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第322話 百人力のフィルバート

「「「「ヒュー!!!!」」」」

「かましてやれー!!」

「応援してるぞーーフィルバートーー!!!!」


 異常な盛り上がりを見せる観客達に呆れていると、司会の声がまた闘技場に響いた。


「フィルバート選手、開幕戦に相応しい素敵な武人の礼をして頂きありがとうございます! それではデミトリ選手、一言をお願いします!」


 武人の礼は必ず返さないといけないんだったな……まさか毎試合こんな茶番をさせられる訳じゃないだろうな……?


「俺は、この剣を打ってくれた今は亡きゴドフリーにこの戦いを捧げる」

「……えーと、それだけでしょうか?」

「何か問題でもあるのか?」


 ふざけた風習だとは思うが俺がゴドフリーの仇を討つために剣を振るう覚悟をしているのは本心だ。


 司会がどんな返答を期待していたのか大体想像がつくが、俺の決意を『それだけ』で片づけられゴドフリーまで馬鹿にされた気がして語気が強くなる、


「……いえ、ありがとうございました」


 司会だけでなく反応の薄い観客達も白けているのが一瞬にして冷めた闘技場の熱気からひしひしと伝わってくるが俺には関係ない。


「えー、両選手の宣誓が完了したので早速試合を開始したいと思います! 選手の皆さんには事前に共有済みですが試合の勝敗はいずれかの選手が降参するか戦闘不能になった時点で決定となります! もちろん、選手達は命を落とす可能性があります……!! それでも命を懸けて戦う選手達の雄姿を、彼等の生き様を見届ける覚悟は出来ていますか!?」

「「「「わああああああああ!!!!」」」」


 観客達の興をそがれたまま試合を続行するのは望ましくないと考えたのか、司会が盛り上げようと観客達を煽りそれに応えるように闘技場が熱気を取り戻していく。


「そして今年は武器、魔法、道具……戦う手段に一切制限はありません! 先王ピエール・ルイス・アムール陛下が最も得意としていた、何でもありの真剣勝負形式です!!」

「「「「おおおおおおおお!!!!!」」」」


 なんでもありなら最早武闘技大会の意味が無いと思うが……俺の宣誓で盛り下がっていた観客達も、司会の説明を聞いて息を吹き返したように声を上げる。


 練習試合でセレーナから聞いていた話だと、去年までは剣と魔法以外許可されていなかったらしい。それがあらゆる手段……道具だけでなく、恐らく異能も解禁されたのはクリスチャンの仕業だろう。


「両者準備はよろしいでしょうか?」

「いつでも開始してくれ!」

「試合開始!」

「くっ!?」


 ――なんだそれは!?


 一応フィルバートの後に俺の返答も聞かれるのかと思っていため唐突な試合開始に一瞬の戸惑いが生じてしまった。その隙を突いて開始の合図と同時にフィルバートが俺の顔目掛けて砂を蹴り上げ、目を閉じるのが間に合わず左目に砂が入り鋭い痛みが走る。


 左目の痛みを無視しながら右目を見開き、砂塵を突き抜け突進してきたフィルバートの姿を捉え容赦なく俺の頭上に振り下ろされた剣を受け止める。


 ぎりぎりと鉄が擦れる嫌な音を掻き消すように観客席から降り注ぐ声援から察するに、不意打ちも目つぶしも好評を得ているようだ。本当に何でもありの決闘が求められているらしい。


「名も知らぬ戦士よ、俺の剣の錆にしてくれる!!」

「互いに名を呼ばれていただろうが!!」


 身体強化を発動しながら無理やりフィルバートを押し返し後方に引いて距離を取る。不意打ちを防がれたからか、警戒して追撃せずフィルバートがこちらの出方を伺っているのをいい事に水魔法で左目から砂を洗い流して処置をする。


「俺はセレーナさえいなければ去年確実に優勝していた。お前も中々やるようだが勝ち目はない。死にたくなければ棄権しろ!」


 フィルバートの剣はセレーナ程のキレも素早さも無かったが、去年の大会で決勝まで勝ち進んだだけあり侮れない実力の持ち主のようだ。だが、セレーナと違い倒せないと思わせるような圧倒的な力は感じない。


「断る」

「ちっ、親切心で言ってやったのに……後悔するなよ!」


 あの不意打ちを受け止められていなかったら殺されていた可能性が高い。端から手加減せず殺すつもりだったのによく言う。


「忠告感謝する。存分にやり合おう」

「くっ……! 俺はイザベラと結ばれるためにこんな所で負けられない!!」


 砂では確実に視界を奪えないと考えたのか、フィルバートが今度は腰に下げていた玉状の何かを地面に投げ付け一瞬にして現れた煙の柱の中に姿を消した。


 奇襲を警戒して突如として現れた煙の柱から距離を取ろうとした瞬間、周囲に展開していた霧の魔法を俺の背後に現れた何かに急に押し退けられたのを察知して横に飛び退く。


「「今の攻撃を避けたのは褒めてやる。だがもうお前に勝ち目はない!!」」


 俺が立っていた位置を攻撃したフィルバートと、煙幕の煙の中から現れたもう一人のフィルバートの声が重なって聞こえてくる。


「……分身か」

「「よく見破ったな! だが気づいた所で遅い! 多影の祝福さえ使えていれば俺はあんな女に負けるはずなんてなかったんだ!!」」


 見破るも何も見たまんまの能力だろう……。


「的が増えるだけならセレーナには敵わないと思うが」

「「……は?」」

「せっかく分身して耳が増えたのに聞こえなかったのか? 使い物にならない分身を幾ら増やしても、お前の実力じゃセレーナには勝てないと思うぞ」

「「この野郎、知ったような口を!! 百人力のフィルバートの真の実力を見せてやる!!」」

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― 新着の感想 ―
天さん!?天さんじゃないかw
亡き友人って宣言してるのに、白けてる観客の反応でこの国大丈夫か?って思いが拭えない。みんなが愛の告白をする場で亡くなった人への追悼を宣言してるってことは並々ならぬ想いがあるのわかるだろ。
ほんとカスみたいな国だなここ… それはそれとしてこんなしょーもない相手に次話までかけないで欲しかった 今話でサクっと処理してもろて
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