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第189話 聞き覚えのある名前

 ――当然だが……怒っているな。


 なんとか魔力を制御しているが、時折暴風の様な魔力を漏らしながら殿下がグローリアを制止した。ヴィーダ王は年の功からか魔力を完全に制御できているようだが、魔王としか形容できない様な形相で歯を食いしばっている。


「開戦派を攻め滅ぼすのは明日で良いな。グローリア、その『負けイベント』とやらで私とデミトリが戦う相手の戦力について詳しく教えてくれないか?」

「……」


 怒りに満ちたアルフォンソ殿下は未来を変える決意を新たに持てたようだがグローリアはまだ二の足を踏んでいる様だ。


 ――それほどまでに、絶望的な相手なのか?


「グローリア、頼む」

「……教会で殿下達を待ち受けているのはラベリーニ枢機卿、八人の聖騎士、そして聖騎士団の異能部隊の精鋭達……『時止めのホセ』と『魔封じのアリッツ』、『固定のパブロ』、『千里眼のイニゴ』、『審判のガブリエル』……そして『奇跡のサミュエル』です」


 聞き覚えのある名前が告げられた事に驚き、一瞬思考が止まる。


「あー……ホセとアリッツとパブロは既に始末している」

「え!?」

「やはり未来は変えられるみたいだな。枢機卿が失った戦力を補充しているかもしれないが……少なくとも精鋭が半分になっているだけで大分戦い易いはず――」

「ちょっと待ってください!?」


 驚愕に満ちた表情を浮かべながら、グローリアが祈るように両手を組んだ。


「本当に倒したんですか!?」

「死体をオブレド伯爵に預けたから、殿下にも報告が上がっているはずだが――」

「デミトリが王都に到着してからしばらくしてオブレド伯爵の報告が私に届いた。その三名は確かに死亡が確認されている」

「嘘!? 本当になんとかなるかも……」


 教会側の難敵が既に倒されている事実にグローリアは希望を取り戻せた様子だ。ヴィーダ王と殿下も、未来が既に大幅に変わっている事実に安心したのか少しだけ肩の力が抜けている。


「実は一番恐ろしかったのはその三人なんです。ゲーム―― 物語では彼らの異能が一番厄介だったので」

「報告でデミトリが彼らと戦い、そして勝利した事を知った時は私も驚いた。時を止める異能、空間を固定する異能、そして魔力を封じる異能だったな……? よく倒せたな……」

「様々な偶然が重なった結果だ。同じ異能を持っている人間と再び対峙した場合勝てる自信はない……」


 あの青い毒花を見つけていなければ俺は成す術もなく捕らえられていただろう。幸いな事に今回はグローリアから事前に相手の異能を聞けそうなので、万全の状態で戦いに挑みたい。


「一体どうやって倒したんだ?」

「茶会で襲撃犯が殿下に盛ろうとしていた毒花と同じものをたまたまヴァシアの森の中で見つけた。三人に気づかれない様に花の毒を霧に混ぜて毒殺しただけで、戦って勝利したわけではない……」

「……水魔法使いがそんな芸当をするなんて聞いた事ないが……私に協力する条件として毒の手配を申し出た背景はそう言う事か」

「でも、魔法を封じられていたのにどうやって水魔法の霧を……?」


 グローリアの疑問は正しい。ここまで来てしまったら出し惜しみをせず自分の情報をすべて曝け出すべきと考え、伝えるべきことを頭の中で纏めてから説明する。


「……俺に何が出来て何ができないのか分からなければ明日対峙する異能者の対策の立てようもないだろうから、全て説明する。殿下はもう知っているが俺は神呪という呪いを複数受けている。神呪の影響で呪力が魔力に混ざり、強すぎる呪力のせいで呪いや呪物の類が効かない……グローリア様の呪詛の矢を破壊できたのも俺の呪力に呪詛の矢が耐えきれなかったからだ」

「呪詛の矢を破壊したって言ってたけどそういうことだったの……? 呪力……ゲームのデミトリは呪われてなかった……」

「神呪の一つに魔力が水に変わってしまうというものがあるんだが……呪力も同様らしい。体から放出した水となった呪力はアリッツの異能の影響を受けていなかった。あの時使ったのは霧の魔法とよく似た何かと言った方が正しいかもしれない……茶会の後、魔力が枯渇寸前の状態で使っていた魔法も魔力の代わりに呪力を代用していた」


 当たり前のように呪力を使えることを説明しているが、大丈夫なのだろうか? 前世の記憶で、呪いの類は嫌悪される認識が強かったため呪力を扱える事を説明するのは少しハラハラしたが今の所殿下達も周囲で会話に耳を傾けている護衛と王家の影の人間も表立って忌避感を現していない事に違和感を感じる。


 ――ジュリアンが言っていたみたいに、この一件が片付いたら少し呪いについて調べた方が良いかもしれないな……


「デミトリが襲われた件は私にも報告が来ていたが、何故ヴァシアの森に避難していることが発覚したんだ? グローリア、物語でもデミトリは聖騎士団の異能部隊に襲われていたのか?」


 アルフォンソ殿下が疑問に思った点は俺も気になっていた。異能で見つけられたか、あまり考えたくはないがジステインの関係者に裏切者でもいない限りヴァシアの森の中まで追跡されたことに説明が付かない。


「物語の中でデミトリが私と殿下と出会う前に聖騎士に襲われるような話はありませんでした。ただ、見つかってしまったのは『千里眼のイニゴ』の異能が原因かもしれません」

「千里眼か……」

「どれだけ離れていても、体の一部を持っていたら行方が分かる異能です」


 グローリアの説明を聞き、全員の視線が俺に集まる。何となく心配になり両手を開いては閉じ、体が五体満足であることを確認した。


「……どこも奪われていないはずだが……」

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― 新着の感想 ―
魔力の制御が甘い人がここまで多いってことは制御訓練みたいなのを国民に課してはいない感じですかね…? 王族ですらこのレベルですし。 国中で誰がいつ魔力暴走させるかわからない状況って魅了魔法以上に怖いよう…
未来を変える意味でも速攻で潰しに行った方が良さそうだが
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