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第231話 刀狩りのセレーナ

「デミトリは入らないの……?」

「俺は月明かりに照らされると調子が悪くなるだろう? 今の内に外の空気を吸いたいだけだ……先に戻っていてくれ」


 自分で言っていてあまりにも不自然な物言いだと自覚しつつ、渋々ながらヴァネッサは俺を置いてパティオ・アズールに入ってくれた。


 彼女が危険から遠ざかったのに安心しながら、今来た道を振り返り追跡者と対峙する。


「一度しか言わない。お前の目的が何なのか知らないが今すぐこの場を立ち去れ。さもなくば殺す」


 ヴィセンテの剣を収納鞄から取り出すのと同時に鞘から解放し、周囲に霧を展開する。


「殺すってそんな物騒な……気づいてたんだ! 学生区で将来有望な特待生相手にそんなこと言っちゃっていいのかな? 私を傷付けたら大事になるの、分かってるでしょ?」


 桃色の長髪を揺らし挑発的な瞳でこちらを見据えながら、セレーナが利き手で握った蛇腹の剣を地面に垂らした。手入れが行き届いていないのか、刃の接続面には乾いた茶色い血痕がこびり付いている。


「平和的に話し合いで解決しようよ!」

「殺気をばら撒きながら尾行してきたお前と話す事はない。大体……その様子からして人を襲うのは今回が初めてじゃないだろう? これからやる事はただの正当防衛だ、罪に問われる謂れはない」

「へー! そこまで分かるんだ」


 獰猛な笑みを浮かべながらセレーナが姿勢を低くする。


 ――なんでこうおかしな人間とばかり出会うんだ……


 セレーナからは久しく感じなかったあの妙な違和感……強敵と対峙した時に感じる濃厚な死の予感を出会った当初から薄っすらと感じていた。


 彼女が走り去ったのと同時に違和感は途絶え勘違いだろうと思い掛けた矢先、宿屋への移動を開始してすぐに違和感が復活し俺とヴァネッサが尾行されている事に気が付いた。


「さすがに街中で殺しちゃったら私も停学じゃ済まないかも、ね!!」


 言葉とは裏腹に心底この状況を楽しんで良そうな笑みを浮かべ突進してきたセレーナの剣を受け止める。


 彼女の操る蛇腹の剣はヴィセンテの剣と衝突した勢いのまま折れ曲がり、切っ先は俺の手首を目掛けて空を切る。


 セレーナの顔はしてやったりと言わんばかりの愉悦に歪んでいたが、剣の形状を見た時から搦め手を使ってくるだろうと想定していたため防御を捨てて攻撃に転じた。


「あぐっ!?」


 まさか攻撃してくるとは思っていなかったセレーナの胴に蹴りを放ち、革鎧越しに骨が折れた感触が伝わってくる。同時に蛇腹の剣が手首に巻き付いたが致命傷には程遠い。


 ――左手に隠し持ってた短刀が本命か……。


「デミトリ殿!! 待ってくれ!!!!」

「!? ちっ……」


 パティオ・アズールから飛び出たアルセに気を取られた隙にセレーナが剣を引っ張りながら後方に飛び退いた。


 手入れが行き届いていない蛇腹の剣の荒い刃が右手首をやすりに掛け、瞬く間に肉が裂け白い骨が露になる。


 剣を左手に持ち直して氷魔法で無理やり止血しながら、苛立ちを隠せぬままセレーナを視界の端に捉えアルセの方を向く。


「アルセ殿、邪魔をしないで欲しいんだが……?」

「傷が!? ポーションを飲んでくれ! セレーナも武器を捨てて地面に伏せろ!!」


 アルセの咆哮にも似た叫びにセレーナが震えたかと思うと、思いのほか大人しく武器を捨てて素早く地面にうつぶせになった。


「痛っ!?」


 ――あばらが何本か折れているはずだ。急にそんな動作をしたら痛くて当たり前だろう……


 内心呆れながらアルセに手渡されたポーションを飲んでいると、ふわりと背後から何かを被せられた。


「ヴァネッサ……?」

「上を見て」


 まだ日が暮れていなかったため油断していた。


 ヴァネッサが被せてくれた外套の隙間から彼女が指差す方向を見ると、空には既に月が浮かんでいた。


 ――痛っ……! 馬鹿か俺は!? 冷静になれ、流石に街中で人殺しは不味いだろう……!!


 自分が何をしでかそうとしていたのかに気付き、ヴィセンテの剣を収納鞄に仕舞ながら外套のフードを深く被り月光からなるべく素肌を守る。 


「アルセ殿、ヴァネッサ、すまない……どうかしていた」

「冷静になってくれたのなら問題ない。そもそも、発端はセレーナのせいなのは事情を聞かなくても分かる」


 ――知り合いみたいだが……そうか、学友なのかもしれないな。


「あの……私もポーションが欲しい――」

「お前はすぐに傷が治るだろう!!」


 アルセに怒鳴られたセレーナが向くりと起き上がり、元々傷付いていなかったのではないかと思う程きびきびとした動きで装備の確認をし始めた。


「あー、お気に入りの鎧だったのに台無し! お兄さん弁償してよね! それか、剣を譲ってくれたら許してあげる!」


 雑にセレーナが突き出した蛇腹の剣が何かの光を反射させたのと同時に、考えるよりも先に魔法を発動していた。


「デミトリ殿、気持ちは分かるがここは私の顔を立てて矛を収めてくれ!」

「ぶはっ、何これ!?」


 アルセの声掛けに少しだけ冷静さを取り戻し、咄嗟に発動させた水牢からセレーナの顔だけを出す。


「回復魔法に相当自信があるみたいだな……まさか自分は死なないとでも思っているのか?」

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― 新着の感想 ―
>「デミトリ殿!! 待ってくれ!!!!」 攻撃されたデミトリも命がかかっていることからすると、考えられない制止。冷静なデミトリは、大人だなぁ。
処さないとずっと出てきそう
ここまでされたらもう関係ない気もするけどな
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