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閑話 カリスト

カリストの真意が分かり辛いかなと思ったので補足のお話です。読まなくても本編を楽しめるので、気になったら覗いて下さい!

「おい!! なんでタニアを援護しなかった!」

「前も説明したけど、僕の――」

「言い訳は聞きたくない!!」


 説明しようと近寄ったベルナルドに裏拳で殴りつけられて、口の中に鉄の味が広がる。


「ベルナルド、もういいんじゃない?」

「足手纏いが居たらいつまで経っても白銀級になれないよ?」

「……その話は後だ」


 ベルナルドと一緒に、仲間だと思っていたカルラとリフィエも去っていく。


「……説明しようとしても聞いてくれないじゃん……」


――――――――


「戦闘を全て俺達に任せて貢献しない無能にもう用はない!!」


 冒険者ギルドの中心でベルナルド達に役立たずと罵られながら、周りで傍観する冒険者達から冷ややかな視線を送られる。


 ――……もう何を言われてもいい、僕は今日から変わるんだ!


「やっと僕の物語がスターティン!」

「? なんだその馬鹿みたいな口調は……頭までおかしくなったのか?」

「いいから私達の前から消えて」

「バイバイ、カリスト」


 薄々追放される事は気づいてたけど、誰かが引き留めてくれるって期待してなかったって言ったら嘘になる。涙をこらえながら、イメチェン用に買ったシルクハットの鍔を降ろして顔を隠しながら走り出す。


 ――良く分かんない世界に転生させられて、怖くて不安で仕方が無くて、僕なりに頑張った結果がこれか……!


 もういい!! 弱い自分とは今日で決別するんだ! とにかく楽しんで、人の目を気にしないで絶対に幸せになってやる!


――――――――


「イメチェンした時のキャラ付け間違えちゃったかなぁ……」


 夜間警邏の依頼をこなしながら一人愚痴る。追放された後、僕の情報はアムールの冒険者達の間ですぐに広がっちゃった。


 仲間にならないか冒険者に声を掛けても、おかしな人扱いされて誰もまともに取り合ってくれない。


 でもこのキャラを続けないと心が折れそうでやめるにやめられない。飄々としたお調子者で、自由な風みたいな……僕が孤児院で読んで憧れた物語のヒーローの影を演じないと僕は……。


「あれは……?」


 沈んだ気持ちと共に地面に落としてた視線を上げると、深夜なのにデート? してる二人組が見える。今の所異変はないけど、変質者が現れるらしいし警告しないと。


「そこのカップル~止まるんだ!」


――――――――


 失敗ばかりだ……


『オーマイガー、彼対人スキル低すぎない? そんなんじゃ彼女も大変だ!』

『夜中にフードを被ってて変なセンスだとは思ってたけど、もしかして僕に出会えて自分の服装を客観視するきっかけになったのかな? 感謝してくれても良いよ!』

『あれ? やっぱり彼ちょっとコミュ障気味だよ、全然しゃべらないや! 僕の方がきっと付き合いやすいよ~どう、乗り換えてみない?』


 思い出すだけで頭が痛い。なんであんなことを言っちゃったんだろ……失礼な事を言って、魔力操作が下手で周りに他に誰かいないか確認しようとしたのを攻撃の予兆だと勘違いされて、あのカップルにめちゃくちゃ迷惑を掛けちゃった。


 やっぱり因果応報なのかな、この水路に落ちたのは。足を取られて身動きが取れないし、体から急激に熱が奪われてく。このままじゃ……。


 ――いっそ、このまま諦めて……。


「あまりいい本は見つからなかったね」

「そうだな。代わりに一生分の恋愛小説を見たと思う……」

「ピー……」


 ……!


「助けて~! ヘルプミー!!」


――――――――


 命を救って貰っただけでもありがたいのに……。


「ようは首を切られたと言う事だろう? 金級パーティーから解雇されるなんて余程の事をしたんじゃないか?」

「うーん……したっていうか、僕のサポートがなかったことにされたというか……とにかく、追放された後誰かが僕の真価に気付いて声を掛けてくるのを待ってたんだけどアムールの冒険者達からは避けられちゃって――」

「それで外国から来た俺に目を付けた訳か……事情を知らず色眼鏡で判断しない相手を探しているなら別に俺に拘らず他国に行けばいいんじゃないか? 隣国のハラーンなんてどうだ?」

「勇気を出して自分から誘ってみたのに冷たい……! でもアムールでパーティーを組めないならそうなっちゃうよね~」


 僕の事が苦手そうなのに、それでも話をちゃんと聞いてくれるんだ。ちゃんと僕と向き合ってくれて、話を聞いてくれる相手との会話は本当に久しぶりだよ……。


――――――――


「分かったな? ベルナルドと共に絞首台に立ちたくなかったらデミトリを殺せ」

「……僕は関係ないのに酷いよ! せめて、僕の能力でそのデミトリって奴を弱体化できるように大会参加者が署名する誓約書に細工させてよ!!」

「ふん……それ位ならいいだろう。ピカード、奴の剣を奪わせるためにステファンを脱走させる手配のついでに誓約書一式を闘技場の関係者から貰っておくよう部下に指示してくれ」

「承知致しました」


 なんだか状況が良く分からないけど……恩をあだで返す程僕は腐ってない……!


