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第279話 再戦

「セ、セレーナぁ~」


 不審者が駆け寄って来たセレーナに縋りつこうとしたが、思い切り蹴とばされそのまま雪に埋もれて動かなくなった。


「……お前の仲間か?」

「違うよ?」

「そうか、じゃあ邪魔しないでくれるか?」


 剣を構え直すと、何故だか不審者の前にセレーナだけでなくヴァネッサまで守る様に立ちはだかった。


「デミトリ! 一旦落ち着こう?」

「ピー……!」

「ヴァネッサ、シエル……すぐに済ませるからちょっとだけ待っていてくれ」

「最近夜中に不審者が現れるみたいで、警戒を強化したい国からギルドに緊急依頼が出されてるんだけど、デミトリさんは知らない?」


 何の話だ? 急に関係のない話をしだしたセレーナに注目する。


「知らないな……不審者はそいつの事じゃないのか?」

「不審人物ではあるけど違うよ。一応私と同じ区域の巡回を任せられた冒険者だよ?」

「そうか……これから死に行く人間について語りあっても仕方がない。どいてくれないか?」

「それはできないかなー? 私がデミトリさんを襲った時と違ってカリストをこのまま殺しちゃったら、正当防衛じゃ通用しないよ?」

「面倒だな……」


 愛の女神にセレーナの事を頼まれた手前、殺す訳には行かないが……。


「……半殺しならいいか」

「ちょっと!?」


 蛇腹の剣にヴィセンテの剣が激突し火花が散る。セレーナは不意打ちに驚いた様子だが難なく剣を受け止められてしまった。


 当たってしまっても傷口を凍らせておけばすぐには死なないだろう、後でポーションで治せばいい。そう考えていたのに何度打ち込んでもセレーナに攻撃を防がれてしまい段々と怒りが湧いてくる。


 怒りに呼応するように身体強化が強まり、放たれる剣戟はより一層激しさを増していく。


「セレーナさん、何とかデミトリの動きを止めてください!」

「何とかって言われても……!!」


 ヴァネッサが何やら叫んでいるが、なぜ俺ではなくセレーナを頼っているのか理解が出来ない。仲間を守るために行動しているだけなのに……俺の剣をさっきから防いでいるセレーナも、ヴァネッサの不可解な行動も何もかも――


「気に食わないな……!!」

「やば――」


 セレーナを吹き飛ばすつもりで放った極大の水球が、透明の壁に衝突し周囲に水が飛び散る。宙を舞う水滴が瞬時に凍り、雪の結晶が舞う幻想的な風景に見とれてしまった。


「長くはもたないからね!!」


 呆けていた一瞬の隙にセレーナの接近を許してしまい、右手にしがみつかれてしまった。このままでは満足に剣を振れない。


「……離してくれないか?」

「動きを止めたけどちゃんと作戦はあるんだよね!?」

「デミトリ、落ち着いて!!」


 セレーナに気を取られている内に、いつの間にかヴァネッサが俺の左手を掴んでいた。彼女の手から温もりを分け与えられるのと同時に、俺を支配していた狂気が徐々に引いて行くのと共に全身の血の気も引いていく。


「俺は……!」

「大丈夫……?」

「ピ?」

「あぁ……すまない、我を失っていた……」

「まったく! 両手に花の状態になってようやく落ち着くとは、とんだバーサーカースケベボーイ―― だぴょっ!?」


 今まで戦闘に参加せず、自分だけいつでも逃げ出せるように距離を取っていたカリストの顔面に水球が激突させる。

 

「デミトリ!?」

「……加減したから気を失ってるだけのはずだ……」

「もう大丈夫そうなら右手を離すね?」


―――――――― 


 意識を取り戻し、なぜかセレーナの指示で雪上で正座を強いられているカリストがぶつぶつと文句を溢す。


「僕は銀級冒険者でセレーナの先輩なのに……」

「へー、じゃあ後輩の私の助太刀は要らなかったんだ? さっき邪魔しなかったら、カリストの首と胴体は今頃繋がってなかったと思うけど?」


 カリストが顔面蒼白になりながら首元を右手で摩る。


「あの、なんで私達の事を呼び止めたんですか?」

「それは……真面目に仕事をしてる僕を差し置いていちゃつくカップルにお灸を据えようと――」

「馬鹿なの?」

「だって!! 不審者も見つからないし、寒いし、緊急依頼だから仕方なく受けたけど楽しくなかったんだもん!」


 カリストには人の神経を逆なでる才能があるのかもしれない。


 彼の発言の一つ一つに苛々させられているのは事実だが、その程度で人を殺しかけた事実が恐ろしい。月の女神の神呪を舐め過ぎていたのかもしれない。


 割って止めに入ってくれたセレーナには感謝が尽きないな……この恩はしっかりと返さないといけない。


「セレーナ、先程は止めてくれてありがとう……」

「個人的にはカリストは死んでも仕方ないと思うけど、デミトリさんが人殺しになっちゃうのは良くないと思って行動しただけだから気にしないで!」

「ちょっと酷くない!?」


 抗議するカリストを無視してヴァネッサに頭を下げる。


「ヴァネッサとシエルも俺を止めようとしてくれていただろう? 話を聞かなくてすまなかった……」

「気にしないで、今日は色々とあったから……早く帰って休もう?」

「ピッ!」

「無視しないでよ! 僕にも謝罪の一言があっても―― ってコルボの雛!?」

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― 新着の感想 ―
夜中に武装したヤツが喧嘩売ってきて自分達との会話中に何らかの魔法を発動させようとしたのを止めようとして正当防衛にならないのは訳わからん 警告したのにずっと抵抗してるし 殺してたら過剰防衛になるくらい…
結局この国は馬鹿しかいない感じで何の言い訳も出来ないよね
 トラブルに巻き込まれるのも神呪のせい、デミトリがヴァネッサを守ろうとして相手を殺そうとするのも神呪のせい、愛神の愛し子に絡まれるのも(相手の)神呪のせい、神呪って便利やなぁ(ハナホジー  そもそもヴ…
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