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第146話 道化

「呪い?」

「王都まで転移魔法で送ってくれたリディア氏曰く、四つ程呪いを受けてるらしい……」


 自分で言っていてなんだが、何とも言えない。呪いがヴィーダ王国でどれだけ一般的なものか分からないが、四つも呪いを受けているのはおかしな話だろう。


「その……別状は……」

「幸いなことにすぐ命に別状があるわけでは……正直言うと分からないが無いらしい」

「リディア氏に解呪は――」

「手に負えないらしいし、俺の立場上光神教に解呪を依頼するわけにも行かない」


 騎士団長が難しい顔をしながら黙り込んでしまったが、まぁそうだろうとしか言いようがない。


「一応補足するが、俺の周囲の人間には……直接的な被害は出ないと勝手に思っている。ただ、アルフォンソ殿下と行動を共にするのに反対するならそちらの判断に従う」

「そう言う訳ではありません……私もあまり詳しくはありませんが、呪いが対象者だけでなく周囲に影響すること自体稀なのは理解しているので……」

「……聞きたい事は大体聞けたか?」


 アルフォンソ殿下に質問され、チェッロ騎士団長がたじろぐ。


「いえ、まだ聞きたい事が――」

「今聞かないといけない事なのか?」


 アルフォンソ殿下の視線の先で、不機嫌そうに腕を組んでいるヴァネッサの様子を確認してチェッロ騎士団長が居住まいを直す。会話に夢中になり水浴び中に押し入った事を忘れていたらしい。


「すみません! 詳しい話をまた聞きたいので、日を改めて質問させて頂けますか?」

「アルフォンソ殿下と連携してくれれば問題ない、俺は基本的に殿下が用がない限りここで待機しているからな……」


 アルフォンソ殿下に促されてチェッロ騎士団長足早に部屋を出て、殿下もその後に続くと思いきや扉の前で停止した。


「……今日一杯で治癒魔術士が言っていた安静期間は終わるんだな?」

「そうだな、明日からは動ける」

「早速王城に来て貰う。昼前に使いを寄越すから準備だけしてくれ」


 そういうと、護衛を引き連れ後にした。急な来客で圧迫感を感じた部屋が空き、安堵を感じながら息をこぼす。


「ヴァネッサ」

「どうしたの?」

「ずっと立たせててすまない、髪も乾いてないし気持ち悪いだろう? シャワーを浴び直してくれ。終わったら、話したい事がある」


 組んでいた腕を解き、首を傾げながらヴァネッサがこちらを伺っている。


「今話しても良いよ?」

「無理させているみたいで俺が居心地悪いんだ……面倒を掛けてすまない」

「そっか……分かった」





――――――――





「おかしいと思った事??」


 シャワーを浴び終え、ソファに座りながらヴァネッサが頭を悩ませている。


「ああ、さっきの騎士団長との会話でおかしいと思った事はないか?」

「……殿下が下の名前で呼んでたし旧知の仲だと思うけど……」


 ――エリアスだったか、確かに親しい間柄じゃないと貴族は下の名前で呼び合わないな。


「それにしても、王国騎士団の騎士団長が殿下の許可を得ないでデミトリに話に来るのはおかしいと思ったよ? 殿下の許可を得ずに行動してたのは、デミトリを守るために能力を把握したいのは建前で、本当の目的は殿下を守るために力を把握したかったんじゃないかな?」

「俺もそう思った、それ以外におかしな点はなかったか?」

「うーん?」


 当たり前に違和感を感じるべき箇所には気づいているみたいだが、俺の気にしている点には気づいていないみたいだ。


「裏で話しているか分からないけど、一切殿下からお咎めがない事とか?」

「それもそうだが……」

「それ以外だと‥‥…もしかしてデミトリが襲われた件?」

「そうだ、騎士団長の地位に就いているなら把握していないのはおかしすぎる。それに、護身用の毒の件もおかしい」


 指摘され、ヴァネッサの表情が曇る。


「確かに、殿下の許可があったとしても……王国騎士団が手配するのはおかしいよね? あの感じだと、王国騎士団は私とデミトリが王家の影に所属した事を把握して無いと思う」

「ああ、あくまで俺がアルフォンソ殿下の賓客という体で会話が進んでいた。そんな人間が質問に答える交換条件に毒の手配を求めたら、いくら一国の王子が許可していてももう少し疑問に思うはずだ……」


 二人して黙り込んでしまった。騎士団長の行動も、アルフォンソ殿下の物言いも、何もかもが不可解に感じる。


「……殿下と騎士団長がグルで一芝居打っていたとか、俺達が考えすぎなだけだとか、本当に色んな可能性があるが……」

「……何を疑ってるの?」

「決闘の件もそうだが、セイジの件も……ヴィーダ王国に来てから何度も経験しているが、誰にとってとは言い切れないが都合よく、強引に話が進む事が多いんだ」


 セイジの名前を聞いて、ヴァネッサが纏う緊張感が増す。


「……都合がいいって?」

「直近で言うと、事前に俺を王都に招く話がされていたにしてもヴァネッサと一緒に王家の影にあれほどあっさりなれた事もおかしな話だ。そして王家の影になると決めたら、都合よく希少な転移魔法の使い手が王都まで送ってくれた。一緒に居たいという我儘を全面的に受け入れてもらい、今迎賓館でふたりで過ごせているのも……」


 最近の出来事を列挙しただけで、かなり違和感がある。


「……同じくらい、上手く行ってない事も多いよ?」

「ヴァネッサの言う通りだ。セイジに襲われたり、そもそも王家の影にならざるを得なかった事。王都に到着してすぐ決闘に挑まれたり決していい事ばかりじゃない」


 考えるだけでうんざりしてしまうが、これでも氷山の一角なのに辟易する。


「なんだか……誰かの敷いたレールの上を走らされてる感じがするね」

「……杞憂なら良いんだが、俺もそう感じている……」


 今まで何となく不安に思っていたことを、改めて口にしたことによって肝が冷える。


 グラードフ領からの逃亡自体色々と出来すぎていたのだ、神呪かどうか分からないがどこぞの邪神に運命を捻じ曲げられ道化を演じさせられている可能性を否めない。

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