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第224話 似た者同士

 魔物が人の言葉を覚える謎に経緯について考えていると、遠くから馬のいななきが聞こえて来た。ハルピュイアの死体から視線を外し街道の先を見ると、馬に跨った四人の人影がこちらに向かって来ている。


 ――遠くてまだよく見えないが、冒険者か……?


「デミトリ殿?」


 馬車を守る様に前に踏み出そうとしたのと同時にアルセに声を掛けられる。


「誰かがこちらに向かってきている。俺が見てくるから、アルセ殿達は待機していてくれ」

「……分かった」


 傷はポーションで塞がったが、血を流したためまだ立ち上がれずにいたアルセが仕方が無いと言った様子で頷いたのを確認して歩を進める。


 ハルピュイア達に襲われ、街道から外れた位置で停止した馬車と街道の間に到着した頃には四人の人影はすでにすぐそこまで来ていた。先頭を走っていた冒険者が街道沿いで馬を止め、下馬してから俺の顔を見て驚愕しながら走り寄って来た。


「デニス殿!?」

「マルコスさん……!」

「アムールに来ていたのか! 久しぶりだな!」


 メリシアで出会った冒険者のマルコスがそう叫ぶと、様子を伺っていた彼の仲間のイラティ、エミリオ、そしてジェニファーも俺に気付いて近寄って来た。


「魔物に襲われたみたいだが大丈夫か?」

「幸いな事に死人は出ていません。負傷した者もポーションで傷は塞がっているので大丈夫です」

「デニスさん、念のため僕が診てあげようか?」


 ――僧侶のエミリオにアルセを診て貰えるのは有り難いが、その前にいい加減訂正しなければいけないな……


 気まずさから無意識に頬を掻きながら、咳をして喉をすっきりさせる。


「……ぜひお願いしたいです、ただ――」

「ただ?」

「今まで嘘を付いていてすみません、俺の名前はデニスじゃなくてデミトリです」


 エミリオは目を丸くしながら硬直し、マルコスは申し訳なさそうに俯き、イラティは表情を変えずにわずかに首を傾げた。三者三様の反応を示した仲間達の横で、ジェニファーが腕を組みながらため息を吐いた。


「まずは怪我人の手当てが先でしょエミリオ?」

「あ、うん!」


 我に返ったエミリオがアルセに駆け寄る傍らで、ジェニファーがこちらに向き直った。


「説明してくれるのよね?」

「はい……」


――――――――


「そう言う事だったのか……話してくれてありがとう」


 セイジの件で俺に迷惑を掛けたせいで、警戒して偽名を名乗っていたのではないかと心配していたらしいマルコスはそう言いながらほっと胸を撫で下ろした。


「色々と事情があったにせよ、申し訳ありませんでした」

「気にしないでくれ。それに私達と同じ銀級の冒険者になったんだろう? 同僚なんだ、堅苦しい言葉遣いはもうよしてくれ」

「……いいんですか?」

「もう、敬語だと距離感を感じて寂しいってはっきりと言いなさいよ」

「マルコス……照れ屋」


 ――そう思ってくれているのはありがたいが、少し可哀そうだな。


 ジェニファーとイラティの発言に顔を真っ赤にしてしまったマルコスの気を紛らわすために、トワイライトダスクの面々に話題を振る事にした。


「分かった、改めてよろしく頼む。ものすごい速度で街道を走っていたが、依頼に向かう途中だったのか?」

「話し方……マルコスと似てる」

「私達は丁度依頼が終わって王都に戻る途中だったの」

「……ハルピュイア三体を二人だけで倒すとは、ソロで銀級になったのは伊達じゃないな」


 イラティの小声のような指摘に俺も少し動揺しかけたが、マルコスが頑張って会話を続けているので気にしないように意識する。


「……そうか、足止めをしてしまってすまない。素通りせず、安否を確認してくれてありがとう」

「何もしていないから礼には及ばない」

「本当に話し方が似てるわね」

「あのな……」


 ジェニファーの横やりに溜まらず反応してしまったマルコスを横目にジェニファーとイラティが頷きあっていると、アルセの診察をしていたエミリオが戻って来た。


「デミトリさん、アルセさんは少し休めば大丈夫だよ!」

「ありがとう、エミリオ」

「お! 敬語辞めてもらうのちゃんとお願いできたんだねマルコス!」

「エミリオ!」

「なにさ、ヴィーダを出る時気にしてたじゃん!?」


 羞恥で限界を迎えたマルコスが肩を丸め俯いてしまったためイラティが背中を摩っていると、ジェニファーこちらに近寄り手招きをした。疑問に思いながらも近づき、尚も手招きをするジェニファーと視線を合わせるように屈むと静かに耳打ちして来た。


「本当はヴィーダを発つ前に挨拶をしたかったけど、前話してた護衛依頼の都合ですぐに出発する事になってマルコスはずっと気にしてたの。マルコスってなんだか知らないけど第一印象で怖がられる事が多くて……あの時迷惑を掛けたのに色眼鏡を掛けずに話してくれたあなたにお礼をしたがってたの」

「そこまで対した事はしていないが……それにマルコスは容姿が整っているじゃないか、なんで怖がられるんだ?」

「そこは私も不思議なのよね。私とイラティは普通なんだけど特に女性からの第一印象が悪くて……」


 ジェニファーが指を顎に当てながら首を傾げる。


「アムールに来てから何回も口説いてもいないのに振られてかなり凹んでたから、余計にデミトリさんに会えたのが嬉しかったんじゃないかしら?」

「さん付けは止してくれ……それにしても、マルコスも拒絶されたのか……」

「ふふ、もしかしてデミトリもそうなの? 本当に似た者同士ね」

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