――――――――


「てめぇ、なにをするつもりだ?」


 二回戦に向かうためにデミトリが控室を出た後、準備をするために立ち上がった僕を奇怪そうに薬師の女の子が見つめる。


「詳しくは話せないけどデミトリが危ないんだ。君も薄々気づいてるでしょ? 今年の大会は何かおかしいって」

「それは……」

「これからデミトリを助けるために協力して貰えないか頼んで回るから止めないで?」

「そんなにヤバい状況なのか?」

「うん……でも安心して。君には迷惑を掛けないから」

「君じゃねぇ、ソフィアだ」

「……ソフィちゃん?」

「調子に乗んな!! 二度と愛称で呼ぶんじゃねぇぞ!?」


――――――――


「へへ、それじゃあまたね! マイベストバディ!」

「……無事を祈ってる!」


 なんとかなってよかった……! 僕に出来るのはここまでだ。後はデミトリが決勝戦で勝てる事を祈るしかない。


 控室に戻ると、心配していたのか通路の脇でソフィアさんが出迎えてくれた。


「ちゃんと話せたか……?」

「ソフィちゃん! おかげでちゃんと話せたよ!」

「てめぇ、愛称で呼ぶなっつっただろ!!」


 ソフィアさん……デミトリが何に巻き込まれてるのか分からないけど、あの我儘王子はデミトリを治療してあげて看病したソフィアさんにもちょっかいを出しそう……。


「ソフィちゃん、びっくりすると思うけど一緒に国を出よう!!」

「はぁ!?」

「あまり説明してる時間がないんだ。実は――」

「そこまでだ」


 ソフィアさんと二人きりだったはずの控室に、いつの間にか全身黒ずくめの男が居た。


「誰だ!?」

「デミトリの仲間だ。ヴィーダ王家の影と言っても伝わらないかもしれないが……」

「ピー!」

「私も居れば信じてくれる?」

「君は、ヴァネッサちゃん!?」


 デミトリと出会った夜、彼と一緒に居た女の子が突然現れた男の影からひょっこりと顔を出した。


「……知り合いか?」

「うん、本当にデミトリの仲間みたいだけど……ごめんね! ちょっと僕とソフィちゃんは急いでるんだ!」

「国から逃げるつもりなんだろう? エリック殿下がお前達二人を保護すると決めたから心配するな」

「「え!?」」


 ソフィアさんも状況を理解できていないのか、僕と反応がハモる。


「観客席から見ていたが、わざわざ闘技場の通路で待機して試合で傷付いたデミトリを介抱していただろ? 絶対にとは言えないが……それで嬢ちゃんに危険が及ぶ可能性がある」

「当たり前の事をしただけで――」

「そういう感性を持っている人間だからこそ、万が一君が傷付いたらデミトリは自分を許せないだろう。こちらを助けると思って一緒に来てくれないか?」


 やっぱりあの我儘王子はろくでもない人間みたいだ。デミトリと関わっただけでソフィアさんを傷つけるかもしれないなんて……! でもデミトリの仲間が保護してくれるなら安心だ、だったら僕は――。


「えっと、それならソフィちゃんは任せたよ! 僕はこのまま逃げるから――」

「馬鹿を言うな。二回戦と三回戦を見ていたぞ? 二戦とも死に掛けていたのに傷が一切癒えてない。竜の間に戻ってから碌に治療も受けてないだろう? 一人で逃げるのは自殺行為だ」

「……覚悟の上さ! それに、あんな啖呵を切ったのにアムールに残ったらカッコ悪――」

「カリスト」


 それまで会話を黒ずくめの男に任せてたヴァネッサさんが一歩前に出る。


「……ヴァネッサちゃん?」

「無様な姿で泥水を啜ってでも生き残ってくれた方が、カッコよく死なれるよりデミトリは嬉しいの。これ以上デミトリの心労を増やさないで?」

「ピ!!」

「ひ、ひゃい!!」


 僕、いつの間にか覚醒したのかな? 今まで感じた事のない殺気をヴァネッサが発してるのが分かったけど……それにしても、ああやって別れた後デミトリに会うのは気まずいな……。

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― 新着の感想 ―
大丈夫。ソフィアさんの護衛ていどにしか思ってないから。しかし、このまま仲間?が集まっていくのだろうか
薬師の姐さんが危機から脱したのは何より。 しかしカリストの様子だと竜の間にもポーションないんか?姐さん3徹するほどの量があった筈。馬鹿坊の手下の誰かさんくすねてないだろうな。
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