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第153話 ドルミル村

 歩いていると程なくして森の際に辿り着き、眼前に広がる平原の丘に小さな村が見えた。家屋はいずれも古びた木造りで、村の南北に伸びる塗装されていない細い道が人だけでなく物流も盛んではない寒村であることを物語っている。


「あれがドルミル村か」

「妙に人気がないように見えるが……」


 イヴァンの指摘した通り、家屋の間に広がる畑で農作業をしている人影が数人見えるが畑の規模に対して人数が少なすぎるように見える。


「……元々断るつもりでしたが、殿下からの依頼だったので一応転移の座標を確認するついでにドルミル村について少し調べました。私が確認した内容から変わりなければ、村の人口は七人のはずです」

「それにしては、やけに畑が多い気がするが……」

「食料を自給自足しつつ、定期的に作物を隣町に卸してるらしいですよ?」

「あの面積を、たった七人で!?」


 イヴァンが驚愕するのも分かる。農業に勤しんだことは無いが、あの広さは七人でどうこうできる規模ではない様に思える。


「村の規模と隣町に卸している作物の量が比例しないのをおかしく思ったアルティガス子爵が、人頭税を納めている人数をごまかしているんじゃないかと疑って調査したみたいですが結果は白だったらしいです」


 何のことも無いようにそう言い放つルーベンを、恐らく俺と同じ様に困惑しているイヴァンと共に凝視してしまった。視線に気づいたルーベンが視線を逸らしながら、早口で説明を始めた。


「急に見知らぬ村に転移して欲しいなんて怪しいじゃないですか! 気になったので財務官の知り合いに聞いただけです!」


 ――少しどころではなく、がっつり伝手を使って調べているじゃないか……


 一瞬なぜ財務官に聞いたのか理解できなかったが、幾らヴィーダ王国中の情報が集まる王都とは言え、特定の子爵領の小さな村について調べるのは骨が折れるだろう。


 そう言う意味では村の規模と主な産業について把握するなら、財務省の人間に聞くのが一番手っ取り早い方法かもしれない。


「……アルティガス子爵がわざわざ調査する程だったのか?」

「詳しい事は分かりません」

「これは殿下の護衛としてではなく、あくまで私の独り言として聞いて欲しいんだが――」


 ルーベンに質問を続けていると、横でイヴァンが前置きをしながら話始めた。


「――一度財務に目を付けられると、貴族にとってかなり面倒な事になる。不正を疑われたら徹底的に調査されるからな。他国ではどうだか分からないが、ヴィーダでは一部の貴族は王家よりも財務大臣を恐れていると揶揄される位だ」


 ――物々しい前置きだったが、とんでもない事を言っているな……


「……人頭税が少なく納められているかもしれない事が問題だったわけではなく……自領の不自然な金と物の流れを、王都の財務大臣に不審がられるのを恐れて調査と報告をしたと言う事か?」

「財務省の監査が入ったら、ドルミル村の件が白でも他に問題があれば徹底的に追及されるからな」

「貴族なんて叩いたら大なり小なり埃が出るものです」

「……今のルーベン殿の発言も、彼の独り言として扱ってやってくれ」


 疲れ切った顔をしたイヴァンの発言に小さく頷く。当のルーベンはあまり気にしていないのか、南東の方角に向き直り指差した。


「森から一直線に村に向かったら怪しまれます。あちらの道まで歩いてから村に入りましょう」





――――――――





 大周りをして辿り着いた道を進み、ようやくドルミル村に到着した。


 朽ち果てる寸前の木の柵に備え付けられた古びた門をくぐり、無人の村に踏み入れる。カテリナとヴィセンテの故郷を悪く言いたくないが、近場で見るとより一層村が寂れて見える。


「不気味ですね」

「ルーベン殿……!」


 イヴァンが小声でルーベンを窘めているが、ルーベンの発言を否定できない。元は門番が使っていたであろう、門の横の小屋に取り付けられた錆着いた風見鶏が不快な音を鳴らしながら回転している以外村から何も音が聞こえて来ないのだ。


「生活音が一切しないな……」

「ルーベン殿の言っていた通り村の人口が七人なら、先程森から見えた農作業中の人間が六名だったから今村の中には一人しかいないはずだ」

「畑に行って、挨拶しましょう」

「そうだな。何も言わず村を歩き回ったら村人も嫌だろう」


 軽く打ち合わせてから、森から見えた村の南門から一番近い人影のあった畑に三人で向かうことにした。畑に到着すると、農作業中だった人影がこちらに気付き立ち上がったのが見えた。


 畑に入らず、ゆっくりとこちらに向かってくる人影をじっと待つ。しばらくすると、ぼろぼろの半袖半ズボンの麻の服を着た血色の悪い男性が畑の中腹で立ち止まってしまった。


 虚ろな目でこちらを眺めながら、右手に持った鍬を小刻みに揺らす様は農夫と言うよりも幽鬼と呼ぶのがふさわしいとさえ思えた。


 綺麗に耕され、瑞々しい葉を成らせた作物の並ぶ畑が男性の異様さを更に際立たせている。


「……こちらから声を掛けるしかなさそうですよ」

「そうみたいだな……」

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