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第31話 情報収集

 クリスチャンと回復魔法の実験を行った翌日、部屋で寛いでいると突然扉が叩かれた。


「デミトリ殿、お邪魔してもいいかな?」

「はい! お待ちしていました」


 部屋の扉を開いて現れたのは、皮ズボンにシャツというラフな装いをしたミケルだった。

 肩には大きめの革製の鞄を背負っている。


「せっかくの休日にわざわざ来て頂いてすみません」

「いや、普段読んでいる本とは違う分野について見聞を広める機会が貰えて感謝したいぐらいさ」


 ミケルが鞄をテーブルの上に降ろしながら、椅子に腰を掛ける。視線の先には、しおりを挟んでいた建国記がある。


「あと少しで建国記も読み終えそうだし、今日来れたのは丁度よかったね!」


 微笑みながら、鞄から数冊の本を取り出した





――――――――





――時は少し遡る――


「本を選ぶのを手伝ってほしいのかい?」

「そうなんです」


 第二騎士団の業務の合間を縫って訪問してくれていたミケルに、悩み事を打ち明けた。


「父の言伝もある事だし、大抵のものは手配できると思うけど」

「お願いしても問題ない範囲について、事前に相談した方が良いと思い」

「随分と慎重なようだけど、理由を聞いてもいいかな?」


 そこから、簡単に自分が懸念していることをミケルに共有した。


 ヴィーダ王国出身ではない自分のために、ミケルが気を利かせて国の生い立ちを知ることができる建国記を差し入れてくれたのだと理解している。


 ジステインから他の本も差し入れてもらえると聞いた時、亡命の許可が降りた時のことを考えて一般教養の範囲でヴィーダ国民が把握している事柄について確認したいと考えた。


 例えば、魔道具についてはヴィーダ王国に来てから初めて知った。正直部屋に備え付けられているシャワー室で、当たり前のようにお湯が出てきたことにかなり衝撃を受けた。


 ガナディア王国の他領では普及しているのかもしれないが……少なくともグラードフ領では魔道具を見かけたことがない。


 そこで魔道具に関する書物があれば読んでみたいと考えたが、自分の亡命についてジステインが開戦派の貴族の反応を警戒している事を思い出した。


 ヴィーダ王国に対する害意がなくても、端から見たら敵国の技術について情報収集しようとしていると捉えられてもおかしくない。なまじジステインの許可が出ているため、お願いした後に専門書でも手配されてしまったら開戦派に諜報活動を疑われる口実になってしまいかねない。


 そこで言い方が悪いかもしれないが、ミケル視点で俺が読みたいとお願いしても怪しまれない範囲の本について確認したいことを伝えた。


「なるほど。考えすぎだと言いたい所だけど、慎重すぎるぐらいが丁度いいのかもしれないね。そこまで考えているということは、なんとなくどんな本が欲しいのか目星は付いているのかな?」

「はい……可能であれば孤児院に寄贈される本から数冊、ミケル殿が私が読んでも問題ないと思うものを教えて頂ければと思っています」


 ミケルの表情が驚きに満ちる。


「おもしろいね、なんで孤児院なのかな?」

「私はヴィーダ王国の事が何も分かりません。欲しい本があれば手配できると、そうジステイン様に言って頂ける程度に普及しているのはなんとなく分かりますが……そもそも国民の識字率や本の価値、一般的にどれほど本が普及しているのかすらも分かりません。」


 そこで注目したのが孤児院だった。毎日同じ時間にパンを抱えて歩いていく子供達を窓の外で見かけた際、検診のために部屋を訪れていたクリスチャンから彼らが近くの孤児院の子供達だと教えて貰った。


 住民から奇異の目に晒されることも無く、言われなければ孤児だと気づかないほど大切に育てられている。そんな彼らを見て、孤児院に本が寄贈されている可能性が高いと踏んだ。


「その点、孤児院に寄贈されるような本であれば私が読んでも問題ない範囲の情報かつ、預けられた孤児達がいつか自立するために一般常識として身に着けるべき内容の物だと思うのでぴったりかなと」

「あまり情報は得られないかもしれないけど、本当にいいの?」

「大丈夫です。民謡や童話、詩集や光神教の聖書辺りが寄贈されているだろうと予想していますが……これからヴィーダ王国で過ごす事が許されたら、どれも知っていた方が良いものだと思うので」

「おもしろいね、分かった! 確認したら次の休暇にでも見繕った本を渡しに来るよ」





――――――――





「いつもは歴史書ばかり読んでいるから、いい気分転換になったよ」


 鞄から出した本を丁寧にテーブルの上に並べながら、ミケルが続ける。


「デミトリ殿の想像通り、孤児院に寄贈されていたのは童話や詩集の本が多かった。その中でも、僕も知っているような内容の物を選んできた。ヴィーダ王国民なら誰もが知っている話ばかりだから、見聞を広めるにはうってつけだと思うよ」


 並べられた本を確認していくと、確かにミケルのいう通り童話の絵本や詩集ばかりだった。


 その中で一際目立つ、表紙に蜘蛛の模様が描かれた小説に目を引かれる。視線に気づいたのか、ミケルが小説について説明してくれた。


「僕も知らなかったんだけど、最近この小説が流行っているみたいなんだ。貴族達の間ではまだ広く知れ渡ってないけど、市井では絶大な人気を誇ってる。興味があったら是非読んでみて!」

「蜘蛛男の冒険……ですか?」

「そう! 魔憑の少年を題材にした冒険譚なんだ。僕も気になって読んでみたんだけど、かなり面白いよ! 新進気鋭の作家が最近公開した作品で、定期的に続刊が発売されているみたいだから次刊が発表されるのが今から待ち遠しいよ」

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マーベル、、、スパイダー、、、、うっ、
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