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第209話 ガナディア王国の使者

「待たせてしまってすまない」

「気にしないでくれ、逆に休んでいる所を邪魔してしまい申し訳ない」

「何かあったのか?」

「……殿下から説明して頂いた方が良い」


 面倒事の予感を感じつつ頷き、イヴァンと共に王城に向かう。カルロスに何度も案内され、今や目を瞑っていても目的地にたどり着ける自信がある通い慣れた道を歩いているため、恐らく向かっているのは殿下の執務室だろう。


 開戦派が兵を率いて反乱を起こした矢先の為、王城内の人々は平時と比べて明らかに緊張感が高まっている。普段であれば素通り出来ていた警備兵に何度も止められながら、ようやく殿下の執務室に辿り着いた。


「久し振りだな、デミトリ」


 普段護衛に徹しているカルロス達すらも席に着きながら、大量の書類作業を黙々と進めている異様な光景に絶句する。


 ――この短時間で一体何があったんだ……?

 

「……さっき振りと言った方が正しいと思うが……大丈夫か?」

「見ての通り事後処理に追われている。イヴァン、デミトリを連れて来てくれて助かった。作業に戻ってくれ」

「……承知致しました」

「イヴァン先輩、こっちの調書をまとめるのを手伝ってください!」


 苦虫を噛み潰した様な顔でカルロスの前に山積みにされた書類を見てから、イヴァンが部屋を見渡す。比較的に書類の減りが早いマーシャに注目し、何も言わずに彼女の隣に座った。


「イヴァン先輩、ずる――」

「私語を慎めカルロス」


 今までで一番と言っていいほど威厳のある声でそう言い放ったイヴァンを呆れた表情で見ながら、殿下が俺に手招きした。殿下の執務机に歩み寄ると、机の上が見えない程の量の書類に埋め尽くされている。


「……俺は書類作業をした事がないんだが」

「手伝ってもらうために呼んだわけじゃないから安心してくれ。少し……嫌、かなり面倒な事になった」


 殿下が手に持っていた書類を横に片し、作業の手を止め俺に向き直る。


「先程報告が上がって来たんだが、ガナディア王国の使者が城塞都市エスペランザに現れた。『外交関係の修復』を目的とした使節団の入国許可を求めているらしい」

「ガナディア王国の使者……」

「彼等が勇者召喚に成功した直後の急な要求だ。ヴィーダ王国としても慎重に対応せざるを得ない」


 ――グラードフ領特有の考えか分からないが、外交なんて選択肢に上がらない程両国の関係は冷え切っているはずだが……


 溜息を吐きながら、アルフォンソ殿下が再び書類の山に視線を移す。


「ガナディアが動き出したのは、恐らく勇者召喚に成功した事に起因してると思うが……これだけ巡り合わせが悪いと王都の混乱を見越した来訪ではないかと疑ってしまう」

「今日の出来事が既にあちらに伝わっているとは考えにくいが不可解ではあるな。確か、勇者が授かる神託は戦争や政とは無関係と言っていただろう?」

「記録ではそれ以外の信託は確認されていないな……」

「そうなると勇者が信託を授かって訪問した線は無くなるが……」


『厄介な神の愛し子になると大変よ? 四六時中監視されて『導く』ために直接語り掛けてくるから」


 ――トリスティシアが言っていた事が本当なら……


「……殿下、歴代の勇者は神の愛し子だったか?」

「先代の勇者は召喚された国の守護神の愛し子だったはずだが……」

「殿下と別れた後、迎賓館に現れたトリスティシアから愛し子についてある程度説明された。愛し子に直接語り掛けて『導こう』とする神もいるらしい」


 肘を机に掛けながら、殿下が握った拳に頭を預けながら目を瞑る。


「そうか、そうなると絶妙な時期に接触をしてきたのは偶然ではないかもしれないな……と言う事でデミトリ、お前にはアムール王国に向かって貰いたい」


 殿下の急な提案に思考が追いつかない。


「アムール王国……?」

「ああ。イヴァンから報告されたが、命神の神呪の影響で命神の加護を持った人間に蛇蝎の如く嫌われるんだろ?」

「そうだな……」

「ガナディア人はみな命神の加護を授かる。当然使節団の人員も命神の加護持ちで構成されることになる。鉢合わせて問題が起こる位なら、彼等がガナディア王国に帰還するまで避難した方が安全だ」

「わざわざ国外まで出る必要はないんじゃないか?」


 特段アムールに行くことに反対ではない。しかし王都を離れるだけで事足りるような気がしたため殿下に問いかけたが、殿下は力強く首を横に振った。


「ここ最近色々とありすぎて私も認識が薄れていたが、デミトリはガナディア王国から来た亡命者だ。私の賓客だと対外的に周知してしまっている上に、幽氷の悪鬼と言う二つ名まで広まり始めているんだぞ?」


 ――あのふざけた二つ名……いつの間に殿下の耳にまで入ったんだ……?


 恐らく正式な二つ名として定着してしまうのを避けられない事実に肩を落としながら、殿下の説明に耳を傾ける。


「使節団の関係者に私の賓客がガナディア王国から来た亡命者である事、そして元グラードフ辺境伯家の人間だとバレるのは時間の問題だ。万が一お前に会いたいと願われたら、物理的に国内に居ない位の理由がないと断り切れない可能性がある」

「……わざわざそんな事を要求するだろうか?」

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― 新着の感想 ―
命神が探しているから、そっちの関係かな。あと、強い加護に神呪は絶対必要で勇者たちに神呪がないせいで不具合が出たからそれをどうにかする為かも。
命神の呪いで加護持ちには蛇蝎のごとく嫌われると説明した上で敵対行為やハラスメントをしてきた場合の報復措置やペナルティを取り決めた上でなら面会してもいいと思うけどね こっちの落ち度なく相手を責めれる手札…
お兄ちゃんがやって来る・・・神呪の無いアノ3人を連れて
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