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第303話 依頼主の行方

 薬師ギルドの前でシエルを肩に乗せて、苛立ちをため息に乗せて吐き出す。


「はぁ……」

「ピッ!」


 俺を元気づけるように首元に体を擦りつけるシエルを撫でてから、薬師ギルドを発った。高級ポーションを買えなかったどころか恐らく出禁まで食らってしまったが……悩むだけ無駄だろう。


「冒険者ギルドに行くか」

「ピー」

「冒険者ギルドで中級ポーションを買ってから、留学生寮に帰ろう」

「ピ!」


 高級ポーションが手に入らないのであれば、怪我に気を付けつつ中級ポーションで何とかするしかない。薬師ギルドでの出来事を忘れるために、シエルに話しかけながら繁華街に向けて歩き出した。


 それなりに距離があるので辻馬車を捕まえても良かったが、まだセレーナとの約束まで時間があるため急ぐ必要はないだろう。端から見たら肩に乗せた雛に話しかける変人に映っているかもしれないが、薬師ギルドの件で色々と吹っ切れたのかもう誰にどう思われようとどうでも良いと言う心境だ。


「頃合いも良いし、今日の昼は屋台で買い食いするか」

「ピ?」

「シエルは生肉以外にも、焼いた肉が好きだろう? 串焼きを食べよう」

「ピ!?」


 シエルが興奮しながら翼をばたつかせ始めた。


 ファビアンからテイムした鳥型の魔獣の育て方を教わった時、基本的に雑食なので人の手の加わった物を食べても問題ないと説明された。


 それを踏まえた上で、コルボの飼育例がないのでなるべく野生の個体が食べるであろう生肉を与えるようにしていたが……ある夕食時に、シエルが俺とヴァネッサが食べていたウェルド・ラビットの香草焼きに興味を示した。


 物欲しそうに肉を見つめられ、少しだけであればいいだろうと思い分け与えた肉を食べた時のシエルの反応は凄まじかった。恐らくいつも与えている生肉よりも、焼いた肉の方が好物なのかもしれない。


「シエル、普段の食事も生肉ではなく調理した肉の方が嬉しいか?」

「ピー! ピッ!!」

「そうか……」


 興奮が収まらず俺の肩の上でピョンピョンと跳ねるシエルが落ちてしまわないように一旦足を止め、落ち着くまで優しく頭を撫でる。


「……三食全部はすぐに変えられないが、少しずつ増やそうな?」

「ピー!」


 再び歩き出し、上機嫌なシエルをよそに考えに耽る。


 ファビアンの言っていた通りなら、シエルの体格は既に倍になっているはずなのに未だに俺の上着の内ポケットに収まるほど体が小さい。まさか調理した肉を与えただけで急激に成長するとは思っていないが……出来る事は試してみよう。


 今日は約束してしまったので串焼きを与えるつもりだが、人間様に調理された肉ではなくただ焼いただけの肉を好むかどうかも確かめた方が良いかもしれない。


「ピー?」

「すまない、考え事をしてた」

「ピ」


 そのまま他愛もない事を話しながらゆっくりと繁華街に向かい、太陽が真上に差し掛かり昼を告げる頃には冒険者ギルドに到着した。


 ギルド前の広場で買った串焼きをシエルと食べていると、丁度ギルドから出て来たファビアンがこちらに気付き手を振りながら駆け寄って来た。


「デミトリさん、お久しぶりです」

「ファビアンさん」

「今日は学園に行かなかったんですか?」

「ああ、色々とあってな……」


 シエルの育て方について相談する際、育てる環境について説明するためにファビアンには留学生寮で過ごしている事を含めある程度事情を共有している。


 学園が休暇から明けてまだ五日しか経っていないのに、まだ三日しか登校しておらず今日に至っては一瞬顔を出してすぐに帰ったと聞いたら呆れられてしまいそうだ。


「そうですか。シエルも元気そうでなによりです」

「ピ!」

「慌ててギルドを出たようだが、何かあったのか?」

「そうでした! すみません、急ぎの用があるので失礼します!!」


 嵐の様に過ぎ去っていったファビアンが人込みに消えていくのを見送り、シエルが食べ終えたのを確認して空になった串を収納鞄に仕舞った。


「行くか」

「ピー」


 冒険者ギルドに踏み入れると、昼時と言う事もあり酒場は賑わっていたが受付と売店は比較的空いていた。売店で中級ポーションを数本買い終え、学生寮に帰ろうとした所でマチスに呼び止められた。


「デミトリさん、少しだけ良いですか?」

「ああ」


 緊急依頼については進展があれば連絡すると言われていたため、進捗を催促している様で受付を避けていたのだが杞憂だったようだ。いつもの受付に移動すると、マチスが説明を始めた。


「緊急依頼の後処理が丁度終わりました。依頼の完了処理をするので、依頼票と冒険者証をお預かりしてもいいですか?」

「それほど時間が経っていないが、もう諸々片付いたのか?」


 冒険者証を首から外し、収納鞄から依頼票を取り出して合わせてマチスに渡すと彼は受け取りながらかなり微妙な表情をした。


「憲兵隊からデミトリさんに報告はされなかったんですね……」

「何も聞いていないが?」

「そうですか……デミトリさんは知る権利がありますね。メリネッテ王妃記念公園の管理人、ステファンが緊急依頼の依頼主だったメダードさんの殺害容疑で捕縛されました」

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― 新着の感想 ―
食性が野生動物扱いなら「人間用に」調理した食べ物は塩分過多の可能性あるから注意な。
>> まさか調理した肉を与えただけで急激に成長するとは思っていないが まーたフラグが立ってしまったぞ! 本人の成長の意思が重要とかってパターンかな
井戸の底にいたのは依頼主だったのか?ここから一気に解決して欲しいな。
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