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第150話 人としての矜持

「オブレド伯爵の反応から察するに、王国側は教会が異能を授ける技法を持っている事を知らなかった。異能を得た方法を隠しながら、未来を予知出来る理由付けをするには転生者だと言い張った方が楽かもしれない」

「転生者でも嫌だし、そうでなくても嫌だね……」


 ――ヴァネッサは、本当に異世界人を毛嫌いしているな。


「色々な可能性が考えられるが……何となくアルケイド公爵令嬢は転生者だと思う」

「どうして?」

「アルフォンソ殿下の判断に苦言を呈しながら王が静観している事、殿下自身が妄信的に彼女を信じている事、俺達が急に王都に連れてこられた事……前話したように、誰かに取って都合がよく事が進みすぎている」

「……その誰かが婚約者さんだと思うんだ」


 ヴァネッサがソファの上でこちらに身を寄せて、右手を掴まれた。アイスの入っていた器を持っていたからか、まだ冷んやりとしているヴァネッサの手に体温を奪われる。


「それで、アルフォンソ殿下に協力する事と引き換えにあんな条件を出したの?」

「ああ」

「カテリナさんとヴィセンテさんの為にドルミル村に行くのを手配してもらうのは大賛成だよ。ずっと、気にしてたよね」


 一瞬、危険な魔力の揺らぎを感じて手を引こうとしたが恐ろしい膂力で右手がソファに固定されている。ヴァネッサを見ると、先程までソファの向かいの窓を眺めていたはずなのにいつの間にか深紅の双眸がこちらを捉えていた。


「でも、私だけ王家の影から解放するのを条件に出したのはなんで? 約束、忘れてないよね?」

「忘れてないから、落ち着いて聞いて欲しい」

「……落ち着いてるよ」

「あの場では俺の協力しか交渉の手札として持っていなかった。まずは恩返しと、ヴァネッサの自由を勝ち取るのが優先だった」

「一緒に居れないと、意味がないよね?」

「諸々片付いたら、殿下にとって俺も用済みのはずだ。色々と手を回して俺を王家の影にしたのも、今回協力させるためだろう」


 ――婚約者のためならなんでもしそうな勢いだったしな……


「……開戦派の件が片付いたら、辞めさせてもらえるって保証はないよ?」

「その時は、ヴァネッサが望むなら逃げてでも合流する。せっかく自由になったのに、俺が周りに居たら迷惑を掛けてしまいそうだが……」


 すこしだけ右手を掴む手の握力が緩み、ほっとする。


「……ドルミル村で二人への恩返しを終えたら、もうこの国に心残りはないよね? その後、一緒に逃げようよ」


 懇願するヴァネッサに、ゆっくりと首を振る。


「わがままかもしれないが……相手が義理を通している限り、約束は反故にしたくない。自分勝手に生きて、人としての矜持まで捨てたら意味がないんだ」

「……分かった」


 あまり納得はしてなさそうだったが、取り敢えずは理解は得られたようだ。


 ――散々人を殺して……自分可愛さで王子に汚い手を使ってでも事態を収束させるべきだと言った癖に、今更人としての道を踏み外したくないと思うのは手遅れかもしれないけどな……


 元々はエスペランザで世話になったジステイン達に迷惑を掛けたくないと思い、彼等に顔向けできないからとヴィーダ王家の決定に従う心づもりだったはずだ。


 状況が変わり、ヴァネッサと出会い考えが変わったのか? それとも呪いに影響されているのか……自分で自分の考えや行動が良く分からなくなってきている。


「何考えてるの?」


 握られた手を引かれ、ヴァネッサと視線を合わせる。


「……アルフォンソ殿下の行動や王家の考え、アルケイド公爵令嬢の思惑が分からないと言っておきながら……自分自身の考えもめちゃくちゃだなと思っていた」

「それが普通だと思うよ?」


 当たり前のようにそう言ってくれることに心が少し軽くなるが、漂う疑念を払拭しきれない。


「……客観的に見たら、おかしいと思うが」

「客観的に見て、何一つ考えが矛盾してなくて一切間違った行動を取らない完璧超人なんて存在しないよ? 居たとしたら、それこそ人間じゃない何かじゃない?」

「言わんとする事は分かるが……」

「自分を顧みる事ができてるから、デミトリは大丈夫。極端な例だけどセイジみたいに自分の考えが全部正しい、世界が自分を中心に回ってるって間違っても思わないでしょ?」


 セイジの事を思い出して、相当酷い表情を浮かべたのかヴァネッサが苦笑する。


「恩返しもしないで、私との約束も忘れて、一人でどこか遠くに逃げちゃうのが一番楽なの……本当は分かってるよね?」

「そんな無責任な事は絶対にしない」

「そう思ってくれるから、デミトリは大丈夫」


 ――約束を守ろうと足掻いている内は、大丈夫かもしれないな……


「……ありがとう」

「こちらこそ、約束を守ってくれようとしてくれてありがとう。もう遅いから寝よ? 歯を磨いてくるね」


 ゆっくりとソファから立ち上がり、ヴァネッサがシャワー室へと向かった。一人取り残された部屋の中で、アルフォンソ殿下から手渡された資料を取り出した。


 ――約束を守るなら、死ねない。毒も手に入った事だし異能の対策を万全にしなければ……

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