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第261話 捨てられた令嬢の最期

 俺の問いに黙り込んでしまったフィーネが、視線を固く握った己の手に落としながら重い口を開いた。


「セレーナ……ソレイルは、婚約者が懸想してた令嬢を毒殺しようとしたって無実の罪で糾弾されたの。もちろん証拠なんて無くてただの言い掛かりだったから、ソレイルは人生で初めて抵抗したの」


 力を開放しないように、フィーネがゆっくりと言葉を区切りながら話す。


「意味が分からないと思うけど……証拠を出せない王子達の意見が一方的に認められたの。そしてソレイルは罪を認めるか、無実を証明するために決闘裁判を受けるかの二択を迫られた」


 公正さの欠片もないな……いくら何でも酷すぎる。


「何日も勾留されて着替えも許されなかったから、汚れたドレス姿のまま決闘場に連れて行かれて……渡された鈍らの短刀を手に、王子が代理として決闘に立たせた魔剣を装備した近衛騎士相手に善戦したけど、結果は……」

「すまない。それ以上は良い」


 辛そうに言葉を止めていたフィーネにそう言うと、フィーネがこちらを見上げて微笑んだ。


「ありがとう。質問に戻るけど……セレーナはあの経験が心の傷になって、理屈じゃなくて自分よりも優れた武器を持っている人間がとにかく怖いんだと思うの」

「殺されないためには武器を奪って無力化するしかないという、強迫観念のようなものか……」


 無実の罪を認めず決闘裁判に了承した位だ。セレーナが恐怖の対象から逃げるのではなく、立ち向かって排除する事を選ぶのも理由を聞いた今なら理解できる。


 いずれにせよ、授けられた神呪との嚙み合いが絶望的に悪いな……セレーナが抱えている問題の根はあまりにも深い。自分を好きになる以前に、前世と向き合う必要がありそうだが……。


「急にこんな事共有されても困るよね? ごめんね……」

「……」

「デミトリ君に声を掛けようと思ったのは、アムール人じゃないから変にセレーナを口説こうとしなくて、セレーナと対等に渡り合える強さを持ってるからだったんだけど……助けてあげるのは無理だよね……話だけでも聞いてくれてありが――」

「俺に何が出来るか分からないが、出来るだけの事は試みてみる」

「え……!?」


 俯いていたフィーネがばっと驚愕に染まった顔を上げた。


「解決できるとは約束はできないからな?」

「でも、どうして?」

「……自分の事で手一杯ではあるが、似たような境遇のセレーナを見捨ててしまったら後味が悪い」


 話を聞いてしまい、セレーナの状況に同情してしまった以上このまま放って置いたら流石に後悔するだろう。全く解決の糸口は思いつかないが、アムールに滞在中、やれることはやってみよう。


「ありがとう……!!」


――――――――


「祖国からの連絡ですか……! 分かりました、明日以降も授業を欠席する必要がある場合は改めて共有してください」

「分かりました」


 予鈴が鳴り、午後の授業の準備に取り掛かっていたデジレ教諭への報告を終えて振り向くと、最前列の席に座っていたセレーナと目が合った。


「お兄さん、午後は授業に出ないの?」

「……ああ」


 フィーネから色々と聞いた手前、どうしても返答がぎこちなくなってしまう。


「そっか、なら私も午後の授業をさぼろうかな?」

「セレーナさん、聞こえてますよ!」


 背後からデジレ教諭の不満に満ちた声が聞こえて来たが、セレーナはどこ吹く風だ。表情を一切変えず、足元に置いていた鞄を机の上に置いた。


「……セレーナ、授業には出た方が良い」

「お兄さんは私が出席してもしなくてもどうでも良いって思いそうなのに、急にどうしちゃったの?」


 ――そこまで直球に言われると中々答え辛いな……


「……学生の身なら学業に真剣に取り組むべきだと思うのは当たり前だろう」

「……?」


 ――当たり前だが、セレーナは俺の彼女に対する態度の変わり様に困惑しているな……


 デジレ教諭への報告が終わったのでそろそろ留学生寮に帰らなければいけないが、時間が経てば経つほどこう言った事は切り出し辛くなると思い、思い切ってセレーナに話しかける。


「セレーナ。謝罪をさせてくれ」

「え?」

「こちらからは名乗りもせず、今まで勝手に君の名を呼んでいた事を謝罪する。申し訳なかった。俺の事はお兄さんじゃなくて、デミトリで良い」


 驚いた様子のセレーナからの返答を待たず教室の出口に向かう。フィーネから彼女について教えてもらったが、思えば意識さえすれば彼女の行動のちぐはぐさにはもっと早く気づけたのかもしれない。


 刀狩りの真似事をして学園をさぼっている不良生徒と言う印象が強すぎて気に留めていなかったが、彼女は一度も俺の方から名乗らなかった事を律義に覚えていて、決して俺の事を名前では呼ばなかった。


 クリスチャン殿下との口論で俺が勢いに任せて説き伏せていた事にも気づいていたし、エリック殿下との問答も不自然だった。


 ほぼ授業に出席していないのに全教科で満点を取っていることもその最たる例だ。


 ――まさか、転生者だったとはな……

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― 新着の感想 ―
あー、そうだよなー。デミトリは事情を聞いてしまえばこうなるよなぁ。 ダメだこの愛の神とかいうやつ、加護とか言う呪いを与えた挙句暴走したら他力本願でデミトリに泣きつくの頭お花畑の転生ヒドイン見てるみたい…
根本的にこの世界の神々と呼ばれてる存在が駄目駄目すぎて。 世界が悪いとか言うと人のせいにしないで自分が頑張れと言われるだろうけどこの世界観ではまさに世界が悪い。
刑事的な罪に問うべきかについては権力側の都合による怠慢なんで別にどうでもいいけど、盗ったものは返さないと更生の道は遠い
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