?」


 不気味な笑みを浮かべながらクレアが語り始める。


「原作には居なかったエリック殿下のミステリアスな護衛さん。二つ名持ちの実力者で、固い口調と寡黙な性格で周りを寄せ付けないのにコルボの雛と心を通じさせるギャップ萌え要因。最初は誰なのか分からなくて驚いたけど、絶対私が死んだ後に追加されたDLCキャラだよね!」


 いったい何人異世界人がいるんだ……ボロボロの状態の俺と違いクレアは無傷だ。厄介な加護か異能を持っているに違いない。

 

「言っている意味が分からないな」

「分からなくていいよ! これから分からせてあげるから!」

「両者準備はよろしいでしょうか? 優勝の栄光を手にするのは前評判通りクレア選手になるのか!? 第二百二十三回アムール武闘技大会決勝戦、試合開始!!」


 剣も構えず微動だにしないクレアを警戒して一旦彼女から距離を取る。


「結構慎重派なんだ! まぁ、かなり怪我してるもんね」

「無駄口を叩いている暇があったら剣を構えたらどうだ?」

「私はもう準備万端だよ! 受け止めてあげるから、いつでも攻撃してきて!」


 明らかに攻撃を誘われているが、このまま膠着状態を維持するのが目的だった場合取り返しが付かない事になりかねない。


 気乗りはしなかったが様子見で水球をクレアに向かって放つと、着弾する直前に急に水球が軌道を変えて一直線に俺の頭を目掛けて飛んで来た。


「くっ……!?」


 横に飛び退き回避した俺を見ながらクレアがくつくつと笑う。


「やっぱりモブキャラとは一味違うね! 今日私を攻撃してそのまま死ななかったのはデミトリが初めてだよ!」

「……攻撃を反射する異能か」

「うーん、半分正解で半分不正解! でも理解できないと思うからそんなに深く考えなくても良いよ」


 半分不正解か……まだ仕掛けがあるみたいだな。考える時間を稼いだほうがいいかもしれない。


「……それでどうするつもりだ? 俺の攻撃が通じないなら、お前の方から攻撃しないと結着は一生つかないだろう」

「ふふ、心配しなくても大丈夫だよ! 私には切り札があるから」


 クレアが杖代わりにしていたヴィセンテの剣を両手持ち上げ、こちらに見せびらかすように掲げる。


「デミトリみたいなキャラは屈服させたら好感度がカンストする系でしょ? だから私に勝てないって理解するために三分間だけ待ってあげる。その間は思う存分攻撃してきて! でも三分経ったら降参してね? じゃないとこの剣を壊しちゃうから!」

「下衆が……!」

「ふふ、今はその態度でいいよ! 私に敵わないって心に刻まれて、甘々になった時のギャップが大切だし!」


 落ち着け、考えろ。


 ヴィセンテの剣を持ち上げるだけで腕を震わせている位だ、クレアの身体能力は戦闘訓練をしていない平均的な女生徒程度だろう。


 だとすれば剣を破壊できる能力を別に持っているのか、俺の攻撃を反射した能力を攻撃にも転用できるのか……?


「考え事かな? ちなみにタイムリミットはあと二分四十秒だからね?」

「うるさい!」


 焦ったふりをしながらもう一度水球を放つ。今回は水球を放ってから魔力の制御を手放さず、水球が反射された直後魔力を制御して止められないか検証してみた。


 放った勢いと同じ速度で反射された水球が、俺に到達する前に勢いを失い丁度俺とクレアの中間に当たる位置で宙に留まった。


「へー、器用だね! あと二分三十三秒だよ!」

「ちっ……」


 気づかれない様に放っていた霧の魔法をクレアの背後で集めて、先程の水球と同時に放っていた水球が音を立てながら闘技場の壁に衝突する。


 正面から放った水球も背後から放った水球もクレアからおおよそ一メートルの位置で反射された。範囲を調整できるのかどうか不明だが、取り敢えず彼女の半径一メートルに以内に入った物は反射されると見ていいだろう。


「二分二十秒五しか残ってないけど、考え事ばかりしてないで攻撃しなくても良いの?」


 焦らそうと話し掛けて来るクレアを無視してまた水球を放つ。今度は歩くような緩やかな速度で、彼女の足元の地面を濡らす事を意識しながらゆっくりと水球をクレアに近づけていく。


「なにしてるのかな? こんなの当たっても私には勝てないよ! 後に二分八秒~」


 クレアを攻撃するつもりのない水球もそれまでの水球と同じ距離で弾かれ進めなくなる。水球の魔法制御を解き、地面の砂を一握り拾い上げクレア目掛けて放り投げる。こちらも今までと同様にクレアに到達する事は無かった。


「ふふ、何を考えてるのかな~? 後一分五十秒しか残ってないよ?」


 クレアが呼吸できていると言う事はあの能力は何でもかんでも弾いている訳ではないはずだ。空気を反射していないし、俺の声が届くと言う事は空気の振動も伝わっている。こちらが見えると言う事は光も反射していない。


 水球が弾かれてしまうのは彼女の能力が魔法だけを弾くからなのか検証するために砂を投げてみたが、砂も弾かれてしまった。砂と空気や光の違いは一体なんなんだ?


 クレアを害するものを全て自動的に反射する能力なのであれば、俺が彼女を傷つけるつもりなど無く地面を濡らすために放った水球が弾かれた説明が付かない。


 ――クソ、能力の法則が分からない……!

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