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第137話 舌打ち

「ヴィーダ王国の貴族は、異世界人や勇者について教育を受ける事が義務付けられている。勇者ではなくても、神々に選ばれてこの世界に招かれた者達は強力な加護や異能を授けられている場合が多いからな……」


 ――半端な力や異世界の知識を持った人間が、王家や貴族にとっては一番厄介だろう。警戒するのは当たり前だな。


「それでも、いつの世にも欲に目が眩む馬鹿がいる。歴代勇者の実力を誇張された昔話だとか、おとぎ話だと言って信じない馬鹿もな……」


 大きなため息を吐きながら、アルフォンソ殿下が疲れた顔で説明を続ける。


「勇者が召喚された事は、開戦派を叩く好機をもたらしたのと同時にヴィーダ王国にとって危機でもある。万が一戦争が始まり、勇者がヴィーダ王国に攻めてきたら尋常ではない被害が出る。そして勇者が死ぬような事があれば……魔族の脅威に民が晒される」


 ――神々が何をしたいのかが分からないな……勇者を異世界から呼び寄せずに、魔族をどうにかできないのか?


「ここまで説明したが、ちゃんとした答えはまだだったな。ヴァネッサが指摘した通り、開戦派の動きを予測できても完全に読めないのは事実だ。色々な条件が重なった今、奴らが仕掛けてくる可能性が高いと踏んでいるからこそデミトリの協力を仰いでるが……不正の証拠を掴める保証もなければ、不用意にデミトリを危険に晒すだけになるかもしれない」


 アルフォンソ殿下が、ゆっくりと頭を下げる。


「それでも俺はこの機会に賭けたい。ヴィーダ王国を、民を守るために協力してほしい」


 再び頭を下げたアルフォンソ殿下を前にして、不敬かもしれないが視線を外す。ヴァネッサの方を見ると、すでに俺の出す答えに気づいているのか表情に諦めが滲んでいる。


「……分かった、協力する」

「感謝する」


 アルフォンソ殿下の申し入れを承諾し、彼は晴れやかな表情をしているが表情の抜け落ちた顔で殿下を見ているヴァネッサが心配だ。


「二人の要望にも可能な限り寄り添えたし、かなり丸く収まったな」

「……どういうことですか?」


 困惑と怒りの滲んだ声でヴァネッサが問いかけると、アルフォンソ殿下が懐に手を伸ばし何かを探し始めた。


「デミトリは俺に付き合って貰う以上、日中は王城に来てもらったり連れまわすが……俺の賓客なら、迎賓館に泊まる理由としては十分だ。四六時中一緒にはいられないが、諸々片付くまで離れ離れになるわけでもないだろ?」

「えっ」


 先程までの険がない声色で、ヴァネッサが小さく驚く。


「他国の要人が訪れたらどうするんだ?」

「そんな予定は今の所無い。急な訪問があったとしてもその時考えれば良い」


 ようやく目当ての物を見つけたらしいアルフォンソ殿下が、鎧の意匠が施された懐中時計を二つこちらに差し出した。


「改めて王家の影にようこそ。これは二人が王家の影の人間だと証明するものだから、失くさないように気を付けてくれ」


 懐中時計を一つずつ受け取ると、アルフォンソ殿下がニルの方に向き直す。


「二人の今後の予定はまだ決まってないんだな?」

「はい」


 アルフォンソ殿下がヴァネッサの方に振り返り、真剣な眼差しで彼女の方を見る。


「デミトリが私と行動を共にして拘束される分、ヴァネッサが足りない知識を補えた方がいいだろ? 早速だが、今日から王家の影になるための指導を受けてくれ」

「……分かりました」


 再びニルの方に向き直し、アルフォンソ殿下が手短に指示を出していく。


「指導はアロアが適任だろうから彼女に任せたい。呼んできてくれ。ついでに、護衛達に部屋に戻れと伝えてくれ」

「承知しました」


 ニルが応接室を後にした事を確認してからこちらに向き直ったアルフォンソ殿下が、顎に手を当てながら考え込む。ニルが退室してから少し間をおいて、入れ替わる形で先程の護衛達が入ってきた。


「共有だ。デミトリとヴァネッサは正式に王家の影になった。デミトリに関しては、王家の影であるのと同時に私の賓客として扱う。そのつもりで接してくれ」

「「「「はっ!」」」」

「ちっ……!」


 護衛達が一同となりアルフォンソ殿下に返事した中、エンツォが舌打ちしているのがはっきりと聞こえた。エンツォからアルフォンソ殿下に視線を戻すと、こちらを見ながら頷いている。


 ――急に頷かれても、意図が分からないんだが……指摘しろと言う事か?


「……主に対して舌打ちするのは、如何なものかと思いますが」

「ちがっ―― 殿下に対してではない!!」


 これで良かったのか分からないが、エンツォが顔を真っ赤にしながら激怒している。アルフォンソ殿下に視線を戻すと、悪そうな笑みを浮かべながらもう一度短く頷いた。


「殿下に対してではなかったと言うのですか?」

「当たり前だ! 貴様が殿下の賓客になるべきではないと思っただけだ!!」


 ――それでも舌打ちはだめだろう……


「主の決定に異を唱えている時点で、殿下に対して舌打ちしたのと変わりません。護衛がその様な態度を取っていいんですか?」

「貴様……!!! 殿下、発言をお許しください!!」

「……散々許可なく発言してるが、許可する」


 ――アルフォンソ殿下は何がしたいんだ…… 


「ガナディア人は駆逐すべき悪です! 栄えあるヴィーダ王国の未来の王が、このような屑を賓客として迎えるべきではありません!!」

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― 新着の感想 ―
間抜けは見つかった様だな
「ガナディア人は……駆逐してやる! この世から……一匹残らず!」 壁を建設しなきゃ
光神教聖騎士団と同じ思想だね
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