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第327話 デミトリの意気込み

対戦相手の名前をジャン・ミシェール→レイモンドに変更しました(前話にも反映されています)

「皆様お待たせいたしました! 激戦を繰り広げ、見事二回戦に勝ち進んだ戦士達がぶつかり合う、第二回戦の一試合目がいよいよ始まります!!」

「「「「わああああああああ!!!!」」」」


 頭上から闘技場を照らし、僅かに俺の影を地面に映し出す陽射し。間もなく正午を迎えようとしている事実に軽い頭痛を覚えながら、眉間に出来た皺をほぐす。


 俺が戦った開幕戦の後、最低でも三十の試合が執り行われたはずだ。負傷者の治療に集中していて気づかなかったが、控室に入ってからかなり時間が経っていたらしい。


 開会式が行われるのが早朝だと案内された時から嫌な予感はしていたが、まさか全試合を一日で消化するつもりだとは思わなかった。一回戦の時点で選手が半数脱落したので、この調子で大会が進めば日が暮れる前には決勝戦も終わるような配分で進行している。


 ふざけた大会の段取りに腹を立てているためか、観客席から降り注ぐやかましい歓声もより疎ましく思えてしまう。


 また呪力を刺激するのを避けたい一心で雑音に耳を貸さないよう意識して、心を無にしながら周囲を確認見渡した。


 武闘技大会の開幕戦を行う前とは比べ物にならない量の血痕と戦闘痕が闘技場に刻まれ、冷たい風に浮かされた砂が忙しなく宙を舞う。


 闘技場の中心に近づけば近づく程地面は鮮血に近い紅から錆色まで異なる濃薄に変色した砂が集い、血に汚れていない砂との対比でまるで大地が病に侵されているかのような印象を受けた。


 そんな闘技場の中心で静かに俺の様子を伺う男は、特徴的な眼帯で隠されていない方の瞳で舐めるように俺の事を観察している。


「二回戦、第一試合はレイモンド選手対デミトリ選手! 両者無傷で二回戦に勝ち進んだ強者ですが、デミトリ選手は開幕戦で優勝候補のフィルバート選手を不意打ちで下したこともありその実力はまだ未知数です!正々堂々と戦った時、彼がどんな戦いを見せるのか注目していきたいです!」

「イザベラちゃんに謝れー!!」

「卑怯な手を使わないで男なら真っ向勝負しろ!!」


 司会の発言に煽られ、心無い野次が観客席から無数に飛んで来たが心は一切揺れなかった。


 不意を付いたのは事実だが俺は何も卑怯な事はしていない。相手が攻撃した後に出来た隙を利用して意識の外から反撃しただけだ。


「デミトリ選手、二回戦への意気込みをお願いします!」

「特にない」

「……観客も選手達にピエール・ルイス陛下のような勇猛果敢な戦いを期待していますが、戦法を変えるおつもりは――」


 クリスチャンの指示か? どこまでも腐っているな……寝言は寝て言って欲しい。


「俺の戦い方について講釈を垂れる暇があるなら、選手控室に医療班を手配しろ」

「き、急に何を――」

「ポーションの係をしていた薬師が()()で負傷した選手全員の治療をしていた。手が回らず、酷い怪我を負った選手の中にはそのまま息を引き取った者も居た……ちゃんとした医療班、せめて治癒術士の一人でもいれば助かったかもしれなかった」


 観客席がざわつく。


 俺は試合の結果しか見ていないが、彼等は選手が負傷した結果だけでなくその過程も目に焼き付けているはずだ。まさか杜撰な体制が原因で、助かったかもしれない選手が人知れずこの世を去っているとは夢にも思っていなかったのだろう。


「た、大会運営に対する批判は受け付けていません! 試合に対する意気込みをお願いします!!」

「俺は戦い方を変えるつもりは無い……亡きピエール・ルイス・アムール陛下はなんでもありの戦いを好んでいたんだろう? 俺の戦い方を否定するのはお門違いだと思うが。指摘すること自体先王に対して不敬じゃないか?」

「なっ……!?」


 数々の逸話、はた迷惑な武闘技大会の創設……個人的には好意的に取れる要素が皆無だったアムール第二王だが、唯一戦いに対する考え方は気が合いそうだ。


 俺はこんなところで死ぬために足掻いて来たつもりはない。


 必ず生きてゴドフリーの仇を取り、セレーナを開放し、ヴィセンテの剣を取り戻す……そのためならどれだけ他人に罵られようと、勝利を掴み取るためにどんな手段を使ってでも勝ち進むだけだ。


「くくく、良い! 実に良い!」


 沈黙を守っていた対戦相手のレイモンドがいきなり興奮気味に笑いながら話し出した。


「愛しのセレーナと似て孤高を貫き我道を歩む高潔な魂! 私のコレクションに加えるのにふさわしい!」

「レ、レイモンド選手! 意気込みをお願いします!」


 司会が恐らく俺の話題から逸らしたい一心でそう言うと、レイモンドが両腕を広げながら嫌に熱の籠った視線をこちらに送って来た。


「君の事を歓迎するよ、デミトリ!」

「……何の話だか分からないが断る」

「見せた方が早そうだ」

「あの、意気込みを――」


 司会の言葉を無視しながらレイモンドが腰に掛けていた鞄に手を伸ばし、攻撃を警戒して臨戦態勢に入る。


 俺の事など気にせず作業を続けたレイモンドは、腰から外した鞄を開き明らかにあの大きさに収まらない等身大の戦士の石像を取り出した。


 収納鞄か……それより、なんだあの石像は……?

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― 新着の感想 ―
大変な変態ですね
石化フェチの変態コレクターかぁ… まあそういう呪いはデミトリには効かないだろうな
また別の変態が出てきた?(げんなり) コレクション……あー察し。
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