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第238話 人のエゴ

「ッピ?」

「生まれたばかりなのに器用な奴だな……」

「ピッ!!」


 レミーたちと話している途中、袖の中を器用に登って襟元までたどり着いたコルボの雛を隠すのに必死だった。案内している振りにかこつけて振り返った事で、幸いにも襟元から顔を覗かせたコルボの雛には気づかなかったみたいだ。


「ピー!!」

「……」


 ――卵は割れと書いてあったが、雛の扱いについて言及はなかった……


 かなり苦しい言い訳だ。屁理屈に近い考えなのは自分でも分かっている。


 常識的に考えて討伐依頼の目的はコルボを間引くことであり、卵だけでなく巣も破壊する事が依頼されている以上ギルドに確認しても雛の殺処分は免れないだろう。


 加えてギルドでコルボの雛の扱いを相談したくても、無断で王都に魔獣を連れ込むわけにも行かない。


「……城門で質問攻めにあうだろうが……やれることはやってみるか。最悪の結果になる可能性の方が高いが……」


 ――その時は親を殺した責任として自分の手で……


「ピー?」

「勝手な都合で殺そうとして、一時の感情で助けようとする馬鹿に関わったのがお前の運の尽きってことだ。この先どう転ぶか分からないが、恨みたければ恨めばいい」

「ピッ!」


 言われている事を全く理解していない雛鳥を摘まみ上げて上着の内ポケットの中に移した。しばらくどたばたと動き回っていたが、程なくして丸まり動かなくなった。


 ――寝たのか? 起きる前にさっさと王都に戻るか……


 ギルドに相談して、仮に雛が野生に帰れるまで一時的に保護する許可が出たとしても問題は山積みだ。


 前世の知識になるが、生まれたての雛鳥が一切食事を与えられずにそう長く生き永らえるとは思えない上に魔獣の飼育方法など見当も付かない。


 餌の問題だけでなく、保護するにしても宿の許可が得られるとも思えない。


 ――「かわいそう」だからと言って今すぐ殺さず、下手に生かそうとする方が残酷かもしれないな……


 自分の愚かさに呆れながら、コルボの巣を破壊してマデランの木を目印に来た道を戻り始めた。


――――――――


 広場に到着し、定期馬車の乗り場まで雛に気付かれる事なく到達する事に成功した。


 馬車乗り場には俺以外に誰もいないが無理もない。夕刻とは言えまだ日は高いしまだ王都行の最終馬車まで大分時間があるので普通の冒険者は余程の理由でもなければこの時間に王都に帰還しないのだろう。


 ――他の乗客が居ないのは運が良いな。御者に事情を説明して断られなければいいが……


 断られた場合どうするべきか考えたが、雛の事を諦めてしまう以外の選択肢が思い浮かばなかった。


 ――俺の振る舞いは俺一人の問題じゃない。ヴァネッサやナタリア達だけでなくアルフォンソ殿下、ひいてはヴィーダ王国に迷惑を掛けかねない……


 そこまで分かっていながら森の中で雛を殺すか、逃がす選択肢を取れなかった理由は自分でも分からない。


「お待たせしました!」


 今朝と同じ御者の青年が、馬車を停めて御者台から降りて来た。


「乗客はお兄さんだけですか?」

「そうみたいだ」

「じゃあ、少しだけ待って誰も来なかったら出発しますね!」

「待ってくれ」


 確認を終え御者台に乗ろうした青年が片足だけ足場に乗せた状態で振り返った。


「えっと、どうしました?」

「確認したい事がある」


 左手を上着の内ポケットに入れて、すやすやと眠るコルボの雛を落とさないように気を付けながら御者に見せた。


「鳥の雛ですか……?」


 ――ここで嘘を付いたら後々面倒な事になるだろうな……


「コルボの雛だ。討伐依頼をこなしていたんだが、卵を割る直前に孵ってしまった」


 正直に何が起こったのか説明すると、御者の青年が驚くほど俊敏な動きですぐそばまで寄って来た。


「コルボの雛……! まさかテイムしたんですか?」

「ていむ?」


 聞き慣れない単語に首を傾げていると、御者が目を丸くしながら俺の掌の上で眠る雛に顔を近づけた。


「冒険者の中には魔物や魔獣を従える方が稀にいらっしゃいます! 従魔を従える冒険者をテイマー、その技術をテイムと呼ぶんです!」

「ぴー……?」


 何が彼の琴線に触れたのかは分からないが、興奮した御者の青年が声を張ったせいでまどろみから覚めそうになった雛を右手で覆いながら雛を乗せた左手を胸元に引き戻す。


「……テイムされた魔獣であれば、王都に連れて入っても問題ないのか?」

「はい! ただ、城門で都入りする前に手続きが必要になります。冒険者ギルドに職員として在籍してるテイマーの方に城門まで来てもらって、テイムされている事が確認されれば従魔登録をその場で行う流れになります。そこは僕に任せてください!」

「そうして貰えると助かる。お願いさせてくれ」


 ――定期馬車は引退した冒険者か研修中のギルド職員見習いが担当している事が多いとメリシアでイムランに教わったが、彼は後者なのかもしれないな。


「……それでは、俺は馬車に乗って出発を待つ事にする」

「! 分かりました……!」


 興奮冷めやらぬ様子で御者台に戻り、食い入るようにコルボの雛を盗み見る御者の青年が少し可哀そうだったが、雛をまた上着のポケットの中にしまい馬車に乗り込んだ。


 ――テイムされていると判断されるかどうか怪しいものだな……生まれた直後の刷り込みさえ成功させれば誰でもコルボをテイム出来るなら話は別だが……


 そんな事があるだろうか?


――――――――


「ピ?」

「見事にテイムされてますね……! まさかコルボのテイムに成功するとは……!!」


 城門横に備え付けられた取調室の中で、兵士に囲まれながら俺の手の上で大人しくしているコルボの雛を見た瞬間、ギルド所属のテイマーが驚きを隠せない震える声でそう宣言した。

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― 新着の感想 ―
>この先どう転ぶか分からないが、恨みたければ恨めばいい こうやって、恨まれても致し方ない、って心待ちで生きていけば、心のままに生きられるのでしょうかね。
でも現在テイム=ご飯とうんち係なのよね……
一メートル半のマスコット?
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