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第266話 意見の衝突

『あの、私が手伝ったらだめですか?』

『ヴァネッサ殿?』

『火の魔法を当てて氷結化が解けてる間に核を壊せれば楽かなって思って』


 ヴァネッサの急な助っ人の申し出には驚いたが、トワイライトダスクとは王都に来る途中短い間ながら一緒に旅をした仲だ。ジェニファーやイラティとも仲良くしていたみたいなので、俺が護衛で学園に拘束されている間ヴァネッサが羽を伸ばせれば良いと思い、臨時パーティーを組んでトワイライトダスクとフロスト・スライムを倒すことを歓迎した。


 ――ヴァネッサ達が討伐依頼をこなしている間、俺はマルコス達から共有された臨時パーティー制度の知識を使ってこの国の第一王子相手に口喧嘩をしていたのか……


「ヴァネッサ殿、本当に報酬はいらないのだろうか? 何も返せないのは忍びない……」

「ジュールに来る時、マルコスさんとエミリオさんが夜番を申し出てくれたから私はぐっすり寝れたので、その時の恩返しです!」

「それは……」


 納得の行っていない様子のマルコスがこちらを見たので、合っているのか分からないがヴィーダ流で頷いておいた。


「……分かった、ありがとうヴァネッサ殿!」


 ――納得してくれたが、本当になぜあれで伝わるんだ……


「それでは、私達は依頼の完了報告をしてくるよ」

「ああ、またな」

「ヴァネッサちゃん、今度イラティと買い物に行きましょう」

「絶品デザート……紹介するから」

「はい!」


 ギルドの受付に向かうトワイライトダスクを見送ってから、ヴァネッサと共にギルドを後にした。


 外に出た瞬間、冷たい風が全身を襲った。宙に舞う雪の結晶の動きで、絶え間なく寒々とした強風が街を吹き抜けて行くのが見える。


「学園で何があったの?」

「あー……あったと言えばあったが、エリック殿下が午後の授業を欠席する事になったのとは関係がないな。アルフォンソ殿下から書簡が届いたんだ」

「殿下から?」


 定期連絡ではなく急な連絡だったことにヴァネッサも少し警戒している。


「悪い報せではなかった。殿下とグローリアの結婚式に俺達を招待したい事と、ガナディアの使節団が年末には帰るという連絡だった」

「結婚式! おめでたいね」

「ああ。春先に式を挙げる予定らしいから、俺達は冬が明けて春になり次第帰国する事になりそうだ」


 ヴァネッサが白い吐息を両手に吹きかけ手をすり合わせながらこちらを向く。


「悪い報せじゃなくて良かったよ……でも、学園で何かあったんだよね? 大丈夫だった?」

「早速だが、この国の第一王子と口喧嘩になったな……」

「えー……」


 呆れられてしまっても仕方がない。俺自身護衛として学園に同行した初日にこんな事になるとは夢にも思っていなかった。


「気を付けていたんだが、妙な絡まれ方をしてついかっとなってしまった」

「デミトリらしくないね……?」

「そう言って貰えると嬉しいが……本当に自分でもなぜあんな行動をしたのか分からないな」

「旅の疲れを取る時間も無かったし、アムールは文化が違って色んな衝突があるから……想像以上に疲れてるんじゃないかな?」

「そうかもしれないな……」


 寒さで顔を赤くしたヴァネッサがマフラーを巻き終え、渡していた予備の収納鞄から杖を取り出した。俺も収納鞄から杖を取り出して、準備が整ったので二人で学園に向かって歩き始めた。


「王子との喧嘩以外は大丈夫だった?」

「大丈夫ではあったんだが……」

「何があったの?」

「愛の女神に出会った。セレーナが彼女の愛し子らしい」

「え!?」


 驚愕したヴァネッサが足を止めてこちらを見つめた。


「大丈夫?? 何か変な事されなかった!?」

「なにもされなかったから心配しないでくれ。ただ、セレーナを助けて欲しいとお願いされた」

「セレーナって、この前デミトリを襲った子だよね……?」


 セレーナの名を聞いた瞬間、ヴァネッサの表情がどんどん険しくなっていく。


「……助けるの?」

「助けるとは約束はしてない。そもそも俺にどうにかできる問題でもなさそうだが……できる事はしてみると伝えた」

「襲って来た相手なのに?」

「襲われた原因がまさに相談された理由だ。愛の女神が授けた神呪のせいで、行動がおかしくなっているらしい」


 俺の説明を聞いてもヴァネッサは納得していない様子だ。考えるように地面を見つめながら杖を何回か叩いたと思うと、ゆっくりとこちらを見上げて来た。


「でも、それってデミトリに関係ないよね?」

「それは……俺自身、月の女神の神呪のせいで思考や行動がおかしくなる事があるだろう? 同じく神呪に悩まされている人間を、関係ないと切り捨てるのは気が引けた」

「似たような理由で助けてもらった私が言う資格はないかもしれないけど、私は……反対だよ」


 空いていた左手で俺の上着の裾を掴みながら、落ち着いた声色で俺を説得するようにヴァネッサが語り掛けて来た。


「愛の女神が本当の事を言ってるのかどうかも分からないんだよ? 本当にセレーナが愛の女神の愛し子かどうかも分からないし、関わるだけデミトリが損する可能性が高いんだよ?」

「……とても、嘘を言っていたようには――」

「神様は嘘を付くよ?」

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