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第212話 リカルドとナタリア

「こんな大変な時期にアムール旅行ですか」

「ルーベンもかなり忙しくしていると聞いた。手を煩わせてしまってすまない」

「別に迷惑だとは言ってません!!」


 ルーベンが相変わらずプンプンと怒りながら転移魔法の準備を進めるのを観察する。出会った当初神経質そうだと思った彼の顔に疲れが滲み、少しだけ痩せているように見えるのが気掛かりだ。


 ――希少な転移魔法を使える宮廷魔術士だ。今回の件で王国中に要人を転移させるために休みなく働いていると聞いていたが……想像以上に多忙を極めているみたいだな。


「デミトリ殿。ルーベン殿は事情を説明したら一週間ぶりの休みを返上してまで協力――」

「イヴァン殿!」


 イヴァンの発言はルーベンに制止されてしまったが、大体かれが言いたかった事は察した。こちらに背を向け転移魔法の準備を進めるルーベンの耳がリンゴの様に赤くなっている。


「……ありがとう、ルーベン」


 返事はなかったが、ルーベンがこちらに振り向かず片手を軽く上げてから作業に戻った。


「あの気難しいルーベン殿に好かれるとは、幽氷の悪鬼殿は中々の人たらしのようですね」

「っぐ…… ペラルタ様、できればその呼び方は――」

「ふふっ、畏まるのはやめて下さい。普段殿下と話している感じで問題ありませんよ? 茶会でも荒い口調で話してましたし」

「……私にも敬語はおやめください」


 二つ名について躱しながら俺の口調に話題を移したリカルド。彼の横で、生気の無い目で遠くを見つめていたヴィラロボス辺境伯家の令嬢が唐突に会話に参加してきた。


「立場上、そう言う訳には――」


 ――ヴィラロボス辺境伯家の令嬢がここに居るのは分かるが、なぜリカルドまで……?


 王城の応接室でルーベンとイヴァン、俺とヴァネッサ、そしてヴィラロボス伯爵家の令嬢という異色の組み合わせで集まっていたのには理由がある。


 混乱を極めている王都から陸路でアムール王国に向かうよりも、アムール王国と隣接した領地まで転移し早急に国外に出た方が良いだろうと王家が判断したのだ。


 とは言え俺とヴァネッサは他国に訪問したことが無い。国境を越えてアムール王国に入国するまでの案内人として、アムール王国の国境沿いに位置するシヴィラ辺境伯領と親交が深いヴィラロボス辺境伯家の令嬢ナタリアに白羽の矢が立った。


「あの茶会での立ち振る舞いからデミトリさんが必要に応じて顔を使い分けられることは心得ていますわ。それに……アルフォンソ殿下と対等に話す様な方が臣下である私相手に敬語を使うなんて許されません……」


 ――……なにか盛大に勘違いされているが、思えば臣下の立場からしたら主を差し置いて丁寧に話されるのは心が休まないかもしれないな……


「ナタリア、少し固くないですか? もしかして緊張しているんですか?」

「……思ってもいない事を聞かないでください、ペラルタ様」

「おや、私の愛しい婚約者はまだ私の事を名前では呼んでくれないのですか?」


 ――婚約者……?


 うろ覚えだが茶会で貴族達が順番にアルフォンソ殿下に挨拶をしていた時、リカルドはナタリアの事を婚約者として紹介していなかったはずだ。


 それに殿下はリカルドが俺と話した時は打ち合わせ済みの茶番だと種明かししたが、彼はこんな性格だっただろうか……?


 ――ナタリアの目が死んでいるのも気になるな……


「デミトリ、知り合いなの……?」

「茶会でちょっとな……婚約していたのは初耳だが――」

「私とナタリアの馴れ初めが気になりますか?」


 満面の笑みでナタリアを腕の中に収めたリカルドの興奮具合とは対照的に、まるで人形の様に彼の腕の中で揺れるナタリアに同情を禁じ得ない。ナタリアが静かに首を振っているので、あまり深入りしてほしくないのだろうと察する。


「すまない、あまり――」

「謝らなくても大丈夫です! ルーベン殿の準備が完了するまで、じっくりと説明させて頂くのも良いかもしれませんね」


 ――どうしてそうなる……


「転移の準備が整いました!」


 リカルドの惚気話を聞かずに済み、心の中でルーベンに感謝する。転移の準備の為ヴァネッサとナタリアとルーベンの前に移動したが、なぜかリカルドも付いて来た。


「……ペラルタ様、貴殿は今回同行しないはずだ」

「もちろん理解していますよ? 流石にこの状況で父とアルフォンソ殿下の政務を支えないわけにも行きません」


 それまで飄々としていたリカルドが鋭い目つきをしてこちらに寄る。


「私の愛しのナタリアの事を頼みますよ?」

「……何事も起こらない事を祈っているが、万が一何かがあったら全力で守ると約束する」


 俺とヴァネッサの渡航のために協力してくれているのだ。それぐらい当然のつもりでそう答えたが、リカルドの反応からすると合格らしい。


「ありがとうございます……ナタリア。あなたと離れ離れになるのは光の無い世界を彷徨えと言われているのと同義です。この迷える愚か者を、一日でも早くあなたの光で救ってください」

「……リカルド様。デミトリさん達を送り届けたら、王都にすぐ戻るので大げさな物言いはやめてくださいませ……」

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― 新着の感想 ―
人たらし・・・変人特化て゛発動する模様。
ナタリア嬢、カエル化したままか
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