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第138話 王子の思惑

 他の騎士たちが微動だにせず立っているからこそ、エンツォの取り乱し方がより異様に映る。


 ――俺の事をエンツォが屑呼ばわりした辺りで、魔力が一瞬揺らいだヴァネッサが気掛かりだが……


 視線の先で悪い顔をしながら、アルフォンソ殿下が三度頷いたのが見える。


 ――何か意図があるなら、もう乗るしかないな……


「……浅学の身でヴィーダ王国の事情に詳しくなく恐縮ですが……アルフォンソ殿下が第一王子であっても、王位継承権が第一位なだけで即位する事はまだ決定していないはずですよね?」

「そうだな」

「であれば、勝手にアルフォンソ殿下を未来の王と呼ぶのは……まさか、この護衛は王よりも自分が偉いと勘違いしているんでしょうか? あの発言は、王家に反意を抱いていると捉えられても文句を言えないと思いますが?」

「黙れ!! 私の王家に対する忠誠心を愚弄するつもりか!?」


 音を立てながらエンツォが右手に装備している小手を取り外すと、主であるアルフォンソ殿下の頭上を高速で小手が舞った。今まで微動だにせず静観していた他の護衛達も流石に剣に手を伸ばし、応接室が緊張に包まれる。


 黙って小手を顔面で受け止めるつもりはなかったので片手で掴んだ瞬間、エンツォが勝ち誇った顔で雄たけびの様な声を上げた。


「受け取ったな!!!! 私と決闘をしてもらう!!!」





――――――――





「エンツォは開戦派の人間だ」


 急遽申し込まれた決闘を執り行うため騎士達の訓練場に向かう道中、アルフォンソ殿下が事も無げにそう言い放った。


「……ならなんでわざわざ護衛に任命したんだ?」

「政治的な理由だ。護衛に一人も開戦派の人間を選抜しないと色々と面倒な事になりそうだった。仕方なく護衛に任命したが、あの性格だ……王家に対する忠誠心は本物だったから今まで我慢してきたが、そろそろ解雇したいと思ってた」

「……護衛の任命権も解雇権も、アルフォンソ殿下が持っているなら普通に解雇すればいいだけじゃないか?」


 わざわざエンツォを煽って、決闘騒ぎを起こす意味が分からない。


「そう簡単な話じゃない。理由がなければ解雇できない」

「先程のエンツォの行動は、どれをとっても正当な解雇理由になると思うが……」

「正当な理由と権利があっても動けない場合があるという事だ。王子だからと言って好き勝手出来るわけじゃない。逆に王族だからこそ、権力を行使する時は人一倍厳しい目で見られる」


 ずかずかと訓練場に向かう一向を先導して歩くエンツォを険しい表情で見ながら、アルフォンソ殿下が溜息を吐く。


「エンツォは開戦派に属しているが王家に対する忠誠心は本物だ。実家はヴィーダ王国至上主義の武家で、他国を打倒して武功を立てたい開戦派と言った所だ。面倒なのは、王家に対する忠誠心からすべての問題行動を起こしている事だ」

「……忠誠心があっても、行動に問題があるなら正すか罰するかしなければ意味がないと思うが」

「本来そうあるべきだし、そうする事が出来れば苦労しない……エンツォを普通に解雇したら忠誠心のある部下をないがしろにしたと、開戦派だけでなく武を重んじる貴族家からも非難されかねない。最悪王家の支持まで落ちる可能性がある」


 ――貴族の世界は面倒だとなんとなく認識していたが、想像以上だな……人事一つでそこまでの面倒事に発展するのか……


 話しながら歩いていると、騎士達の兵舎と訓練場が見えてきた。


「以前ならそれを覚悟した上で解雇したかもしれないが、説明した通り色々と状況が変わった」

「……諸々の理由で開戦派が本格的に動き始めているからか」

「そういうことだ。今後は付け入る隙を見せたくない……かと言ってエンツォをこれ以上傍に置くのも最善ではない」


 こちらを見ながらアルフォンソ殿下がにやつく。


「と言う事で、エンツォの性格を利用して解雇しても問題ない理由を作ることにした」

「……それで決闘か? あの場でエンツォがあんな事をすると予測できたのか?」

「……俺に不利になりそうだったから揉み消したが、過去にも何回か似たような事をしでかしてる」


 ――どれだけ喧嘩っ早いんだ……


「……ガナディアから亡命している俺が第一王子の護衛と決闘なんかしたら……結果に関わらず、それこそ開戦派に付け入る隙を与えるだけじゃないのか?」

()()()があればそういったやっかみはどうとでもなる。自分から吹っ掛けた決闘に負ければ武家の貴族達もエンツォを庇わない、むしろ解雇に賛成する。加えて今回はデミトリに一切非がないだろ?」

「自分で言うのもなんだが、客観的に見てもそうだと思うが……」

「だからこそ開戦派が何か言ってきてもねじ伏せられる……むしろ下手を打ってくれたらこちらが動きやすくなる。そういう意味では、今回の件はデミトリの初仕事としてはおあつらえ向きだな」


 悪い笑顔を浮かべた後、少しだけ悲し気な表情を浮かべたアルフォンソ殿下がぎりぎり聞き取れる声量で呟く。


「忠誠心は本物だが……エンツォと彼の実家の思想は危険だ。大義の為に犠牲になってもらう」


 王族としては当たり前かもしれないがアルフォンソ殿下は個ではなく全、俯瞰して物事を捉えている。エンツォに意図的に問題を起こさせ、解雇する理由を作る事に躊躇しないのは……国の為になるなら仕方がないという考えがあるからだろう。


 ――アルフォンソ殿下の目的を果たすために、利用価値があると認識されている内は良いが……国のためにならないと判断したら、俺とヴァネッサの事も簡単に切り捨てるだろうな……

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