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第268話 きなくさい依頼

「えっと、メダードさんの不在中に俺が代理で公園の管理を任せていることを証明する書類と……出かける旨を記した手紙が、ありました……」

「そうか。それじゃあ、ギルドに行って――」

「えっと! ギルドには後で一人で事情を説明しに行きます! デミトリさんにこれ以上迷惑を掛けたくないので」 

「迷惑ではないし、この件が片付かないと依頼に着手できない。一緒に行った方が早くないか?」


 頑ななステファンの態度を不審に思う暇も無く、有無を言わさず彼が歩き出した。


「大丈夫です! 作業は確認が取れた明日からで良いので、清掃対象の池にご案内しますね!」


 ――必要な書類……見つからなかったんじゃないのか?


 そう思わせてしまうぐらいには不自然な態度のステファンの後を追って来た道を戻り、途中で塗装された来園者用の道に合流してしばらく歩くと池に着いた。


 池の表面には所々薄い氷の幕が張られていて、一際大きな凍りの板越しに覗ける池の底には積もった枯葉と腐敗が進んだ汚泥が見える。濁った水の透明度は低く、一目見ただけで長期間放置されていた事が分かった。


「ひどいな……」

「ひ、広い公園なので、な、中々手が回らなくって」


 仮にも王妃の名を冠した記念公園だ。公園の管理を民間に任せていても、公園自体が王家の管理下にあるのは間違いないだろう。こんな状態だと分かっていて放置するとは考えにくい。


 公園を彩る草木や花の手入れはちゃんとされているため余計に池の異様さが目立つ。


「池だけ妙に汚れているのには何か理由が?」

「え、えっと……池の清掃だけ専門の業者に任せていたんですけど――」


 ステファンの説明を聞きながら、池の底を眺めていると汚泥に刺さった太い木の枝が目に入った。


「――本当に酷い業者で! あちら側の不手際が多くて清掃依頼の発注を止めたんです。本当に困っちゃいますよ――」


 ギルドで聞いた話と違う。確か業者側から今回は対応できないと清掃依頼を断ったはずだ。


 必死に業者の悪口を熱弁するステファンに耳を傾けつつ、なぜか注目を外せない池に沈んだ枝の違和感の正体を探る。


「――彼等がちゃんとしごとをしてくれれば、メダードさんも緊急依頼を出さなくて済んだのに――」

「はぁ……」

「ど、どうかしましたか?」


 色々と察してしまい、依頼を受けた事を後悔する。


「いや、何でもない。一応聞いておくが、閉園後どうやって公園に入ればいいんだ?」

「門の鍵は閉園後も開けておくのでご自由に入って下さい!」

「……分かった。今日はもう帰るから、明日までにギルドへの報告を済ませておいてくれ」

「は、はひ!」


 ステファンを残して公園の出口に向かいながら、今後どうするのかについて考える。

 

 依頼を破棄するのが一番楽そうではあるが……誰もいない状況で池に入れる機会は捨てがたい。依頼を受ける時に色々と考え、閉園して誰もいない公園の池なら今まで試すことが出来なかった水魔法の実験に使えそうなのだ。


 それなりの大きさの池を独り占めにして、魔法の実験を出来る機会など今後そうそう訪れないだろう。


 ――池があの惨状なのは、十中八九ステファンか公園関係者のせいだろうな……


 違和感を醸し出していた池の底に刺さっていた枝は、太さと長さからして風に運ばれて池に落ちたわけではなかったのは明白だった。枝が木から落とされた断面も、水に晒されて少し変形していたが千切れたわけではなく鋭利な道具で切り落とされたような形をしていた。


 要するに草木や花の手入れをする際、ステファンはあの池を便利なゴミ捨て場として利用していたのだろう。公園自体は綺麗なのに池にだけあれ程の量の汚物が溜まる理由はそれ以外考えられない。


 清掃業者が依頼を断ったのもそれが原因かもしれないな。


 自然と汚れが溜まった池の清掃依頼だと思っていたのに、蓋を開けてみたらあの状態だったら対応できないと断られても無理はない。ステファンがあそこまで清掃業者に対して悪し様に言っていたのも、責任の所在が公園側にある事の裏返しだろう。


 問題は依頼主のメダードがどこまで把握しているかだ。


 緊急依頼を出しておきながら出払っている時点でおかしいと思ったが、部下のステファンの言っている事を鵜呑みにして状況を理解していないだけなのかもしれない。


 逆に、ステファンに池をゴミ捨て場として扱えと指示していた可能性もある。池の惨状を理解した上で、騙し討ちのような形で清掃業者に依頼を出していた張本人だった場合、正直関わりたくない。


 ――厄介事に巻き込まれる位なら、そうそうに依頼を破棄してしまうのが一番の安全択だな。


 俺はそもそも冒険者になるつもりは無かった。ヴィーダ王国に亡命した時成り行きで冒険者になったが、開戦派との一件が片付いた今……依頼を放棄して、仮に評価が下がったとしても構わない。


 普通の冒険者であれば評価への影響を恐れて我慢したのかもしれないが、俺は最悪冒険者証を剥奪されても痛くも痒くもない。流石に一回依頼を放棄した位でそんな事にはならないと思うが……


 ――明日、ステファンがギルドに報告をしたかどうか確認して……依頼主の代理人として認められていなかったら依頼を破棄しよう。

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― 新着の感想 ―
ギルドが大容量のマジックバックを貸し出せば誰でも出来そうな仕事だが? 試すことが出来なかった水魔法の実験は気になる
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