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第257話 急な報せ

「ここに座ろっか……」

「分かりました」


 エリック殿下が選んだ二人掛けのベンチに腰を掛けると、無言で付いて来ていた件の令嬢が俺達の前に立った。彼女はエリック殿下が敢えて二人掛けのベンチを選んだ意図を汲むつもりはないらしい。


「エリックさまぁ、一緒に座りましょう?」

「コルドニエ嬢、僕は客人と先約があるんだ」

「じゃあ三人で食べましょうよ! 私お菓子を作って来たんですぅ」


 耳障りな猫なで声で間が伸びた話し方を続けているが、彼女はこれが異性にとって好ましい話し方だと本気で思っているのだろうか?


エリック殿下の話を聞く限り、少なくともクリスチャン殿下には気に入られているみたいだが……


「申し訳ないけど国家機密に値する話をするから、断らせてもらうよ」

「そんなぁ~! 頑張って作ったのに」


 ――徹底的に管理されているであろう学食ならともかく、手作りの差し入れなど作った労力など関係なく王族が毒見も無しに食べるはずがないだろう……


 エリック殿下が無言を貫いていると、食い下がっていた令嬢がごそごそと手に持っていた籠を漁り始めた。


「あ!」

「!? どうしました?」


 エリック殿下が急に大声を出したので、何事かと思い周囲を警戒する。


「シエルのご飯を買ってないと思って。二度手間になるけど食堂に戻ろう」

「シエル?」

「分かりました」

「コルドニエ嬢、失礼するよ」


 ベンチから立ち上がり、誰の話をしているのか分かっていない様子の令嬢を置き去りにして中庭を後にした。幸いな事に今回は後をついてきていないみたいだが、中庭で昼食は取れそうにもない。


「ごめんね、勝手にシエルを言い訳に使っちゃって」

「構わないが……どうする?」

「教室に戻ろう。本当は教室への学食の持ち込みは禁止だけど、僕相手なら誰も指摘しないから」


 困ったようにそう言った殿下がため息を吐いた。


「言い方は悪いが……学園平等を掲げているのにそれでいいのだろうか」

「良くはないんじゃないかな? 貴族と平民の生徒が混在する学園は、僕の知ってる限りアムール以外では存在しないけど、やっぱり難しいのかもしれないね」

「エリック殿下!」


 廊下の先から、殿下の名を呼びながらイバイが走って来る。


「イバイ、そんなに慌ててどうしたの?」

「休み時間中に申し訳ございません。定期連絡外の書簡がヴィーダ王家より届き、ご報告に参りました」

「緊急性は高そう?」

「……恐らく至急ご確認頂いた方が良いかと」


 一瞬俺の方を見てイバイが発言をためらったが、ガナディアの使節団関連の連絡が届いたのか……? イバイ達従者団の人間がエリック殿下に先んじて書簡の内容を確認するとは考えにくいが……


 封を開けずともある程度内容を把握できるような暗号があるのかもしれない。


「そっか、わざわざ報告に来てくれてありがとう。今すぐ寮に戻った方が良さそうだね」

「……デジレ教諭に次の授業を欠席する事と、事と次第によっては今日は午後の授業を欠席すると伝えておけばいいか?」

「「デミトリ『殿』??」」


 驚いた様子でエリック殿下とイバイがこちらを見たが、そんなにおかしなことを言ったつもりはない。


「急に殿下が報告も無しに授業を欠席したら騒ぎになるだろう?」

「それはそうだけど、そんな事までお願いしても良いの?」

「言っただろう? 護衛中はイバイ殿達と同じように扱ってほしいと。それぐらいの報告なら任せてくれ」


 わざわざ終業時刻を待たずにイバイが報告に来た位だ、書簡の内容は緊急性の高い内容に違いない。


「デミトリ殿、かたじけない!」

「本当に気にしないでくれ」


 イバイに感謝されたが彼の気持ちも何となくわかる。


 俺がデジレ教諭への伝言係を申し出なければ、恐らくイバイが代わりにその役を担う事になったはずだ。護衛長のような立場にあるイバイを抜きにして、書簡の内容の確認と従者団への共有をするのは二度手間になるから出来れば避けたかったのだろう。


「はぁ~迷惑を掛けちゃうね。気を遣ってくれてありがとう、デミトリ! 僕はこれからイバイと寮に戻るから、デミトリもデジレ先生への報告が済んだら寮に戻って来て」

「了解した」

「お昼休憩が終わるまでまだ時間があるから、何度も行き来する事になって申し訳ないけど、中庭でサンドイッチを食べて! 僕と一緒じゃないのに教室で学食を食べてたら、多分怒られるから」

「そうだな……分かった」

「デミトリ殿、頼みました!」


 エリック殿下とイバイを見送ってから、踵を返して中庭の方へと歩み始めた。


 ――あの令嬢がまだ居たら厄介だが……無視すればいいか。


 再び中庭へとつながる門を潜り辺りを見渡したが、石垣の裏までは見えないが人の気配がしなかった。大樹の手前まで歩き、周りに他の生徒が居ない事に安堵する。


 食堂にて学食を買った後行ったり来たりしたため、休憩時間はあと三十分と言った所だ。手近なベンチに腰を掛けて、シエルをポケットから出す。


「ピ?」

「ずっと大人しくしてて偉いぞ。昼食だ」

「ピー!」

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