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第285話 食の恨み

「えっと、本当に何も食べないの?」

「今日はちょっとな……俺の事は気にせず、エリック殿下は食べてくれ」


 殿下が売店のサンドイッチを手に持ちながら少しの間悩み、俺の気が変わらなさそうなのを確認し蝋引き紙の包みを開いて食べ始めた。


 今日売店で並んでいたサンドイッチの具は魔鳥の肉で、とてもではないが食べる気にはならなかった。食べる事を固辞する俺を気遣い殿下が食堂で昼食をとることを勧めてくれたが、食堂では他の生徒に絡まれてゆっくりできないだろうと何とかエリック殿下を説得した。


 今は当初の予定通り昼休憩の間だけ留学生寮に戻っている。学園の敷地内なので無断で外出した事にならない上、ここなら他の生徒達からの煩わしい接触も妙な詮索をされる事もない。


 昼ご飯を与えるためシエルを出してあげようと内ポケットに手を伸ばすと、シエルが驚くべき速さで俺の手を伝って器用に肩まで登ってしまった。


 反応する間もなく俺のシャツの襟元まで辿り着いたシエルは、その小さな体からは想像できない力で鉤爪を使ってがっしりと俺のシャツに体を固定し、頭を俺の首に預けるような姿勢で止まった。軽く撫でてから食事を与えるために動かそうとしたが、どうやら動くつもりは一切ないらしい。


 利口なシエルの事だ、クリスチャンの件もあるが……俺が食べない事を気にして自分も食べるつもりは無いのかもしれない。


 梃子でも動かす事が出来なさそうなシエルの様子に、クリスチャンだけでなく不甲斐ない自分自身に対しても怒りが心の内で燃え上がって行く。


 エリック殿下の前でこれ以上精神を乱す訳には行かないので、深呼吸を改めて数回繰り返し精神を統一してから思考を逸らすためにエリック殿下に話しかける。


「……護衛の任を解いて欲しい訳ではないと前置きするが、俺が学園に同行しなくても昼食は学生寮でとれたんじゃないか?」

「はふっ―― んぐ!?」


 ずっと無言のまま殿下が食べるのを見るのもどうかと思ったので話し掛けてみたがどうやら間が悪かったようだ。


 話しかけられると思っていなかった殿下が頬張っていたサンドイッチで喉を詰まらせてしまったため、慌てて背中を摩りながら水の入ったコップを手渡す。


「すまない――」

「ううん、返事をする前にちゃんと飲み込まなかった自分が悪いから。質問の件だけど……今はデミトリとの意見交換を優先してるって大義名分があるからいいけど、前はなかったからね。見聞を広めるためにわざわざ留学して来たはずの王子が、人と話すのが億劫で昼休憩中は寮に引き籠ってたらおかしいでしょ?」

「俺の考えが足らなかった。確かに言われてみればそうだな……」


 そこまで気にしながら行動しないといけないのは王族だからこそかもしれないが、エリック殿下は表に出している以上に心労を抱えながら行動を制限されているに違いない。


「お昼の時間まで拘束しちゃってごめんね? デミトリも、どうせならヴァネッサ嬢と一緒に過ごしたいよね……」

「そこまで気にする必要はないぞ?」

「そう言ってくれると助かるよ。昔、約束も無しに留学生寮を訪問した生徒も居たから安全策を取ってるけど……万が一誰かが留学生寮に押し掛けて来て僕達が本当は意見交換なんかしてないってばれたら面倒だから。学園側が周知してくれて、その子もきつく叱られたらしいからあれ以来そんな事起こってないけど」


 一国の第二王子が滞在している寮に無断で突撃したら、普通なら最低でも退学は免れないと思うが……アムールがヴィーダの同盟国のため、事を大きくしないようにエリック殿下が動いたのだろうか?


 色々と我慢を強いられているエリック殿下が平穏に学園生活を送れるように俺は護衛の任に就いているはずなのに、余計な問題を増やしてばかりの現状が申し訳ない。


「話が二転三転して申し訳ないが……もしも殿下の方から俺の護衛の任を解きたくなったらいつでも言ってくれ」

「えっ!?」

「元々人避けとしてエリック殿下の学園生活を微力ながら改善する手助けをするつもりだったが、逆に俺が居る事によって負担が増える位なら――」

「そんな事ないよ! デミトリは昨日居なかったから……」


 遠い目をしながら、エリック殿下が腕を摩りながらぽろぽろと話し出した。


「昨日はデミトリが居なかったからクリスチャン殿下と一緒に授業中座るのを断れなくて……授業の合間はなぜかクリスチャン殿下と僕の間に座ってたコルドニエ嬢にずっと話しかけられて授業所じゃなかった。用があるって言ってお昼はなんとか別行動出来たけど……食堂で生徒に囲まれちゃったせいで売店のサンドイッチが売り切れたんだよ……!?」

「それは……」


 前半の方が問題に思えるが……大切そうに二口程度しか残っていない食べかけのサンドイッチを胸に抱え、この世の終わりを見て来たのかと見紛う程沈痛な表情で訴えて来る殿下の勢いに押され何も言えない。


「とにかく、僕はデミトリが負担に思ったらいつでも護衛の任を解くつもりだけど……僕の方から一方的に護衛の任を解く事は絶対にないよ。光神ルッツに誓ってあり得ないって断言する」

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