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第158話 家族

 転移魔法の光が治まると、先程までの森が消えアルフォンソ殿下の執務室に戻っていた。執務机の裏で作業をしていた殿下が、こちらに気付いて手に持っていた書類を机に置く。


「随分早い帰りだったな?」

「運良く故人の知り合いに会えて、話がトントン拍子に進んだ」

「そうか。上手く事が運んだなら何よりだ……良かったな」


 協力を取り付けるための打算も勿論あるだろうが、良かったなと言う殿下の言葉に偽りはなさそうだ。


「その……急な話にも関わらず色々と融通を利かしてくれただろう? 感謝する……ルーベンも協力してくれてありがとう」

「私はついでですか! まぁ、良いですけど」


 ルーベンは口ではそう言っているものの、感謝された事に対してはまんざらでもない様子だ。


「私からも礼を言おう。ご苦労だったルーベン」

「殿下! 恐縮です……私がここに居るのは、気づかれない方が良いんですよね?」

「そうだな。用が済んだらすぐに帰すようで心苦しいが、魔術院に戻ってくれ。褒美は後日届ける」

「承知しました。それでは、失礼します」


 ルーベンが一礼して部屋を後にしたのを、アルフォンソ殿下が驚愕を隠せない様子で見届ける。


「イヴァン、今朝はあんなにつんけんしていたのに、ルーベンがやけに物分かり良くなってないか?」

「デミトリ殿が敵じゃないと理解してからは、終始協力的でしたよ?」


 イヴァンが苦笑しながらそう言うと、いつも立っている殿下の左後ろの定位置に着いた。


 ――あの場でイヴァンが聞いていた以上、俺の神呪については報告されるだろうな……


 これから行われるであろう情報共有に内心億劫さを感じていると、執務室の扉が静かに叩かれた。


「……デミトリとの予定は周知していたな?」

「関係各所には通達済みです」

「分かった……入ってくれ!」


 執務室の前で警備に当たっている護衛達は、殿下が許しを出しているため扉を叩ず勝手に入室する事を許可されているはずだ。


 ――護衛達じゃないと言う事は急な来客か……厄介事じゃなければいいが。


 室内で待機している護衛達の間にも緊張が走る。ぴりついた空気の中、執務室の扉が開いたのと同時に殿下が椅子から立ち上がった。


「グローリア!」

「急に訪問してしまい申し訳ありません、アルフォンソ様」


 アルケイド公爵令嬢の元まで駆け寄り、アルフォンソ殿下が跪いて彼女の手を取り手の甲に接吻した。


 ――金髪碧眼の王子と黒髪の公爵令嬢か……絵にはなっているが、黒髪か……


 転生者という前情報と、黒髪であるという事実に心がざわめく。


 ――まだ敵だと決まったわけじゃないんだ……落ち着け……


「君が来ると知っていたら、持て成す為に色々と準備したのに」

「アルフォンソ様、お気持ちは嬉しいですがお客人が困っています」


 アルケイド公爵令嬢の一言で我に返ったのか、アルフォンソ殿下が咳ばらいをしながら立ち上がる。


「……デミトリ、紹介が遅れてしまったな。彼女が私の婚約者、グローリア・アルケイドだ」

「グローリアです、よろしくお願いします」

「デミトリです……」


 殿下と確認が取れていないので、一応口調を外行きの物に変えておく。


「これから仲間になるんです。アルフォンソ様と話す時みたいに楽にしてください」


 満面の笑みでそう言い放つアルケイド公爵令嬢の様に、全身の血の気が引く。


 ――未来を知っているからか……? こちらの意思を考慮せず、確定事項のように仲間呼ばわりされるのは気持ちの良いものではないな……


「グローリア。来てくれたのは嬉しいが、急にどうしたんだ?」

「デミトリとお話をさせてください。出来れば、二人きりで」


 ――公爵令嬢が何を言っているんだ? そんなの許されるわけないだろう……


「未来予知の件だな……分かった! 完全に二人きりにするのは無理だが、部屋の隅の方で遮音の魔道具を使って話す形なら大丈夫だ」

「アルフォンソ様、ありがとうございます!」


 イヴァンが懐から見覚えのある懐中時計の様な物を取り出して、殿下を経由してグローリアの手に渡った。あまりに都合よく話が進み、頭を抱えたくなる衝動を必死に抑える。


「デミトリさん、こちらへ」


 部屋の隅に移動して手招きするグローリアから視線を逸らし、アルフォンソ殿下の方を見ると静かに頷いている。仕方がなくグローリアに近づくと、彼女は慣れた手つきで遮音の魔道具を発動させた。


 ――使い方を伝えられていないのに手際良いな……貴族達の間では一般的な魔道具なのか……?


 疑問に思っていると、遮音の魔道具の影響で殿下達に聞こえていないのにも関らずグローリアが小声で囁き始めた。


「デミトリ……辛かったよね? 今まで一人で、良く頑張ったね……」


 殿下達に聞こえないことをいい事に突然馴れ馴れしい態度と口調を取られ、警戒心がより一層増す。


「……何の事だ? 未来予知の件で話がしたかったんじゃないのか?」

「そうだよ? でも、先に私が君の味方だって伝えたかったんだ……もう大丈夫だから安心して? これからは、殿下と三人で家族になるからもう一人じゃないよ」


 ――何を言っているんだ、この女……

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― 新着の感想 ―
転生者は狂気の極み。
本来なら家族がキーワードなんかな?
最後の「私、わかってますアピール」、本作ではデミトリの境遇をしっかり辿ってきたからか、このアピール僕はものすごく気持ち悪い印象をうけました。 これからどうなるのか、とても楽しみです。
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