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第194話 老騎士

 ――前廊の聖騎士達は本堂に踏み入れてないが……戦闘になったら()()で足止めは出来そうだな。問題はセイジ以外の異能部隊員の内、誰がどの異能を持っているかだが――


 ラベリーニ枢機卿と殿下が対話している隙に限られた情報で状況を整理をするのに務める。グローリアの予言通りであれば、二人の会話が終わり次第異能部隊員達との戦闘が始まるはずだ。


「はぁ~偉ぶってるやつらの会話パートってだるいだけから早くしてよ」

「……セイジ、いい加減にしろ!!」

「サミュエルさん、大声を出すと会話の邪魔ですよ……ったく、どうせ俺がすぐ序列一位になるのに先輩面するなよ……!!」

「次期教皇様の御前だぞ、口を慎め!!」

「やめておけガブリエル……あれには何を言っても無駄だ」


 ――……セイジの独り言に感謝する日が来るとはな。あの二人がサミュエルとガブリエルなら、恐らくもう一人の怒っている聖騎士がイニゴなのだろう……そうなると老騎士はセイジと同じく、死亡した三人組の代わりに補充した戦力なのか……?


 殿下とラベリーニ枢機卿が会話を中断した事にも気づかずに醜く言い争う聖騎士達の内、依然としてこちらを静かに見つめる老騎士と目が合った。熱心にこちらを観察しているが、不自然な程に敵対心を感じない眼差しに沸き立つ困惑を無視できない。


 ――……一番警戒しなければいけないのは、まだ明らかになっていない彼の異能かもしれな―― 待てよ……まさか!?


()()()もこいつらに言ってやれよ!! モブが調子に乗るなってさ!!」


 セイジの発言の直後、カズマと呼ばれた老騎士が目を瞑った。思えば、確かにあの日見たカズマの面影がある。


「……枢機卿の邪魔をするべきじゃない」

「あーあーお前もそっち側なのね、分かったよ糞ジジィ。転生チートも寿命も無くしてかわいそうだから今まで大目に見てたけど、結局お前も主人公になれないただのモブってことか!!」


 セイジの罵りに反応せず、老騎士が静かに深呼吸を繰り返す。皺だらけで白髪交じりになっているが、観察すればする程彼がカズマだと言う事に対する疑いが晴れて行く。


「死ぬ直前で搾りカスみたいな魔力しか残ってなかったから「一瞬だけ相手の視界を左右反転」させるしょぼい異能しか手に入れられなかった癖に調子に乗るなよ!?」


 ――本当に……カズマなのか……


「……セイジ、黙りなさい」

「うぐっ……」


 あれだけ好き放題話していたのにも関わらず、突然セイジの口が閉じられた。固く閉じた唇越しにくぐもった声を漏らしているが、強制的に閉じられた口からはそれ以上の発言が許されなかった。


 ――あれはラベリーニ枢機卿の異能なのか……? 力を与えるだけで、反旗を翻された時の保険がないとは思っていなかったが……


「……邪魔が入ってしまいましたね、アルフォンソ殿下。先程言った通り、聖国は――」

「御託は聞きたくない。グローリアの解呪方法を教えろ!」

「……焦る気持ちも分かります。このままでは、夕刻を迎える頃には殿下の婚約者の命の灯が消えてしまう事でしょう」


 ――殿下の演技は目を見張るものがあるな。しかし「夕刻」とは……随分と具体的だな。グローリアを射抜いた呪詛の矢と教会が関係している事を自白している様なものだが……


「彼女を救いたければ、アルフォンソ殿下とそちらのガナディア人に教会への永遠の忠誠を誓って頂く必要があります」

「断ると言ったら?」

「……愚かですね。まだ理解できていないのですね」


 慣れた手付きで枢機卿が指を鳴らすと、それまで話せない事に憤慨し暴れていたセイジを含めたすべての異能部隊員達が一糸乱れぬ動きで警戒態勢に入った。


「……自分自身に決定権だけでなく選択の余地すら無い事を理解できないのは王族だからでしょうか……お前たち、隷属魔法を施す為にはある程度精神を屈服させる必要があります。死なない程度にお相手して差し上げなさい」

「「「承知致しました、枢機卿様!」」」


 元気よく返事をした聖騎士達とは対照的に、セイジとカズマの動きはぎこちなかった。彼らが内陣から外陣に移動する隙に、腰の収納鞄から取り出した剣を殿下に手渡す。


「……こちらが武装しても特に反応がないな」

「無手で来いと指定されたが本当に従うとは思ってなかったんだろ」


 祭壇の前に並び立った異能部隊員達を見据えながら、殿下と共に防御態勢に入る。


「ここからは俺達次第だ」

「こう見えてそれなりに戦える。足手纏いにはならない」

「……二人を殺さない限り自由を許します、光神教に逆らう不届き者を教育して差し上げなさい」

「「「はい!!!!」」」

「……」

「やっと終わった! 遊ぼうよデニ―― ぶげっ!?」


 不意打ちで放った水球は残念ながらセイジにしか通用しなかった。首元を抉られたセイジの頭があり得ない方向に曲がり、まるで猟奇的な振り子のように彼の胸元ぐらぐらと揺れた後そのまま地面に倒れ伏した。


 サミュエルは攻撃を予期していたかのようにギリギリの所で水球を避けていたが、あれは恐らくグローリアの言っていた『時間を巻き戻す』異能の力だろう。危なっかしい体勢で自身に向けられた水球を避け、ついでにイニゴの首を引き彼の命も救っていた。


 自身と枢機卿とカズマを土の防壁で守り切ったガブリエルは瞬時に発動した土魔法の防壁で難なく攻撃を防がれてしまった。


 ――グローリアからガブリエルは生まれつき異能を持っていた為魔力を失っていないと聞いていたが、これ程の練度の魔法を使えるとは……

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― 新着の感想 ―
セイジ、ザマァされるまもなくあっという間に退場とは! ザコとは思ってましたがこれはw
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