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第293話 攻めの剣

「逆にこっちから攻撃して無力化すれば全部解決するんだよ? 仮に無力化できなくても、相手の反撃を読んで攻撃すれば更に一手得するし、生存確率も絶対に上がる」

「だが……」

「デミトリさんは防御が上手いし、後の先を極めてるぐらいだから守るために剣を持ってるんだよね?」


 極めていると言うと語弊がある。純粋にそれしかしてこなかったため剣の腕が偏っているだけだが……俺が剣の事を命を奪う道具ではなく、大切なものを守る手段だと考えているのは間違っていない。


「……そうだ」

「だったら猶更攻めの剣を身につけないといけないよ? 毎回後手に回ったり、命懸けの奇襲なんか狙ってたら命が幾つあっても足りないよ……守りたいものを守るなら、最大の防御は何もかも否定してねじ伏せる力だから……!!」


 セレーナの主張は前世の記憶に引っ張られている部分が多い気がしないでもないが……彼女の言っている事は概ね正しいのかもしれない。セレーナが言っている事は理に適っている所が多い。


 俺はどこかで前世の常識に引っ張られて、そんな事を気にしている場合じゃない状況でも過去の記憶と倫理観に縛られ、攻撃された後の正当防衛を徹底していたきらいがある。


 一度攻撃を受けてから反撃するのではなく、脅威に立ち向かう際は自分から攻撃する決断も時には必要なのは確かだ。


「言っている事は理解出来たが……自分から攻めるのに慣れていない俺の太刀筋は読みやすいんだろう?」

「そこは練習すればどうとでもなるよ! さっき私がやったみたいに敢えて急所を外して牽制したり、陽動を混ぜながら攻撃すればいいだけから」

「簡単に言うが――」

「簡単だよ! だって、デミトリさんは絶対に相手の息の根を止めるか動きを止める急所しか狙わないでしょ?」


 その言い方だとただの危険人物のようだが……一旦気持ちを呑み込み、頷いてセレーナが言葉を続けるのを待つ。


「そのせいでどこを攻撃するのかが読めちゃって逆に防御しやすいんだけど……敢えて致命傷にならない場所を狙ったり、攻撃の軌道を途中でずらしたりしたらすぐに出来るようになるよ!」


 本当に簡単に言ってくれる。一度言われただけでそんな芸当が出来るようになる気がしない。


「後は……命を奪う事を躊躇してるよね? それも一旦止めてみよう!」

「一旦止める……? ちょっ―― 待ってくれ!」


――――――――


「もう戦い始めて三十分ぐらいかな?」

「そろそろ、止めに入った方がいいかもしれませんね」


 エリック殿下とアルセさんがため息を吐きながら、未だに戦ってるデミトリとセレーナさんを見守ってる。


「ピー?」

「お腹が空いたの? もうちょっとだけ待ってね」


 連日問題続きで気が立っていたシエルも、セレーナが本気でデミトリを傷つけようとしていないと理解してからはかなりのんびりしてる。とはいえ、お腹が空いて少しストレスが溜まっているのかも。


 時折意味も無く私の指先を突いて来るので、そろそろ部屋に戻して夕飯をあげたい。


「セレーナと互角に渡り合えるとは」

「セレーナさんってそんなに強いんですか……?」

「ああ。デミトリ殿が商業区でセレーナに襲われたと聞いた時は心臓が止まるかと思ったが、現場に到着したら逆に追い詰めた様子だったのは心底驚いた……」


 初めて私達がセレーナと出会った日を思い出してるのか、アルセさんが眉間に皺を寄せながら首を振る。


「全く、自信を失くしてしまうよ」

「え? アルセ殿もかなりの実力者って僕は聞いてるよ?」


 エリック殿下の素直な疑問に、アルセさんが苦笑する。


「私も日々精進していますが……デミトリ殿と旅をしていた時、正直『私などいなくても彼一人で何とかなるのでは』と自問した回数は一度や二度ではありません。それに、昔は私がセレーナの練習相手をしていたんですよ?」

「え!?」

「早々に敵わなくなってしまい、長らくお願いされていませんが……今のあの二人を見ると、現時点で彼等に付いて行ける自信はありませんね」


 エリック殿下は驚いてるけど、凄まじい勢いで剣戟を繰り広げてるあの二人を見てると……アルセさんの気持ちも分からなくはない。


 さっきからちょくちょく戦闘を中断してセレーナさんに助言を貰いながら、素人目だけどデミトリの剣がどんどん鋭くなっていってるのが分かる。


「それでも、万が一セレーナが暴走した時に備えて技を磨いていたつもりですが――」

「そんなんじゃだめだよ! 私の命なんてどうでも良いって考えて!! もっと強く切り込んで!! 人間じゃなくて大きなジャガイモだと思えば楽だから!!」

「くっ! 簡単に言うが!! 急に言われてそんな事ができる訳―― まさか!? お前は今まで俺の事をジャガイモだと思―― ぐっ!?」

「そうだよ! 後、会話するのは良いけど集中を乱しちゃ駄目でしょ!!」

「「はぁ……」」


 会話……と言うよりも叫び合いながら戦い続ける二人を眺めて殿下達が再び溜息を吐く。その横で、忙しなく掌の上で動き回るシエルを指先でつついてる内にだんだんと思考の海に沈んで行った。


 デミトリは、無暗に人を殺すのを嫌ってるだけじゃない。どこかで、タガが外れたら狂気を制御できなくなるのが怖くてセーブしてる節がある。私とシエルを心配させないように、自分を見失わないように人一倍気を付けてる。


 だから、セレーナさんの教えは全肯定出来ないけど……自分と大切なものを守るために、危険を事前に排除する意識がデミトリに足りていないかもしれないのは否定できない。


 私もデミトリが死ぬ位なら……最悪、一線を越えてしまっても、デミトリが一生後悔するはめになっても……デミトリさえ生き残ってくれればその方がいいと思う。


 死んじゃったら、後悔すらできないから。

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