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第242話 空

「問題なく従魔登録を終えファビアンからある程度魔獣の飼育方法について共有して貰った今、ヴァネッサの心配しているように国鳥を手にしたい輩に絡まれないかが今の所一番の懸念点ではあるな……」

「一番面倒そうなのは貴族様がこの子ごとデミトリを抱え込もうとすることだけど……ファビアンさんを頼るか、最悪の場合はヴィーダ王家の影って立場を明かせば断れるかな……?」


 ヴァネッサの言う通りかもしれないが、立場上難しそうだ。


「……確かに他国の王家に仕える人間をどうこうしようとするのは、それこそアムール王家の人間でも安易に行わないと思う。ただ俺とヴァネッサが王家の影である事は秘匿情報だ」

「そっか、そうだよね……」

「ヴィーダ王家の影である事を明かさなくても、アルフォンソ殿下の賓客であると言えば引き下がってくれるかもしれないが……それも公表して良いのか分からないな。エリック殿下に相談して判断を仰ぐ必要がある」


 エリック殿下にはナタリアの帰国の件も相談しなくてはいけない。まだ話したことも無い彼に負担を掛けるような事柄を、次々と抱え込んでいる事が情けない。


 ――アルフォンソ殿下には、エリック殿下が困っていたら助けて欲しいと頼まれた。アムール滞在中に何か力になれる事があれば全力で手を貸さなければいけないな……


「まぁ、なるようにしかならないしなんとかなるよ!」

「ピー!!」


 言葉は通じていないはずなのに、波長が合っていそうなヴァネッサとコルボの雛に思わず苦笑する。


「ちなみに、この子の名前はもう考えてるの?」

「ピ?」

「……考えていないな……」


 ヴァネッサの元を離れ、コルボの雛がテーブルの上を移動して俺の前で停止して見上げて来た。


「名前が無いのは可哀そうだよ!」

「そ、そうだな……」

「ピー」


 熱意と期待が籠っていそうな瞳でこちらを見る雛から目を逸らして、必死に頭を回転させる。


 ――全く思いつかない……コルボ、カラス、鳥の名前……白い羽……


「……ピーちゃんはどうだ?」


 雛の鳴き声にちなんで絞り出した名を呟いた直後、雛が後ずさりヴァネッサが激しく首を振った。


「冗談でもそんな適当な名前を付けちゃだめだよ……!」


 ――冗談で言ったつもりは無いんだが……


 出会ってから初めてヴァネッサに失望の混じった視線を送られ、余計に焦る。


「……そう言われても、コルボに相応しい名なんてすぐには思いつかない」

「それにしてもピーちゃんは酷いよ……」

「ピー……」


 あきれ顔のヴァネッサ達に耐えられず、恥ずかしさを隠す為に早口で言い訳を連ねる。


「思いつかないものは仕方がないだろう。ピーちゃん以外だと、アムール風に言うなら空にちなんでシエル位しか他に思いつかな――」

「ピー!!!!」

「シエルで良いと思うよ! この子も気に入ってるみたい!」


 ――苦し紛れだったが、前世の知識を頼りに「空」をそのままアムール風に訳しただけだと言ったら失望されそうだな……


 情けない気持ちをぐっと堪えて、テーブルの上で興奮気味に飛び跳ねるコルボの雛と向き合った。


「……お前の名前は今日からシエルだ」

「ピッ!!」


 まだ発達していない小さな翼を広げて元気よく返事したので、気に入って貰えたのだと信じたい。


「よかったね、シエル!」

「ピー!」


 ――何とかなって良かった。ヴァネッサとも仲良くできそうだし、後はナタリア達に紹介するだけだな。


 戯れるヴァネッサとシエルから視線を外し再びシエルの寝床の準備に取り掛かる。


 快適に眠れるように宿に備え付けられたクッションを寝床に使ってあげたいが、今の所シエルは排泄しておらずいつ催すのかが分からない。ちゃんとしたクッションには劣るが、汚しても良いようにこれまでの旅で台無しにした服の端切れからなるべく綺麗なものを選び簡易的な寝床を作成する。


「ピーー!」


 ある程度歪な巣のようなものが出来た段階でシエルが寝床に飛び乗った。しばらく落ち着きなく寝床の中を確認した後、小さな翼を畳み目を閉じてしまった。


「寝ちゃったね」

「普通の鳥の雛よりは大きいし元気に動き回っていたが、今日生まれたばかりだからな」


 眠ってしまったシエルをそっと持ち上げて、上着のポケットの中へと移した。


「せっかく作ってあげたのにどうして……?」

「アムールはヴィーダと比べてかなり寒いだろう? この部屋も夜が更けるとかなり冷え込む……今は大丈夫でも羽が生え揃っていないシエルが耐えられるか分からない。一応寝床は作ったが、しばらくは人肌で温めた方が良いと思う」


 ――俺がシエルの親を殺さなければ、親が体温でシエルを温めていたはずだしな……


 親を殺した張本人が親の真似事をするのはどうかと思うが、そんな事を気にしている場合ではない。保護すると決めた以上シエルの育成には最善を尽くすつもりだ。


「まさかとは思うけど……横になって寝返りを打ったらシエルを潰しちゃうから、寝ないつもりとかじゃないよね?」


 図星をつかれてしまい、視線を逸らしながらぎこちなく返答する。


「それは……座りながら仮眠を取るつもりだったから寝ない訳では――」

「もう! シエルが育つまでずっとそんな事続けてたら体を壊しちゃうよ。シエルが寝てる間安全に温めて上げられればいいんだよね? 一緒に方法を考えよう?」

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― 新着の感想 ―
ちゃんと親代わりしてるデミトリさん。悪神様もにっこり?ほっこり?
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