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第240話 テイム方法

「最初に断っておきます。コルボのテイム方法は誰にも開示しないでください」

「俺自身なぜテイム出来たのかちゃんと理解できていないし、無暗にテイムの方法を広めるつもりはないんだが……」

「ありがとうございます。そう言ってくれる方でよかった……」


 ファビアンが先程まで魔物と魔獣について熱く語っていた様子からは想像できない程曇った表情を浮かべて静かに語り出した。


「まずは魔物をテイムする方法を説明します。テイムする方法は二つです。従魔契約を可能にする祝福を授かっているのであれば従魔契約をするか、魔物と魔力を同調させて認められる事でテイムできます」


 ――祝福? 魔力を同調させて認められる……?


「すまない、どちらの方法も聞いたことが無いんだが……」

「祝福はヴィーダ出身のデミトリさんには異能と似たようなものと言えば分かりやすいかもしれません」

「異能と似た力か……」


 ――加護だけで良いだろう……


 なぜ神々が授ける力の名称を統一しないのか理解に苦しむ。


「従魔契約を行える祝福を持っていない場合、魔物をテイムするには魔力の同調を習得するしか方法はありません。非常に希少な技術なので、下手をすると祝福を持っている人間よりも魔力の同調を行える人間の方が少ないかもしれません」

「ファビアンさんは……?」

「祝福を授かっていない私は、どうしても魔物をテイムしたくて死に物狂いで魔力の同調を習得しましたが……魔力量の問題でハッちゃんの事しかテイムする事が出来ませんでした」


 ――ハッちゃん? ……帽子で、ハットか……


 ファビアンの頭の上に鎮座するミミックを眺めていると、ファビアンが説明を続けた。


「魔力を同調させる技術を習得出来たからこそギルドの専属テイマーに就任する事が出来ました。デミトリさんがコルボの雛をテイム出来ているか確認した時も、この技術を応用したんですよ?」

「そうだったのか……」


 なぜ一目見ただけでコルボの雛をテイム出来ていると判断されたのか疑問だったが、からくりは未だに分からないがしっかりとした判断基準があったと言う事に安堵する。


 ――それほど希少な技術を持った人間に認められ従魔登録したのであれば、後々結果が覆ることも無いだろう。


「さて、魔物のテイムの仕方の次は魔獣のテイムの仕方を説明します。こちらも魔物と同様でテイムの方法は二つ。一つ目は魔物と同じく従魔契約を可能にする祝福を持っている事。二つ目の方法は魔獣毎に異なっていて……条件は基本的に分かりませんし、仮にテイム方法を見つけたとしても秘匿する事が推奨されています」

「二つ目の方法が基本的に分からない……? 先程コルボのテイム方法を開示しないで欲しいと言っていたが――」


 テーブルの上で手を組みながら、ファビアンが険しい表情で問いかけて来た。


「デミトリさん、魔獣のテイム方法が公になったらどうなると思いますか?」

「そうだな……容易にテイム出来るなら―― いや、テイムの難易度に関わらず有用な魔獣であれば乱獲されるだろう。個体数の少ない魔獣であれば、最悪の場合絶滅――」


 言葉を止め、いつの間にか俺の胸の中で静かに寝息を立てて眠るコルボの雛に視線が落ちる。


「……嘆かわしい事に、他国の話になりますが過去に実際魔獣を絶滅まで追い込んだ実例があります。魔獣のテイム方法を売り捌いて、富を得ようとしたテイマーがいたんです」

「金儲けの為にテイムの方法を広めたのか……」

「ええ。テイム方法が広まってしまった魔獣は乱獲のせいで野生の個体が居なくなり、最終的には絶滅しました。絶滅を防ぐためにテイムされた個体を交配させようとしたらしいですが、人の管理下では一度も交配に成功する事は有りませんでした」


 ――前世でも繁殖方法が不明な動物がいたはずだ。条件の揃った野生の環境でなければ、繁殖することができなかったのかもしれないな……


「そして被害は魔獣の絶滅だけに留まりませんでした。魔獣が絶滅したことによって周囲の生態系が崩れ、絶滅した魔獣を天敵としていた毒を持った別の魔獣の個体数が劇的に増えてしまったんです。大量発生した毒性の魔獣によってその地域の命綱だった水源が毒に汚染され、作物も毒で育たず、大惨事に発展しました」


 ――一人の人間の欲のせいで、そこまでの事態に発展したのか……


 絶句していると、ファビアンが優しく笑った。


「その様子だと、デミトリさんがテイムの方法を広めるような事はなさそうで安心しました。今共有させて頂いた大惨事は当時国を跨いで話題になり……今では多くの国でテイム方法の流布は重罪に当たります」

「自国で同じようなことが起こったらたまったものではないだろうからな……」


 ファビアンから一通り説明を受け、ふと一つの疑問が浮かぶ。


「グリフォンのような、騎乗するために利用されている魔獣はテイムされている訳じゃないのか……?」

「本当に魔物や魔獣について造詣が深いんですね、グリフォンに関しては十中八九テイムされていないと思いますよ」

「テイムされていないのにどうして人間の言う事を聞くんだ?」

「未だに魔獣を完全に家畜化することに成功した例は聞いたことがありませんが、テイムされた魔獣程ではなくても調教次第である程度言う事を聞いてくれるのも魔獣と魔物の大きな違いです。もちろん、グリフォンのような希少な魔獣の調教方法は軍事機密として秘匿されていると思いますが」


 ――機密情報扱いか……ジステインはあれ程気軽にグリフォンを乗り回していて本当に大丈夫なのか……?


「テイムについて他に質問はありますか?」


 ファビアンの質問に答えるために、思い浮かべてしまっていたグリフォンに跨るジステインを頭の隅に追いやる。


「……魔獣と魔物の違いと、テイム方法についてはある程度理解できたと思う。俺はこれから積極的にテイムをするつもりはないから、これ以上テイムについて詳しく聞く必要はないと思うが……」

「分かりました。それでは、次は一番気になっているであろうコルボについて共有させて頂きますね」

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