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第145話 開示条件

「――王国騎士団の団長が滅多な事を言うな……」


 呆れるアルフォンソ殿下に怯まず、チェッロ騎士団長が言葉を紡ぎ続ける。


「――その時我々がデミトリ殿の実力を把握しておらず、上手く連携が取れなければ不用意に被害が増すだけです」

「……そこは警護対象は余計な事をせずに、王国騎士団に任せるべきだと主張するべきじゃないのか?」


 アルフォンソ殿下がどこまで王国騎士団に共有しているか分からないが、表向きは殿下の賓客のはずだ。俺が戦う前提で話が進んでいるのが腑に落ちない。


「王国騎士団の誇りに誓って、デミトリ殿に遅れを取るつもりはありませんが……万が一非常事態に陥った場合、縮地のエンツォを倒せる実力を持った方に黙って見ていろと言えるほど私も愚かではありません」

「縮地の……?」

「エンツォの二つ名だ」


 ――そういえば、光神教の聖騎士達もそんな呼び名を持っていたな……


「ガナディア王国出身のデミトリには馴染みないか、ヴィーダ王国ではある程度名の馳せた異能持ちには二つ名が与えられる」

「殿下、ある程度と言う言い方は――」

「間違ってないだろ……エンツォはああ見えて結構有名だった。短距離に限られるとは言え希少な転移魔法と同じ力を制限なく使えたからな」


 チェッロ騎士団長はアルフォンソ殿下の発言に何か引っ掛かった様子だったが、構わず話を続けた殿下に口を挟むような事はしなかった。


「デミトリも今回の件で異能を持っているのが認知されたし、二つ名を貰えるかもな」

「勘弁してくれ……」


 ただでさえラスの事が割れてしまったのが痛手なのに二つ名まで付けられてしまったら手に負えない。


 ――あの人数に見られて、今更隠し通せるはずもないか……


「……チェッロ騎士団長、能力の開示について条件が二つある」


 騎士団長は何も言わずに次の発言を待っている。何も反応しないのは、聞く前に条件を呑む事に合意したと言質を取られたくないからだろう。


「一つ目は、ヴィーダ王国で二つ名を持っている異能力者の名前と能力を教えて欲しい。今二つ名を保持している者の情報だけでなく、できれば過去の二つ名保持者についても知りたい」

「……殿下?」

「それぐらい教えても問題ない」


 ――まずは一つ目の条件はなんとかなりそうだな。


「二つ目の条件は、護身用に毒を手配してほしい」


 毒という単語を聞いた瞬間、チェッロ騎士団長だけでなく護衛達にも緊張が走ったのが分かる。


「……護身用の毒とは……?」

「そのままの意味だ。できれば即効性のある致死毒が望ましいが、所持に制限が掛かったりそもそも違法な場合は麻痺毒や睡眠薬でもいい」

「殿下の賓客とは言え、流石に毒は――」

「いいんじゃないか? 俺が許可を出す」


 難色を示していた騎士団長とは対照的に、あっけらかんとした態度で殿下が二つ目の条件を承諾してしまった。


「ですが――」

「王族を暗殺するのに使う訳じゃないんだろ?」

「そんな事はしない。二つとも条件を呑んで貰えるなら、詳しい使用用途と毒が必要な理由も説明する」

「分かりました……」


 ――渋々納得した様子だが、ちゃんと説明しないと良い毒を手配してくれそうにないな……


「交渉成立だな。取り敢えず毒の使用用途だが、俺は水魔法が使える」


 掌の上で、拳大の水球を作り浮遊させながら凍らせる。


「決闘でも見られたように水を氷に変換できる。逆に氷を水に戻すことも、水を霧に変えることも可能だ」


 氷球を水球に戻してから、ゆっくりと霧に変換して霧散させる。


「俺が光神教聖騎士団に襲われた件は、アルフォンソ殿下は知っていると思うがチェッロ騎士団長は把握しているのか?」

「何ですって⁉」


 ソファから飛び上がりそうになりながら、何とか自制したチェッロ騎士団長が確認のためアルフォンソ殿下の方を見ると殿下が頷いた。


「デミトリ、君の素性については大体の人間がもう把握してるがそういう細かいところを把握している人間は多くない。次からは、先に俺に確認してくれ」

「分かった。すまない……」


 ――王国騎士団へはジステイン経由で報告が上がっているはずだが、なんで騎士団長が知らないんだ……?


「とは言え本来であればエリアスも知っているべき情報だ……」

「申し訳ありません……」

「まぁいい、続けてくれ」

「……俺を襲ったのは『時止めのホセ』『魔封じのアリッツ』そして『固定のパブロ』の三人だ」

「異能部隊……!」


 チェッロ騎士団長は二つ名持ちの聖騎士達に心当たりがあったらしく、驚愕している。


「正直俺には開示出来るほど手札はもうない、決闘で見られた鎧と水魔法位だ。そんな俺が聖騎士に襲われて九死に一生を得られたのは毒のおかげだった。たまたま見つけて懐に忍ばせていた毒花の毒を含んだ霧を聖騎士に吸わせて倒した」

「……魔封じの異能で魔法は使えなかったのでは?」


 ――さすが騎士団長と言うべきか、鋭いな……


「……俺は元々魔法が使えなかったが、ある日突然使えるようになった。確証はないが、呪われているせいだと思う。魔力を封じられても、魔力に混じった呪力を操れば魔法が使える」

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