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第131話 自覚

 今まで異能の事ばかり気にしていたが、熟練の魔術士に襲われたら太刀打ちできるのか不安になる。


 リディアは元宮廷魔術士だ。実力的にはヴィーダ王国でも最高峰に近いだろうし、少なくとも現役の宮廷魔術士は彼女と同等の実力を持っているだろう。敵ではないはずだが……開戦派に似通った実力の人間がいたらと思うと安心できない。


 ――剣技も怪しいな……俺の剣の腕前はよくて三流だろう。グラードフ領では体のいい訓練用の案山子扱いされていたから防御はある程度できるが……


 王都に転移させられ、格上に実力の差をまざまざと見せつけられてしまいなんとかなるとヴァネッサに言っていた根拠のない自信が崩れて行く。


「デミトリ、大丈夫?」


 ヴァネッサに声を掛けられて、荒くなっていた息を整える。彼女に手を引かれながら、少し離れた場所にある大樹の木陰に移動する。


「色々とあって疲れてない? ニルが帰ってくるまで、ここで休もう?」

「……そうしよう」


 大樹に背中を預けて、深呼吸する。


 ――ここ数日、毎晩精神が不安定になっていないか……?


 『ひっひ、少し見ない間に神呪が増えてるねぇ』 


 リディアに言われた言葉が頭の中で反響する。


 ――まさかな……


「どうしたの?」

「ちょっと確認したいことがある……すぐ戻る」


 大樹の木陰の端に移動して、月明かりに片腕を晒す。


 ――クソ……


 腕が照らされた途端、先程まで落ち着きを取り戻しかけていた感情が乱れ始めさっと腕を木陰の中に引く。


 ――リディアの言っていた新しい神呪……まさか月神に呪われたのか……?


 心配そうにこちらの様子を伺っていたヴァネッサの元に戻る。月明かりから離れただけで大分楽になったが、彼女に手を握られた瞬間一気に気持ちが楽になる。


 ――ふざけるのもいい加減にしろよ……


 確証はないが……直近で恨みを買った可能性がありそうなのはラスをカズマに授けた鍛冶神、セイジに異能を授けた薬神、そしてヴァネッサに加護と魔法を授けた月神位だ。月下で精神が乱れるのは、状況証拠的に月神の仕業だとしか思えない。


 月神がどういう意図で俺の事を呪ったのかは分からないが、仮にもヴァネッサに加護と魔法を与えた存在だ。彼女の為を思っての行動かも知れないが……だとしたら見当違いも甚だしい。


 ――ただでさえ魔法と加護のせいで彼女は苦しんで来たと言うのに……ヴァネッサが俺の神呪について知った時、どう思うのか考えなかったのか……?


 今までも不可解だったが、神々に対する認識がより得体の知れないものになる。神なので当然かもしれないが、人の心が無いとしか思えない。


「何を確認してたの?」

「……さっき、水滴が落ちた気がした……雨が降らないか、念のため確認した」


 苦し紛れの言い訳にヴァネッサは納得していない様子だったが、それ以上の追及は控えてくれた。彼女の為にも、神呪の事は共有したくない。


 ――残る三つの神呪は……俺がガナディアで生まれた事とあの自称神の使いの言っていた事から察するに、一つは命神の呪いだろう。何度も死に掛けているのも、神呪のせいなら説明がつく……


 神呪について考えを巡らせていると、ぽつぽつと空から水滴が落ちてきた。徐々に勢いを増していき、頭上では水が葉にぱらぱらと当たる音が鳴り響く。


「水滴が落ちたの、勘違いじゃなかったんだね」

「……そうみたいだな」


 先程までは俺が何か隠していないか疑っていた様子だったヴァネッサが、少し困った顔をしながらこちらを見た。嘘から出た実で事なきを得たが、ヴァネッサを騙していることに強い罪悪感を感じる。


 耐えられなくなりヴァネッサから視線を逸らし、地面に降り続ける小雨の方を見る。


 ――水か……魔力が水になるのは、水神にでも呪われているのか……? どこで恨みを買ったのか、全く分からないが……


 最後の神呪は、どの神に由来するのかいくら考えても心当たりがなかった。どうせ碌でもない神だろうと結論付けて、それ以上考える事を止める。


 ――呪われていても、やることは変わらない。好き勝手されて大人しく死ぬつもりはない……少なくとも約束を果たすまでは――


「おーい、待たせてすまない!」


 フード付きの外套を被ったニルが、こちらの方に駆け寄ってくる。


「まさか急に降ってくるとはな、これを使ってくれ」


 ニルが脇に抱えていた、彼が着ているものと同じ外套を俺とヴァネッサに手渡して来た。軽く水を払ってから、袖に腕を通す。


「大きさは問題ないか?」

「私は大丈夫です」

「俺も問題ない」

「それでは、早速だが移動するか」


 それほど森の奥に転移されていたわけでは無いらしく、数分ニルの後を付いて歩いていると森の端に到着した。森を出ると、綺麗に整備された芝の先に色とりどりの花が咲く庭園が現れた。


 庭園の更に先には、王城と思われる立派な城が見える。雨雲に月が遮られてしまい外観は細部まで確認できないが、かなり大きい。雨に遮られた視界の先で、明かりの灯された城内の光だけが城の窓からはっきりと見える。


「こっちだ」


 庭園を迂回しながら、城とは明らかに違う方向に歩いて行く。


「流石にこんな夜遅くに王城に連れて行くわけにも行かなくてな……今夜は迎賓館に泊まってもらう」

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― 新着の感想 ―
ヴァネッサ、ヴァネッサって、ドミトリの行動の指針がヴァネッサ第一になってて気持ち悪い。 これが月神の言う「静かに狂う」ということなのかもしれないけど、読んでて楽しくない。 ドミトリの変化がヴァネッサに…
私もヴァネッサが邪魔過ぎて、飛ばし読みするようになったからな…
とても面白かったのにヴァネッサが登場してから面白さが半減しました。戦うシーンも無いし、ラスも出てこなくなったし… そろそろヴァネッサとお別れして欲しい。
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